06. 英、呼び出しをくらう
◆千代草◆
私たちがいる屋上が、他のビル群が放つ煌めきに照らされた頃、救済課の諜報部員と医療班が駆けつけ、リョーコさんを連れて行った。別れ際、彼女は私たちに向かって深く頭を下げた。私も深く頭を下げ、芙蓉は両手を大きく振って「リョーコさん、がんばってねー!」と叫んだ。
屋上に少しだけ冷たく、乾いた秋の風が吹いた。
「ふぅー、一件落着っと。ねえ、この後みんなでご飯食べに行こうよ!」
「いいですね。そろそろお腹も空いてきましたし」
芙蓉の提案に花冠さんが賛同する。私もいい具合に空腹を感じている。今なら何を食べても美味しくいただけそうだ。それに、リョーコさんの今後について、班長に話したいことがあったのでちょうどいい。
「すまない、食事代は俺が出すから、飯は三人で行ってくれ」
「えぇ〜」
英班長が誘いをあっさり断り、芙蓉は落胆の声を漏らした。私もちょっと残念に思う。みんなで一緒にごはんを食べる機会なんて、そう多くないのだから。
「班長、何か予定がありましたか?」
花冠さんの問い掛けに、班長は頭をかいて答えた。
「千代草が戻る少し前、課長から通信が入っていたんだ。任務が終わったら会って話がしたいと」
「それはまた、随分と急ですね……何かあったのでしょうか」
「さぁな……課長の事だ。絶対に、ろくな話じゃないだろうな」
班長はため息をつきながら、物凄く嫌そうな顔をしてそう言った。じゃあ今の内にお願いしておこう。
「英班長、リョーコさんのことなんですが……」
私がそう言うと、班長は私が伝えたい言葉の続きを口にした。
「あぁ、わかってるよ……上原リョーコの頭の中から、異世界で過ごした記憶を消さないでくれって言いたいんだろ。彼女は俺達に協力してくれた。充分『優良』だ。強制学習はしない。新しい土地で人生のリスタートをしてもらう」
「本当!? ありがとう、英さん! ……あ、いや英班長!」
そう言ってくれて、私は嬉しい気持ちで胸がいっぱいになった。私は、リョーコさんの記憶の中から、アメリアが消えてしまうことが嫌だったから。
英班長は、普段はつんけんしてるけど、ちゃんと気持ちを汲んでくれるから……好き。
「流石はハナブー班長! それにしてもつまんないなぁ……蒲公英課長は空気読んで欲しい」
芙蓉は口を尖らせる。
「ま、しょうがないでしょ。それはそうと、ご飯代は班長持ちらしいので〜……今晩は焼肉かお寿司の二択になったわね♪」
そう言った私の頭の中では、牛さんと魚さんが手を繋いで嬉しそうに踊っている。
「ウチはお肉がいいなぁ〜、来られないハナブーの分も食べるよ〜!」
「花冠さんはどっちが良いですか?」
「おま二人に任せますよ」
「じゃあ焼肉に決まりねっ!」
「お、おいおい、お手柔らかに頼むぜ。班長になっても薄給なんだ」
身銭を切らない食事会となれば、当然盛り上がる。遠慮はしないのが私の礼儀だ。参加できない英班長は焦った顔を見せた。
「やれやれ……花冠。色んな意味で二人を頼んだ」
「ふふ、かしこまりました。班長、お気をつけて」
英班長は私たちを残して屋上を後にした。その後姿を、私と芙蓉は、冗談っぽく空手家のように腕を交差させ「ゴチです!」と言って見送った。
悪役令嬢パートを読んでいただきありがとうございました。次回、飯テロ!
*次回、『ねぎ塩牛タン死亡遊戯』




