38. 告白
◆千代草◆
「ど、どういう事なの?」
筍君だった目の前の少年は、自分を一柳ツキだと名乗った。蒲公英課長からの特命で、私たち英班は、元紫雲英班の荊と、一柳ツキという少女を探していたのだけれど、まさか目の前のこの子が……!?
「いつから、君は? どうして?」
何て言えばいいか分からない、理解が追いつかない。
「ん〜、困った顔も可愛いね、千代草さん。じゃあちょっとだけ教えてあげる」
ニッコリと笑う彼は、棒人間を取り出した。
「まずは……そこで倒れてる麝香さん。ボクは彼女の魂を抜いて、この棒人間に閉じ込めたんだ」
「魂を抜いたって。こ、殺したの?」
「ふふ、まだ死んでないよ。でもこのまま放っておけばいずれ死んじゃうね。でもね、ボクはそんな勿体無い殺し方はしないよ。強そうな人間を型にはめて嬲りながら殺すのはとても楽しいからね。まずは仲間を呼んで宮殿まで運ばせるよ」
そう言って彼は、私から視線を外すと誰かと通信をはじめ、相手に迎えに来るように伝えた。
「待って! どういう事なの!? 君は課長が連れてきた希少種じゃなかったの!? 一柳ツキは、女じゃないの? この世界の女王じゃないの?」
再び私に目を向けた見た彼は、嘲笑するかのような顔で答えた。
「たしかにボクは蒲公英課長に誘われて異世界転生救済課に入った。顔を整形をして、さらに乳房を切り取り、筍という男の子の救出対象者になりすましていたんだ。本当のボクは、元々この異世界の……“蜂窩”の生まれだよ。千代草さん達が住んでる世界の住人じゃないんだ」
「蜂窩の? 生まれ?」
「千代草さんも組織の末端なら蜂窩は知ってるだろ? 人間がネペンテスを使って創造した異世界は、例えるなら蜂の巣の部屋のひとつだ。誰かが異世界を創造する度に、部屋が増え続けて蜂の巣のような形に連なっている。その中心には、一番最初に作られた“女王の部屋”がある。そこがボクの生まれた世界。蜂窩だ」
「つまり……君は、元救出対象者じゃない? じゃあ宮殿にいる女王は!? この世界を創造したのは誰!?」
「今、宮殿にいるのは“蜂窩の次期女王候補”なんだ。そしてこの砂の異世界の主。名前は“砂庭ライラ”だ。ここはネペンテスで作られた世界じゃないんだよ」
砂庭……荊が課長に突きつけた、釈放を要求する人物。特異死刑囚砂庭ゴウゾウの関係者? そして、なによりも
「君はいったい、何者なの?」
「ボクは……」
彼が答えようとした時だった。彼のすぐ横の空間がたわみ、渦を形取ると中から二人の人物が現れた。
全身を布で包んだ痩せた男と、車椅子に乗った白髪の少年……その顔を見て、私の全身は一瞬にして総毛立ち、無意識に叫んだ。
「合歓ーーッ!!」
咄嗟に身構えてシロが入っているポシェットのカバーに手を掛ける。怒りが沸々と湧き上がり、ドクドクと鼓動が強く脈を打つ。強く食いしばった歯はぎしりと音を立てた。私は合歓を睨んだ。コイツは、鉄線さんの……仇だ!
「やだやだ、くきはんのひとは、ぼくをみるとすぐにこわいかおをする」
「なんだ、この小娘は合歓殿の知り合いなのか?」
合歓の余裕ある表情を見て、私は視界が狭くなるほどの怒りが込み上げ、呼吸が荒くなった。
「フーッ! フーッ! アンタ……生きてたのね! なんでここにいるのッ!?」
「まあまあ、落ち着いてよ千代草さん。これを見て」
ツキは麝香さんの魂を宿している棒人間を私に向け、枝の腕をポキっと折って見せた。
すると、私の横で力無く倒れている麝香さんの体が跳ねて、乾いた音を立てると右腕があらぬ方向へ曲がった。
「麝香さん!?」
私は彼女を抱き抱える。右腕の前腕部分が、だらしなく垂れている。
「千代草さん。大人しくしないと、次は麝香さんの首の骨をポキっと折っちゃうよ」
ツキは棒人間の首の部分を摘んで、笑顔でそう言った。
「まって! やめて! 何もしないからやめて!」
「えぇ〜、なにもしてくれないのぉ? ぼくのことをにらみつけたのに? こわかったなぁ〜あやまってほしいなぁ〜」
合歓は笑顔で私にそう言った。
「アンタたち、私に……どうしろって言うのよ」
怒りで声が震えている。
「ボクたちと一緒に宮殿に来てよ。キミには是非やってもらいたいことがあるんだ。でも、その前に」
ツキが合歓の顔を伺った。
「あやまってよ、ちよぐさちゃん。にらんでごめんなさいって……よびすてにして、ごめんなさいって。そうしないと、じゃこうさんしんじゃうかも。もちろん、ちゃんとあやまってね」
そう言われた私は、麝香さんをゆっくり寝かせると、二人に向かって砂の地面に両膝をつけた。
「土〜下〜座♪ 土〜下〜座♪」
ツキが手を叩きながら私を煽った。
……悔しくて……震えが止まらない……
砂の上に両手と頭をつけた。噛み締め続けた奥歯が痛む。
「にらみつけて、ごめんなさい……よびすてて、ごめんなさい……」
直後に、私の頭の上に、ズンと重みが乗せられた。
「おい、小娘……お前は蘇生魔法が使えるそうだな? その力、女王のために存分に使わせてやる。ありがたく思え」
細身の男が、私の頭を踏みつけてそう言った。
「なんで……そんな事を……?」
「黙って言う事を聞いておけ、小娘。キサマは何も質問はするな」
「ぷっ! 面白いね! 千代草さんは! 麝香さんのことが嫌いなのになんで? なんでそこまで出来るの? 芽生えちゃった? 仲間意識?」
「あはははは、すご〜くみっともないね。ちよぐさちゃん。じゃあ、あと100かいあやまったらゆるしてあげるよ」
三人に笑われ、悔しくて、情けなくて……涙と鼻水が止まらない。
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……───」
何度も謝り続ける私が握りしめた砂には、まだ昼間の熱が残っていた。
次話は英パート。狼達を退けた英と九鬼が辿り着いた場所とは?
*次回、『闘技場』
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