31. 傷心ドロップキック
◆英◆
「ガキが! 格好つけやがって……俺たちは、あの宮廷騎士団、『狼』所属の剣士だぜ! お前だけで何が出来る?」
「へぇ〜、どの宮廷騎士団かは知らないけど、それはいい事を聞いたな。英、さっさと片付けて情報を聞き出そう」
九鬼班長が肩をぐるぐる回し始めたので、俺は彼女を止めた。
「俺がやります。アナタはここで俺に守られていてください」
そう告げて、身体をほぐすように、何度かその場で軽くジャンプする。
「むぅ……私が売られた喧嘩なんだが……」
九鬼班長はジト目を俺に向け、不満そうに唇を尖らせた。
「アナタに喧嘩を売るってことは、俺に喧嘩を売ったのと同じだ」
トントントン……ダッ! 地面を蹴って盗賊へ飛びかかる。
俺は盗賊衆の先頭に立っている男……さっき九鬼班長に、クソカスみたいな台詞を吐いた男の顔面に、揃えた両足の裏をめり込ませた。素足だから、鼻がへし折れる感触がよく伝わった。
「ぶべぇぇ〜!」と叫びながらソイツは激しくぶっ飛び、二、三人の仲間を巻き込んで滝の外へと消えた。
「おぉ〜、ドロップキックか」
九鬼班長は、感心してくれたのか、小さく拍手を向けてくれた。
「さぁ! 死にたい奴だけかかってこい!」
啖呵を切った瞬間、盗賊たちは武器を振り上げて俺に向かってくる。
「このパンツ野郎! ぶっ殺してやる!」
「あぁ!? やってみろよ三下! 逆にブチ殺す!」
「お、おい! 本当に殺すなよぉ〜」
九鬼班長は俺にそう言うと、腕組みをして壁にもたれ掛かった。俺がやり過ぎないかだけ心配している。
俺が今回の特命で彼女を巻き込んだのは、当然、強力な戦力として頼ったのだが、もう一つ理由がある。それは、今の俺がどれだけ強くなったか見てほしかったからだ。
俺には血中に魔力を流す他に、過去に魔王として異世界転生した時に得た能力、“十二の穢悪”を使う事ができる。だが、今はこんな雑魚相手には使わない────
盗賊のサーベルを、義手の鉄腕で叩き折る。
みぞおちに膝蹴りを入れて、動けなくする。
肘打ちで顎を打ち抜き、脳を揺さぶる。
側頭部への蹴りで意識を絶つ。
義手の先端で喉を突いて呼吸を困難にさせる。
────ほぼこの動きの繰り返しだけで盗賊たちを制圧した。時間は一分も掛からなかっただろう。最後の一人を無力化させた後、残心の構えを決める。これは亡き鉄線さんの教えだ。どんな奴が相手だろうと、最後の最後まで油断はしない。
パチパチと手を叩く音が聞こえる。九鬼班長の拍手だ。
「無駄のない、洗練された動きだ。英班は追跡者との戦闘を避けていると聞いていたから、鈍っているのかと思っていたが、なかなかどうして……お前の本気が見たくなるいい動きだったぞ」
九鬼班長は自分の唇を触りながらそう言った。
「ありがとうございます。しかし、落ち着きがないですね……タバコ吸いたい症状が出てますよ」
そう指摘すると、困り顔を見せた。
「お前はホント、私のことをよく理解しているな……」
「俺は、アナタのことならなんでも理解できるし、もっと理解したい。ちなみに今は『早く馬酔木と合流してアイツからタバコをもらいたい』と、思っているのでは?」
彼女はぷっと噴き出して笑うと、右手をあげ、その手に、身の丈ほどの大きな戦斧を手品のように出現させた。
それを俺に向けてブン投げる。戦斧は回転しながら俺の横を通りすぎると、壁に当たり、ドーーンと轟音を上げた。振り向くと、戦斧の刺さった岩の近くで、俺が倒し損ねた盗賊の一人がサーベルを振り上げて立ちすくんでいた。ソイツはその光景に腰を抜かしてへたり込む。
馬鹿でかい戦斧を、片手で軽々とぶん投げる人間を目の当たりにしたんだ。そのリアクションは正しい。
「大・正・解♪」
ニッコリと微笑む彼女の顔を見て、胸が痛んだ。
俺はまだ、子ども扱いか……
「さて、通信が不可能となった今、私たちの足元でうずくまる彼らと友好的な関係を結び、宮殿への案内をしてもらおうじゃないか」
九鬼班長はそう言って倒れた一人の盗賊を見下ろし、手を差し伸べた。
「仲良くしましょ♡」
軽い台詞に聞こえたが、彼女の顔に笑みは無く、冷たく見下ろしていた。
「は、はい」盗賊は震えながらそう答えた。
次話は花冠と馬酔木……二人に最大の危機が迫る。
*次回、『超長距離射撃』




