29. 蟻さんに囲まれる
◆千代草◆
「あ、蟻ッ!?」
黒光りする集団はたちまち私たちを取り囲んだ。赤い目でこちらをずっと見据え、ハサミの口をカチカチと鳴らして威嚇する。
「へぇ〜、コイツら、天敵のアリジゴクが死んだ途端にワラワラと集まりやがって、凄い嗅覚じゃねぇかよ」
この後に及んでまだ楽しそうな顔をする麝香さんに嫌気が差した。この数を相手に戦うつもりなのだろう。
「麝香さん! 一旦休戦しましょう! まずはここから逃げ……!」
自分でそう言って途中で気づいた。筍君は!? 彼を見捨て逃げられない!
「逃げんのかよ? あのガキ様をここに置いて」
くっ! ……仕方ない!
「シロ! 出ておいで!」
斜め掛けの白いポシェットの蓋をめくると、小さな開口部から、ぬっと真っ白なドラゴンが飛び出す。幼体だけど小型のダンプカーほどの大きさだ。
シロはグルルと喉を鳴らして蟻の群れを一通り睨んで威嚇すると、次に麝香さんを睨んだ。両の前足を地面につけて身を屈め、いつでも彼女へ向かって飛び掛かれる姿勢になった。
「違う! そっちじゃない! シロ! 筍君の匂いを探して!」
私の口から流れてる血が、麝香さんの攻撃によるものだと気づいているんだ。
「おいおい〜、コイツ様は躾がなってねぇなぁ、誰様を睨んでんだよ?」
麝香さんがまたチェーンを振り回しはじめた。
「お願い! やめて!」
牙を剥き出しにして唸るシロにしがみつく。なにひとつ自分の思い通りにならなくて、悔しくて泣きそうになった。こんな時、英さんなら、九鬼班長ならどうするのだろう……そう思っていた時、蟻の群れの一角が崩れた。
ドドーーン!
突然、洞窟奥からアリジゴクが現れたのだ。
「なんだぁ!? さっき死んだヤツの番かぁ?」
二匹目のアリジゴクは蟻達を角で次々と蹴散らしていく。思わぬ天敵の登場に、蟻たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。アリジゴクはそれを追って洞窟の暗闇へと消えた。
取り残された私たちは、呆然とその姿を見て立ちすくむ。
………助かった? でも、どこから現れたの?
「みなさん、だ、大丈夫ですか?」
声のする方を見ると、砂にまみれた筍君が立っていた。
「筍君! 大丈夫!?」
私は慌てて彼に駆け寄り、体についた砂を手でパシパシと払った。
「痛むところはない!? 怪我は!?」
「僕は大丈夫です、それより、無事でよかった」
彼は胸に手を当て、文字通り胸を撫で下ろした。
「さっきのアリジゴク様はぁ、ありゃお前様の能力か? 魔力っぽい匂いがしたぜぇ」
麝香さんがそう言った。たしかに、この場に魔力の残滓が感じられる。
「そうです、僕の棒人間で、そこのアリジゴクをコピーして発動させました」
「凄い……」
思わずそう呟いていた。
「ありがとう! 筍君! キミ、凄いよ!」
私は彼の両肩を正面から掴んで喜んだ。筍君は恥ずかしそうに頬を指で掻く。
「んで? コイツはどーすんだよ? 千代草様ァ」
麝香さんは自分に向かって唸り続けるシロを指差している。私は一度、ゆっくり深呼吸する……
そしてもう一度、今度は両腕を広げて深呼吸した。
「……ごめんなさい、麝香さん。やっぱり私は貴女とは合わないし、貴女の事が嫌いです。しかも大ッ嫌いです」
「おぉ、言うじゃねーか?」
彼女は腕組みをして、私を見据えている。
「それでも! ……この任務には貴女の力が必要不可欠なんです! だから、一旦私たちと手を組んで下さい……お願いします!」
頭を下げて手を差し出した。すると、シロが唸るのをやめ、静かになる。
……「チッ」
舌打ちが聞こえ、ドキっとした。また殴られたらどうしようと考えて、空いている方の腕でお腹を守る。
パン!
差し出していた手が軽快な音を鳴らした。彼女に軽く叩かれたんだ。
「今回だけ……だぜぇ」
顔を上げて目を合わせると、彼女はプイっと背中を向けた。ちゃんと気持ちを伝えれば、分かってくれる人なのかな? それに……もしかして、この人、ちょっと照れてる?
そう思った時、麝香さんが耳に手を当てた。
「アタイ様だぁ、どした? 馬酔木様ぁ?」
あ、なんだ、通信か……そうだ! 他のメンバーに連絡しなきゃ!
私は耳に装着している通信機を使い、英班長へ繋いだ。しかし、返事はなかった。耳の中は無音の状態。まるで電源が入っていないかのようだった。
「あれ? こんな時に故障したの!? 筍君! 通信機、使える?」
筍君は耳に手を当てて通信機を触ったけれど、不安げな顔で首を横に振った。
──「わかった……後で」
麝香さんが通信を終え、彼女は振り返ると私にこう告げた。
「花冠様が荊様に撃たれて死にそうだ。あいつら様と合流するぞ」
それを聞いて私の鼓動が大きく跳ねた。
次話からは英パートです。滝壺に落ちてしまった英と九鬼。二人の運命は……?
*次回、『ハートブレイク滝の裏』
★とかブクマとかリアクションが欲しいお年頃です。
♪( ´▽`)




