27 千代草《ちよぐさ》と麝香《じゃこう》
時間は、花冠が荊に狙撃される少し前に遡る……
砂の異世界、千代草パート。
◆千代草◆
瞼の裏にまで届いていた強烈な光が弱まり、転送が終わったと思った瞬間、下半身が締めつけられるような重さを覚えた。身動きが取れない。目を開けると体の半分が砂に埋まってしまっていることに気づく。
「あれ!? なんで!? なんでっ!?」
慌てて周りを見渡す。少し離れた場所に、筍君と麝香さんの姿がある。私と同じように体が砂に埋もれていた。
「うお! なんだぁこりゃあ?」
「う、うわぁぁ〜!!」
二人も私と同じく状況が理解できていない。
黄金色のサラサラとした砂に埋まった体が流されている。頭上を見上げると青い空が見える。でも目線の高さは砂の壁で覆われている。壁はかなりの高さがあった。
体がドンドン斜め下に流されて行く。その先を見ると周囲から集まる砂が中央の一点に集まって消えて行くのが分かった。私たちは今、すり鉢に似た、円錐形の砂の中に居るんだ。
「おい! 千代草様ァ! この先はアリ地獄かも知れねぇ! お前様はペットのドラゴン様を出してそっちのガキ様を連れてここから飛んで出ろ!」
麝香さんがそう言ってくれたけど……
「無理です! シロはまだ子どもだから飛べません!」
「あぁ!? 使えねぇペット飼ってんじゃねぇぞ!」
……あぁこの人、ホント嫌い……
「うわぁ! たす、助けてぇ!!」
筍君は必死に登ろうとしているけど、逆に砂に飲まれて行く。
「あぁ〜クソ!! どうせあの先にアリジゴクみたいな虫様がいるだろぉ? 先にぶっ殺してやるぜぇ!!」
麝香さんは刃が沢山取り付けてあるチェーンと、薄っぺらい四角い形の鞄を取り出して二つを括り付ける。
「な、なにをしてるんですか!?」
「黙って見てなぁ! オラオラオラオラ!!」
チェーンを持って鞄を振り回す。ブンブンと風を切る音を立てながら、遠心力で鞄はどんどん加速する。風が起こり、砂が舞い上がる。
中心部が目前に迫ると、そこから二本のギザギザしたハサミが伸び出た。続けて瞳を紫に光らせた巨大な昆虫の頭が姿を現す。
「ほらな! デケェのが出やがったぜぇ!」
麝香さんが嬉しそうに笑みを浮かべる。彼女のギザギザの歯は、アリジゴクの牙よりも凶暴そうに見えた。
「死ねぇぇーーッ!! ゴミ虫ぃいーー!」
振り回していた鞄を、アリジコク目掛けて落とす。
ドドォォォーーーーーーーン!!!!
「きゃあぁぁぁーー!」
アリジゴクの頭が潰れ、体液のような物が砂と爆風にまみれて弾け飛ぶ。思わず目を閉じる。とんでもない威力で一瞬、体が浮いた気がした。
舞い上がった砂ぼこりを手で払いながらゆっくり目を開けると、ハサミの部分と頭がひん曲がったアリジゴクは、自らが作った砂の渦に飲まれて消えた。……一撃で仕留めたんだ。
「しゃあぁーー!! アタイ様の勝ちだぁ!」
麝香さんは子供のように喜び、勝ち誇った。でも……
「ここから出られないんじゃ意味がない!」
私がそう叫ぶと、
「あぁ、そっか……じゃあまぁ後はどうにでもなれだなぁ……死んだら残念、生きてりゃラッキーってなモンだ」
妙に達観した態度で腕組みをしている。この人はもう、ただ飲まれるのを待つ気だ。筍君は!?
さっきまで彼が居た場所に人の気配は無かった。
「筍君! どこ!? 返事して!!」
「あ〜、先に落ちたんじゃねぇか? ま、アタイ様たちもすぐに落ちっからいいじゃねえか、ひゃっひゃっひゃ」
笑ってる場合か! 叫ぼうとした時、体はズボッと一気に埋まった。目を閉じ、慌てて両手で口を塞ぐ。
このままだと死んじゃう! 英さん! 助けてッ!
そう強く願っても、どうにも身動きが取れないまま、体は深く沈んで行く。もうダメだと思っていたが、体が軽くなり、落下する感覚に襲われた。
「きゃあ!」
バスッ! 少し落ちた先で体は何かの上で跳ね、その後、転がり落ちた。
ゆっくり瞼を開くと、目の前にはさっき麝香さんが倒したアリジゴクが倒れていた。わたしはその横に居る。体に着いた砂を払いとり、立ち上がって周りを見渡すと、そこは薄暗い洞窟だった。天井からはところどころ細い線状の明かりが差し込んでいる。静かだけど、砂が流れる音だけ耳に届く。
「よっと」
やがて麝香さんも、アリジゴクの死体の上に降り立った。
「お、ラッキー♪中は空洞じゃん」
そう言って頭を振って髪についた砂を払い、体に着いた砂をパンパンと手で払い落とした。そして口の中の砂をペッペと吐き出す。
私と麝香さんは、二人とも別の方向を見ている。私たちの間にしばし沈黙が流れる。
………
ビュンッ!!
バシーーーーーン!!
麝香さんが振ったチェーンが、私の顔の前を通り過ぎると、アリジゴクの死体に当たり、硬い体に傷を付けた。
「お? やるじゃねーか、千代草様ァ」
彼女は、さっきアリジゴクと戦っている時と同じような笑みを私に向けている。
私は攻撃される前に、すでにオリジナルの保護魔法、“好き避け”を展開させていた。これにより、どんな攻撃も私に当てることは不可能になる。
「絶対そうくると思ってた!!」
私は強く麝香さんを睨む。
「へへへ〜さぁ、あの日の続き……やろうかぁ?」
麝香さんはギザ歯の隙間から、ピアスが付いた舌を見せた。
突然始まった千代草麝香の戦い……決着の行方は……!?
*次回、『千代草vs麝香』
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