25 いざ!砂漠の異世界へ!
◆英◆
「囮を作るぅ?……んだそりゃ?」
麝香が首を傾げる。
俺は筍の背中に手を当て、少し前に出る様に促した。
「ええ、囮です……実は彼も、俺や千代草と同じく希少種なんですよ。救出対象者として救出された後、一度は異世界生活での記憶を改竄されましたが、後発的にチート能力に目覚め、記憶も復活してしまったのです」
「それで……ソイツが何の役に立つんだ?……ド新人だろ?」
馬酔木は顎で筍を指す。サングラスの奥で冷たい目を向けているのが分かる。
「ぼ、僕の能力は棒人間……ドゥードゥルを作ることです!」
馬酔木の視線に怖気つつも、筍は大きな声で自身の能力を開示した。
「棒人間……? お人形遊びが僕ちゃんの能力なのかい……?」
「馬酔木さん、聞いてあげてください」
千代草が筍をフォローする。
「僕が魔力を込めて作った棒人間に、皆さんの情報をインプットすると、皆さんのコピー人形を作れるのです」
筍は懐から、手のひらに収まる大きさの、木の枝と麻紐で組んだ簡素な人形を取り出した。
「これが棒人間?」
九鬼班長が覗き込む。筍との距離がやたら近い。この人は昔から、他人のパーソナルスペースに簡単に踏み込んでしまう癖がある。
筍は赤面し、言葉に詰まってしまったので、代わりに俺が繋げる。
「そうです。俺たちはもうすでに筍から棒人間を一体ずつもらっています。異世界へ到着したらすぐに使うので、三人にも用意します。まずは筍の手を握ってください」
「じゃあアタイ様からぁ〜」
麝香が九鬼班長を押し退けて筍の空いたほうの手を握る。
「で、では……行きますよ…………陽を浴びず闇を穿つ御霊へ言上つかまつる……」
筍が目を閉じて詠唱する。
「ぎゃっはっは〜! 厨二っぽいな、お前様ァ〜! アニメとか漫画とか好きだろ?」
麝香は笑って茶化す。筍が自分の胸に当てていた棒人間から黒い蒸気のような物が立ち上がった。
「……かしこみ、かしこみもうす……」
古くから極東の国へ伝わる祈りの言葉に似た詠唱を済ませると、筍は棒人間を麝香に渡した。
「あん? これで終いかぁ?」
「は、はい」
麝香は棒人間をひょいと摘み上げると、まじまじと観察する。
「それは囮に使うので無くさないように持っていて下さい」
俺はそう言うと、次は馬酔木に棒人間を作らせ、最後に九鬼班長にも作らせる。
九鬼班長が筍の手を握り、目を合わせた時だった。
「筍君……キミとは昔、何処かで会った気がするんだが……」
「い、いえ、初めて、だと思います……」
筍は緊張気味に答えた。
「おいおい九鬼様よぉ、お前様は若い男が好きなんかぁ? 英様がヤキモチ妬いてんぞぉ〜」
麝香が悪い顔で横槍を入れる。
コイツ、ガキかよ……なんて事言いやがる。
「馬鹿言え、これは私の記憶違いだ。それに英とはそんな関係じゃないぞ」
キッパリ否定されると、それはそれで……
……効くぜ
全員分の棒人間を作り終えた頃、ちょうど約束の時間になった。蒲公英課長へ向けられた一柳ツキの未来死の能力発動まで残り四十八時間……
紫雲英の除籍まで、それも残り四十八時間だ。
俺、千代草、筍、花冠、馬酔木、麝香、九鬼班長の七人は鳥居の前で輪になった。いつでも出発できる。空の雲は消え、いつの間にか太陽は姿を現している。
俺は一度だけ大きく深呼吸をした。
「では……紫雲英苔桃救出作戦、開始ッ!!」
バシュッ!!
俺たちの輪の中心が眩く光り、体が宙に浮かぶ感覚が訪れる。遠くで芙蓉がいってらっしゃいと叫ぶ声が聞こえた。強烈な光は、瞼を閉じていても防ぎきれないほどだ。
だが、それも一瞬の出来事だ。すぐに異世界へ到着する。
俺は……
俺の体は……
ざぶんっ!!
冷たい水の中に放り込まれた!?
「ぶはっ!!」
何だコレ!? 水?! 砂漠の異世界じゃないのか!? 塩っぱくない! 海ではないのは分かった。
強烈な水流に体はどんどん流されている。足はつく。深さはそれほどではない。水面に顔を出すと自分が今何処にいるのか瞬時に理解した。四十〜五十メートル程の幅がある川の真ん中で流されていてる。
立ちあがろうとしたが、流れが強すぎる。自身の血中に魔力を流し込み、身体能力の底上げを図ろうとした瞬間だった。みぞおち辺りに痛みが走る。水中にある岩にぶつかったのだ。思わず呼吸が止まり、体を丸めてしまった。
なんとか顔を上げ、酸素を求めて大きく口を開けると、水のゆく先が途切れている事に気づき、耳は轟音を捉えた。この先は……
「滝だっ!!」
水中で踏ん張ろうとしたが、体は流される。他のみんなは何処だ!? ここには俺だけか!?
「千代草! 居るかッ!?」
そう叫んだつもりだったが、水を飲んでしまった。
痛む身体がふわりと宙に舞った。俺は滝から落ちたんだ。
ヤバい! 死ぬっ!?
そう直感した。しかし、誰かが俺の名前を呼んだ気がする……
「英ぁぁぁーー!!」
目の前にいるのは九鬼班長だ。彼女もまた、滝から落ちたのだろう……
俺に向けて手を伸ばす彼女の姿を最後に、俺の意識は暗闇へ落ちた。
*次回、『花冠と馬酔木』




