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異世界転生救済課─「お前を、この異世界から排除《ドレイン》する……」【フォーニーファミーリア】  作者: ねず ただひま
事予則立の章

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24 合同班、動く。

はなぶさ



 俺たちはなぶさ班が、集合場所である西関東のとある神社の境内に到着した頃、昨日の夜から降り始めた雨は止み、雲の合間から僅かに陽の光が差し込んでいた。

 約束の時間である正午より、一時間も早かったがこれぐらいが丁度良い。


 今はまだ、諜報部員たちがここを『ポイントR』にするために忙しなく機器を設営している最中だ。俺たちはこの場所から異世界へ向かい、そして帰還する。仮の本部になる訳だ。


 この神社は数十年前から禁足地に指定されている。足を踏み入れることが許されるのは、政府関係者のごく一部の人間だけ。つまり、外界の目は気にしなくていいということになる。


「なんだかいつもより大掛かりだねぇ、ハナブー班長。んで、たかむな君も頑張ってるねぇ」


 バンから機材を運び出している諜報部員達を見ながら、芙蓉ふようはそう言った。従来の任務である異世界転生者を連れ戻す場合は、実動員である俺たちだけで設営をする。今回はその手間が無い分、楽だが任務の内容は過酷だ。今後のポイントR設営を学ばせるために、たかむなには諜報部の手伝いをさせている。ジャケットの袖をまくり、指示に従ってテキパキ動くたかむなを見て、昔は自分もああだったなと、少しだけ懐かしい気持ちになった。


「そうだな……芙蓉ふよう、悪いがお前だけここに残ってサポートを頼むよ」


 そう言って芙蓉ふようの頭を軽くぽんぽんと叩くと、嬉しそうに笑顔を見せた。

「へへへ、任せとけってーの」


はなぶさ班長ぉぉ……」

 か細い声が背後から聞こえた。振り向くと、どんよりとした顔の千代草ちよぐさが立っている。


「まさか麝香じゃこうさんまで来るなんて……わたし、やっぱ帰っていい?」

「駄目だ」

 ピシャリと即答する。


 今朝、馬酔木あしびから連絡があり、うばらが凄腕の狙撃手である事と、紫雲英げんげ班からは馬酔木あしび麝香じゃこうの参加が告げられたのだ。その事を千代草ちよぐさに伝えると、また喚き始めたので今度は無理矢理連れてきたのだ。


 千代草ちよぐさは分かりやすく両手と頭をだらんとぶら下げ、猫背になっている。


「じゃあもう、謝れよ。許してくれるかどうか知らんが、お前が楽になるぞ?」


 俺のその言葉に、千代草ちよぐさはバッと顔をあげて即答した。


「ヤダ! 絶ッ対! 私は悪い事してない! 弱ってる人に、あんな酷い事する人……私の方が許さない……」

 その目には力強さがあった。コイツにも曲げられない信念があるのだろう。なかなか頑固な奴なんだ。


「それでいいと思いますよ」

 花冠かかんが優しく声を掛ける。


「人の数だけ正義はあります。千代草ちよぐささんの正義と、麝香じゃこうの正義は相反する物。ただそれだけなんですから。けれど、理解する必要もなければ、敵対する必要もありませんよ。昨日も言いましたが、何かあれば私とはなぶさ班長で庇いますから」

 花冠かかんからその言葉を伝えられた千代草ちよぐさは、覚悟を決めたのか、背筋を伸ばすと、自分の頬を両手でパンと叩いた。

 

「わかった、ありがとう! 花冠かかんさん! 私、なんだか自信がついたよ! よ〜し……麝香じゃこうさんがなんぼのもんじゃーーい!」


 力強く拳を振り上げた千代草ちよぐさの背後に、その声は掛けられた。


「アタイ様がなんだってぇ〜? 千代草ちよぐさ様ァ?」


「うえ゛!?」


 拳を掲げる千代草ちよぐさは、錆びついた動きでゆっくりと体を後方へとひねった。

 そこにはサングラスを掛けた無表情の馬酔木あしびと、ギザギザの歯を見せ、薄い笑みを浮かべる麝香じゃこうが立っていた。


「あ、あはあははは……」


 千代草ちよぐさは顔中に汗を垂らし、笑顔を引き攣らせた。最悪のタイミングだ。揉める前にさっさと話を進めるか……


紫雲英げんげ班の皆さん、お越し頂きありがとうございます。まさか麝香じゃこうさんまで来ていただけるとは思っていませんでした。本日、我々は()()()として作戦を展開いたします。どうぞ宜しくお願いします」

 二人に向けて頭を下げ、注意を引くと、花冠かかんが俺の隣に並び一緒に頭を下げた。


「あぁ、そーゆーのいいからよぉ……仲良くするつもりはねぇし、今日のアタイ様の獲物はうばら様だけだぁ」

 麝香じゃこうは俺たちに興味無さそうな顔で手をぷらぷらさせる。


 なんだ……千代草ちよぐさのことはもういいのか? 案外サッパリしてる奴なのか?


「おい、花冠かかん……お前、勘は戻ったのか? 聞けばはなぶさ班は、追跡者トラッカーとの戦闘をなるべく避けているそうだが……ブランクのある奴が、そんな事で大丈夫なのか?」

 馬酔木あしび花冠かかんに詰め寄る。


 俺は昨日の夜、花冠かかんから、馬酔木あしびとの事を少しだけ聞かされていた。この二人は過去に紫雲英げんげ班に所属していて、コンビを組んでいたらしい。狂犬コンビと呼ばれるほど活躍していたが、価値観の違いから花冠かかんは班を抜け、最終的には救済課を辞職したのだ。


「私ははなぶさ班長のサポートに徹する。戦闘には直接関わらない」

 そう言った花冠かかんからは、笑顔が消えていた。心なしか、どこか冷めた目をしている。


「……牙は抜けたままか……ふん、つまらんヤツに成り下がったな……“餓狼”」

 餓狼? 馬酔木あしびが言い放った言葉に、少し引っ掛かりを覚えたが、彼女の登場でその感情はどこかへ消えた。


「約束の時間よりも早く来たつもりだったのだが、私が一番最後なのか?」

 俺たちが居る境内に続く階段をゆっくり登ってきた……九鬼くき班長だ。

 

「おはようございます、九鬼くき班長」

 花冠かかんが挨拶をすると、俺は少し意地悪な軽口を叩いた。


「お疲れ様です、九鬼くき班長。今日は珍しく遅刻しませんでしたね、定刻の十五分前です」


南天なんてんに口酸っぱく言われたからな、合同作戦に遅れたら格好がつきませんよ。と」


九鬼くきはんちょぉぉ〜!!」

 千代草ちよぐさ九鬼くき班長の胸に飛び込んだ。


「昨日は挨拶できなくてゴメンなさぁ〜い」


「おぉ、おはよう、千代草ちよぐさ。今日はあの……カワイイお仮面はつけないのか?」


 九鬼くき班長がまた余計な事を口走ったので、早速今回の任務のあらましを全員に伝える。


「おーい、たかむな! こっちへ!」…………




────「では、全員揃いましたので、紫雲英げんげ苔桃こけもも救出作戦の内容をお教えします」

 皆の視線が俺に向いた。


「まずはこちらを……コレは一柳ひとつやなぎツキが創造した異世界の地図マップと、宮殿の見取り図です。この見取り図は、窓と扉の数と位置、それらの外観を、AIを使って予測したものであり、正確な物ではありません。かなりザックリしていますが、少しは役に立つかと……異世界全体の地図は、本来ならばうちの芙蓉ふようを先行させて、上空から偵察したかったのですが、うばらから狙撃される可能性が高かったので断念しました。世界の八割ほどが砂漠の世界です。ランドマークとなる場所は多くありません」


 九鬼くき班長と、馬酔木あしびに紙の地図を手渡す。二人はそれを広げ、黙って眺める。


「地図の中央に位置するのは、うばらが根城にしている宮殿です。おそらくここに紫雲英げんげ班長と苔桃こけももさんが捕らえられています。宮殿の座標は割れていますが、意図的に()()()()()()()()。昨晩遅くに小型発信機を宮殿の座標に飛ばしましたが、そこは砂漠のど真ん中でした」


「では、奇襲はできない……か」

 馬酔木あしびが呟くと、

「では、どうするんだ? はなぶさ

 九鬼くき班長に問われる。


「まず私たちは一度で全員が異世界へ飛び、宮殿から約十三キロ離れた集落に到着します。そこからは行商に変装して宮殿を目指します……ただその前に、たかむなに囮を作ってもらいます」


「囮?」


 今度は皆の視線がたかむなへ向いた。たかむなは緊張した面持ちで固唾を飲む。

*次回、『いざ! 砂漠の異世界へ!』

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