23. 会議後、紫雲英班
◇紫雲英班・オフィス◇
救済課初となった全体集会から数時間後、すっかり陽は暮れ、空には分厚く黒い雲が広がると、降り出した雨はすぐに街を支配した。
新幹線が停車する駅を見下ろすことが出来るビルの一室、そこに紫雲英班のオフィスはあった。雨に濡れた窓ガラスの粒が、外からの人工的な明かりを歪ませ、煌めいている。
洗練された家具が置かれた、まるでホテルのスウィートルームのようなリビングに、馬酔木、繁縷、麝香、緋衣が集まっている。
英が仕掛けた調略を甘んじて受け入れてしまった馬酔木は、事の経緯を紫雲英に報告していた。
「申し訳ありません、紫雲英班長……俺の独断で英の提案に乗ってしまいました……」
四人が取り囲むテーブルの上には、通信機が置かれている。そこから「ふむ」と唸る男の声が聞こえてきた。通信の相手は紫雲英だ。
『……悪くないんじゃないか? 実際コチラも、この砂漠の異世界には相当手を焼いている。英班と、なにより……九鬼の援軍は心強い。甘んじて受け入れよう』
「集会で英は、『紫雲英班長が囚われた』と言っていましたが……俺の予想では、英は蒲公英から命令を受けて動いているのではないかと考えています……」
低いソファーに座り、腿に肘をついて両手を組む馬酔木は、サングラス越しに通信機を見つめながらそう言った。
『英を裏で動かしているのは蒲公英で間違いないだろう。そして、荊が俺を解放する為の要求が弱すぎる。本当の要求は、すでに蒲公英へ突きつけている。当然それにもタイムリミットがあるはずだ。英が推し進めていた集会という計画が、今このタイミングで、強行の形で実施されたのは異常だからな。俺たちも困っているが、もしかすると、蒲公英の方がもっと困った事態になっているかもしれんな』
「あひゃひゃ! ケツに火が付いてんのは、アタイ様達だけじゃねぇってーことだな? おもしれぇ」
麝香はソファーに寝そべり、スティック状の菓子を摘んで口に運ぶ。
「笑いごとじゃないですよ、麝香先輩。脅迫状の真贋は定かではないですが、これってつまり、タイムリミットが過ぎれば、紫雲英班長は存在そのものを消されるって事ですよ」
隣に座っている緋衣が口を挟む。麝香は横たわったままスティック菓子を緋衣に突きつけてこう言った。
「分かってねぇなぁ緋衣様よぉ、黙ってようが、飯食ってようが、セックスしてようが、人間様は必ずいつか死ぬんだぜぇ。どんなことが起きようと、“今”という有限を謳歌すべきなんだぁ」
「まともな事言ってっけど、時間に踊らされるってーのは、俺ァ好きじゃねぇーな、息が詰まっちまう」
窓から外を見ていた繁縷が振り向く。
「俺は自由な仕事しか受けない契約で救済課に居る。だから、俺は今回の件はパスするぜ、馬酔木」
「……いいだろう。繁縷と緋衣は留守番だ。合同チームには俺と麝香が参加する」
「お! アタイ様を連れてってくれんのか? 馬酔木班長代理様ァ?」
麝香は身体を起こして、馬酔木へ喜ぶ顔を向けた。
「……これでいいですか? 紫雲英班長?」
『あぁ、構わん。では、私と吾亦紅と白朮は隠れておこう……と言うより、実はこの数日間、ずっと荊の『超長距離射撃』の的にされていてな、ある集落にずっと隠れている。一柳ツキが支配する宮殿にまったく近づけていない。目測だが、八〜十キロメートル離れているにもかかわらずにだ』
「えぇ? 荊って、単に銃の扱いが上手いだけじゃなかったんですか? 」
「クールだぜ、荊。本当の力を隠してたってーのかよ」
緋衣、繁縷が驚く。
『荊が放つ銃弾の軌跡は、直線だけでなく、時に放物線を描き、上から襲ってくる。ヤツにそんな特殊な能力があったとはな……この情報は英に伝えておいて構わない』
「……分かりました。それは厄介な能力ですね……では、明日正午、我々は一柳ツキが創造した異世界へ向かいます。無事を祈ってますよ、紫雲英班長……」
馬酔木は通信を終えると、サングラスを外し、目頭を摘んで部屋の天井を仰ぎ見た。
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*次回、『合同班、動く』




