22. 会議後、九鬼《くき》班
◇九鬼班・オフィス◇
九鬼、施覆花、南天の三人は、英が主催した全体集会から戻り、下町の商店街の一角にあるオフィスで休憩を取っていた。
「いやぁ〜、偉くなったもんやで、英の奴は。あんな演説ができるようになるとはねぇ」
施覆花は冷蔵庫から缶コーヒーを三本取り、南天と九鬼に手渡した。
「いただきます」
「すまない、ありがとう」
三人は革張りソファーに腰掛ける。南天がコーヒーをひとくち飲み、九鬼に質問をした。
「班長、紫雲英救出作戦の件……なぜ自分から参加を申し出たのですか?」
「それは俺も気になるわ」
九鬼は少し嬉しそうに答える
「そうだな、それは……アイツが私とだけ目を合わせなかったから……だな」
「目ぇ合わせへんかった……て? どーゆーこと?」 プシッ!
缶コーヒーのプルタブを開け、施覆花が九鬼に問う。
「英が、紫雲英班長が囚われていると話している時、アイツは実動員ひとりひとりの目を順番に見ながら喋っていた。だが、南天を見た後、その隣に居た私を飛ばして施覆花を見たんだ」
「確かに、アイツとは目が合いましたね……喋りながら分かりやすく顔を動かしながら、まるで政治家の演説のように全員を見ていた気がしますが……それが理由ですか?」
「あぁ、お前たちも知っての通り、英は“嘘”を武器にするヤツだ。身内ですら平気で騙したり、隠し事をしたりする。すぐに分かったよ。アイツは『嘘をついて私を作戦チーム取り込もうとしている』と」
「分かっとって敢えて乗ったんでっか?」
九鬼はソファーに背中を付ける。革がメリっと音を立てた。
「英は組織内での不正や離反が行われる前の、事前予防として、組織の透明化を謳っていた。だが、今回の紫雲英班の失態は、事件が起きた後の話だ。この事件は救済課の存続に繋がりかねない。それをわざわざみんながいる前で喋り、英は馬酔木に協力を申し出た……それは集会が終わった後、裏で話をつければいい事だろ?」
コーヒーに口を付け、言葉を続ける。
「……あの馬酔木が英の提案を受け入れた。これは九鬼班の知らないことが裏で動いていると感じたんだ。それにさっきの話……私とだけ目を合わせなかった。これは、私に動いて欲しいから、そして、私に嘘をついている罪悪感からきたのだろう」
「なんと。そこまで考えていたのですか? 班長は」
南天は九鬼の考察に素直に驚いた。
「なんで驚いとんねん。当たり前やんけ、南天。九鬼さんは、ただの可愛い天然ちゃんとはちゃうねんで」
施覆花は電子タバコを咥え、意地悪そうな顔を九鬼に向けた。
「誰が天然ちゃんだ。こう見えて私だって、馬鹿なりに考えているんだぞ」
九鬼はまたコーヒーを含み、喉を鳴らすと、深く息を吐いた。
「何故だろうな、英の事はよく分かる。可愛いヤツだよ……アイツは」
「九鬼さん、なんでやねん! 俺は? 毎日美しい貴女に、本気のアプローチを続けとる俺は? 俺のことも、ちっとは分かったって下さいよぉ〜」
施覆花は縋るような表情で九鬼に迫る。
「お前が言う、好きだの愛してるだのの言葉は軽すぎるんだよ、バカ!」
九鬼は施覆花の顔を押し返した。それを見て南天が笑う。
「なら、アイツは今頃、『計画どおりだ』と悪い笑みを浮かべているのでしょうね」
「あぁ、間違いなくな……明日以降の事は二人に任せる。留守は頼んだぞ」
九鬼は抱きつこうとする施覆花をヒラリと躱して立ち上がり、勢いよくソファーに倒れ込んだ施覆花の頭の上に空き缶を、トンと置いた。
*次回、『会議後、紫雲英班』




