21. 会議後、英《はなぶさ》
『事予則立』
意味:行動を起こす前に十分な準備や計画をしておくと良い。
◆英◆
『やはりお前はとんでもない嘘つきだな、はぁ〜、参ったぜぇ』
黒百合が両手で持っている硝子の林檎から、蒲公英課長の大きなため息が聞こえてきた。
集会が終わった後、俺は救済課のみんなが去った会場に黒百合と二人で残り、一連の動きを報告している最中だ。
「特命というワードは伏せたままなので、問題はないかと……それに、“他の班を巻き込むな”とは言われてなかったんで」
『お前って奴は……それでもな、賢者達に不信感を与える事になったぞ。三班合同で、たった一人の叛逆者を粛正するなんてなぁ、前代未聞だぁ』
「バレなければ大丈夫ですよ。必要ならば、俺から賢者達へ直接説明して納得させますが。もちろん嘘はつきますけど」
課長はハァーとまた大きなため息をついた。
『バカヤロー、余計ややこしくなるわ』
「少しは申し訳ないと思っていますよ。ただ、戦力が足りない上に、時間もありません。それに、馬酔木から荊の事を詳しく聞いておきたいんです。こっちは俺たちがなんとかしますから、賢者達は課長が上手く抑えておいて下さい。それと、紫雲英はツキの未来死が課長へ向けられている事と、脅迫されていることはまだ知らないはずです。もし知っていたのであれば、今回の集会に部下を出席させなかったでしょう。馬酔木達が集会に来た理由は、紫雲英の行動が漏れていないかの確認……それと、ツキが創った異世界に関係する情報が手に入るか……でしょうね」
「課長、紫雲英が先に荊とツキを見つけて、貴方へ突きつけた要求と未来死の事を知れば、きっと賢者達に報告するでしょうね……最悪の場合、荊粛正から手を引くかもしれない。貴方が死ぬ事を一番に望んでいる人なのだから」
どうやら黒百合は、少なくとも俺の考えを受け入れているようだ。
課長は特命と称して俺を使い、秘密裏に荊とツキを捕獲したい……
紫雲英は自分の立場を守る為に離反した部下を秘密裏に処分したい……
俺たちと紫雲英の目的はほとんど同じだ。
『やれやれだぜぇ……分かった。英、お前に託す。だが最後にひとつ……なぜ九鬼を巻き込んだ? 今やアイツは、賢者達向けの広告塔みたいなモンだぞ。なるべく綺麗な仕事だけ任せたかったんだ』
その問いに、俺は口角を上げて答える。
「そんなぬるい扱いされたって、あの人は面白く思わないですよ。それに、俺をこの業界に連れ込んだ人なんだ。トコトン付き合ってもらいたい」
「あら、英班長は本当に九鬼班長の事が好きなのね……悔しいわ」
目の前の黒百合が困り眉で口を尖らせた。
俺は黒百合を真っ直ぐ見つめる。
「信頼だよ。俺がこの世で一番信頼している“最強の上司”……だから」
『やれやれ、まったく……やけるぜ……』
*次回、『会議後、九鬼班』




