19. 全員を納得させて、こっそり特命に道連れ計画
◆英◆
「英班長! 疲れてませんかぁ? 肩でも揉みまひょか?」
施覆花さんが、揉み手でニヤニヤしながら近づいてきた。
「その顔と態度が気持ち悪いので遠慮しておきます」
ピシャリとお断りしておく。
「なんやと! シバくぞお前!」
まぁ、施覆花さんは、俺がこんな風に軽口を叩いてもノリで許してくれる優しい先輩だ。
「面白い義手だな? それ、コタツの足みたいだ」
南天が俺の右腕を指差して言った。
「酷いこと言ってくれるぜ。あ、ズルいなぁ、お前の右足の義足。普通の形になってるじゃねーか。こないだまでまさにコタツの足、フック船長だったのに」
俺と南天はお互いの欠損した部分を見て笑い合う。
「おや、彼は新しいメンバーか? 宜しく、南天だ」
委縮してしまっている筍を見つけると、南天は気さくに握手を求めた。根は優しいが強面で背の高い南天を見て、筍は顔を青くさせて固まる。
「た、た、筍です……よろしくおねがいします」
芙蓉と桔梗は九鬼班長に駆け寄り、談笑をはじめた。そして、お面をかぶり花冠の背中に隠れている千代草に気づいた九鬼班長は、遠慮なくその名を呼んだ。
「どうしたぁ千代草? お面なんか被って。今日どこかで縁日でもあったか?」
あっ……
全くこの人は……去年、千代草と麝香の間にあったことをもう忘れたのだろうか……いや、それは置いておいて、健気に正体を隠そうと努めているのに、そこは空気を読んでほしかった。
俺、桔梗、花冠、芙蓉、南天、施覆花さんまでもが笑顔で固まってしまう。
「千代草様ァ〜?」
ニタリと口角を上げた麝香が、再び千代草の顔を覗き込む。顔を背けては回り込んで覗くを何度も繰り返している。
「ん? みんなどうした?」
キョトンとした顔の九鬼班長は、苦笑いするみんなの様子を伺った。
救済課最高戦力と謳われる九鬼班長は、こういった場面でも、ある意味最強の存在だ。
天然で人たらし、裏表のない性格で直情的。敵も多ければ味方も多い愛されキャラ。
まったく、憎めない人だわ……
『異世界転生救済課、職員皆さん、大変お待たせ致しました』
マイクを使った声が響く。声の主は、会場の前方に居る黒百合だった。右手にマイクを、左手には硝子で作られた林檎を持っている。彼女はこの場にいる全員の注目を集めた。
その隙に千代草は、この場で一番体の大きな南天の背後へ素早く移動して隠れる。
『皆さん、お疲れ様です。わたくし、蒲公英課長の秘書を務めております、黒百合と申します。本日はお忙しい中、お集まりいただき誠に有難うございます』
しっとりと、抑揚の効いた黒百合の声は、聞く者の心を落ち着かせる。
『さっそくですが、課長からの挨拶がございます……』
黒百合はマイクを硝子の林檎へと向ける。
『みんな、よく集まってくれた。私が蒲公英だ。私は立場上、なるべく人と会わないようにしているので、こんな形で声を届けることを許してほしい。さて、我々異世界転生救済課は政府公認の裏の組織であるため、属する者は世間に素性を明かすことは出来ない。各部門内で交流はあっても、殆どの者は、他の部門にどんな人間がいるのか分からない。今までなるべく接触をさせないようにしてきた。三つに分けた実動班でも例外ではない。組織の秘匿性を高めるためにそうしていたが、その根幹を揺るがす事件が昨年起きてしまった。元槐班長が起こしたロストチルドレン事件だ』
マイクからは変声機を使った課長の声が聞こえる。普段は人を食ったような態度だけど、真面目な話になると、ちゃんとするんだなと感心してしまう。周囲の人達も、黙って耳を傾けている。
そんな中でも、ずっと俺に視線を送っている緋衣には、気づかないフリをしておこう……
『奴は開発部の一人の女性をたぶらかし、彼女に次元の歪みをこじ開ける機械を開発させ、部下の一人を巻き込んで子どもの誘拐事件を起こした。そして誘拐した子どもに違法な臓器移植手術を受けさせた。これには、ある班の実動員も巻き込まれている』
……巻き込まれたのは希少種、千代草だ。槐に攫われ、蘇生魔法を使う事を強要されたんだ。
この事件以来、千代草は蘇生魔法を使うことを禁止されている。いつ、いかなる理由があっても使用すれば、責任者である俺と千代草は拘束され、即日、死刑が執行される。政府は死者を蘇らせることを重罪とした。
『誰が、何処で、どのように繋がっているか不透明だったから起きてしまった事件とも言える。もし、救済課の全員が、軽度な交流を持っていれば事前に防げていたかも知れない……そう主張したのが、今回の集会の発起人である英班長だ。今回、私は彼の発案に賛成し、このように皆を集めた次第だ。英班長、前に出て挨拶を頼む』
課長に促され、黒百合の元へ歩みを進める。
芙蓉は小声で「がんばってハナブー」と声を掛けてくれ、施覆花さんは、俺の背中を軽く叩き、九鬼班長は、目を合わせると微笑んで頷いた。俺もコクンと首を縦に振る。
────さて……救済課全体で顔を合わせ、情報を共有する。これは叶った。これからも月一程度で実施させるように働きかける。本番はここからだ。
ここからの俺の狙いは、紫雲英班と九鬼班の数名を、俺の特命に巻き込むことだ。
正直なところ、俺たち英班だけで荊と一柳ツキを捕獲することは難しい。せめて各班、一人ずつくらいは人員を割いてほしい。九鬼班長と馬酔木の力を頼りたいが……
黒いスーツに身を包んだ救済課の人々が、俺の言葉を待っている。
今から、俺のひとり嘘つき大会がはじまる。
*次回、『ひとり嘘つき大会』




