17 異世界転生救済課だよ! 全員集合!
◆英◆
「いぃーやーだー! 行きたくないッ!!」
──俺たち英班の専用オフィスは、都心からやや離れた小高い丘の上に建つ古民家だ。班発足時に、千代草が物件を見つけ、メンバー全員で、一週間かけてリフォームした。そこから見える景色は素晴らしく、街全体と近くの海が見渡せる。
俺が課長の特命を受けた翌早朝、メンバー全員が集まったこのオフィスに、千代草の叫び声が響いた……ホントうるせぇ……近隣が空き家じゃなかったら許されないレベルだ。
「嫌だじゃねーよ、発起人の俺が、手前の班のメンバーを一人でも欠いたらカッコつかねぇだろ?」
「絶対に嫌ッ! 九鬼班のみんなに会えるのは嬉しいけど、麝香さんが来るかもしれないから嫌ッ! あの人怖い!」
「千代姉ぇ、柱から手を離して!」
千代草は居間の中央にある1番太い柱にしがみついている。芙蓉は引き剥がそうと必死だ。
「麝香の事をこんなに拒絶するなんて……千代草さんに何があったんですか? 班長」
花冠が困り顔で俺に訊ねる。
「まぁ、去年……ちょっと色々あってさ、千代草が麝香の事を思いっきり突き飛ばしたんだ。ただそれだけだ」
「あぁ……それはマズイですね。私は彼女の事をよく知ってますが、かなり『根に持つ』タイプですよ」
花冠は顎に手を当てて唸った。俺は深いため息を吐く。
「なぁ、頼むよ千代草。俺の後ろに隠れててもいいからさ、行こうぜ」
柱にしがみつく千代草は、目を逸らし、顔を赤らめてボソリと呟いた。
「じゃあ……手……繋いでてくれるなら……行くかも」
「あ〜! なにそれズルい! ウチもハナブーと手繋ぎたい!」
あまりにアホな提案に全身のチカラが抜け、俺は肩を落とした。我ら英班には緊張感がなくて困る。
「では、千代草さん。変装するのはどうですか?」
「変装?」
花冠の提案に千代草と芙蓉は同時に声を上げる。
「なんでもいいから早くしてくれ、ここから本部までは距離があるんだ。それに、途中で新入りの筍と合流する予定なんだぞ」
──俺たちは今から異世界転生救済課の本部へ向かう。蒲公英課長を筆頭に、英班、九鬼班、紫雲英班の全メンバーと、医療班、開発部、諜報部までもが一同に揃うんだ。
これは俺が班長になった時から構想していたことだ。全員の素性を確認し、情報を共有することで不測の事態が起こった場合、円滑な支援体制を組むことができる。
今までは三班の班長同士だけが顔を合わせ、近況を報告し、互いを監視する形だったが、それでは槐のように手下を集めて道を踏み外す者を見逃してしまう。
まずは救済課を知ることで、怪しい行動を取る者を牽制するんだ……まぁそれは建前なんだが、本音は紫雲英班の行動を透明化したいだけだ。
──「さぁ、準備できたか!? そろそろ行くぞ!」
メンバー全員で花冠が運転するミニバンに乗り込んだ……
肝心の千代草は、アニメ『プリプリ魔法少女アイラちゃん』のお面を顔に掛け、大人しくシートに座っている。
今からが大変だというのに、緊張感の欠片も感じられない車内で、俺はまた大きなため息を吐く。
俺たち英班は、異世界転生救済課の本部がある繁華街を目指してオフィスを後にした。
途中、本部にもっとも近い駅に立ち寄り、筍を探す。
待ち合わせ場所に指定していた『金ピカの女性像』の前で、皺ひとつない新品の黒スーツを着て、背筋を伸ばしたまま直立している筍を見つけた。目立たない服装のはずなのに、かえって目立つ。すぐに車内へ招き入れると、筍はお面を被った千代草を見て怯えた。
「み、みなさんはじめまして! 筍です! 一生懸命がんばります!」
筍はシートに座るも、背中をつけず大きな声で自己紹介をする。
「花冠です。筍君、宜しくお願いしますね」
運転中の花冠はルームミラー越しに挨拶をした。
「ウチは芙蓉! 異世界にいる時だけ鷲の姿になれる最強JK!」
筍の隣に座る芙蓉は、目の横で傾けたピースサインを披露した。
「わたしは千代草、ヨロシクね……」
三列シートに一人で座る、アイラちゃんの仮面をつけた千代草はくぐもった声を発した。
「ま、こんな感じのメンバーだ、気楽に行こうぜ、筍」
「は、ハイ!」
新人を迎えた俺たちは本部へ向かって車を走らせた。
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観光客や地元民で賑わう繁華街の前を通り抜け、二つほど小道に入ると一気に人の気配が無くなる場所に出る。ここには『はなぞの製菓』の看板が建てられたビルがあり、その中の地下には政府非公表の組織『内閣府裏デジタル庁異世界転生救済課』がある。
救済課への入り口はここだけではないが、俺は九鬼班にいた時からこの場所をよく使っていた。
────
全員が降車し、今度はエレベーターで最深部地下二十階を目指す。
「うぅ……やっぱ嫌だ。お腹痛くなってきたよぉ」
仮面をつけた千代草がうなだれ、俺の袖を摘んだ。
「大丈夫ですよ、千代草さん。何かありましたら私と英班長が盾になりますから」
花冠はそう言うと、俺に「ね、班長」と同意を求めたが、実は俺にも因縁浅からぬ相手がいる。緋衣だ。
奴も来ているなら、軽くちょっかいを出してくるに違いない。用心しておこう。
チーン!
エレベーターが一番深いフロアへ到着すると自動扉が開く。白い壁、白い廊下を進み、その先にある大きな木製の両開きの扉を開けた。その中は、テニスコート二面分の開けた空間が広がっており、すでにチラホラと人が集まっていた。おそらく自然にそうなったのだろう、医療班、開発部、諜報部……三つほどのグループが部屋の隅に作られていた。
「ハナ!」
遠くから声をかけられる。ミニスカートに白衣を羽織ったスパイラルパーマヘアーの女。医療班の桔梗だ。彼女は俺と千代草と筍と同じ元異世界転生者の希少種だ。強力な回復魔法を使うことができる。桔梗は俺たちに軽く手を振り近寄ってきた。
「桔梗姉ぇ!」
芙蓉は胸の高さで小さく両手を振った。
「元気そうね、フーちゃん。ハナ、あんた右腕のメンテがあるんだから、もっと定期的に診せにきなさいよ」
桔梗は腰に手を当て、不満そうな顔を向けた。
「悪いな、忙しくて時間が取れない……今のところ、義手との接合部に異変は無い。大丈夫だ。ただ、棒状だからバイクに乗れないのが痛いけどな」
「あらそ、バイクなんて乗らなくても、アンタはもう班長さんなんだから、偉そうに車の後部座席で腕組みしてたらいいんじゃない?」
「お前の中の班長像ってそんな感じなのかよ」
「九鬼さん以外はね……ところでハナ……こちらのダンディーなお方は?」
桔梗は花冠の方へ目を向け、訪ねてきた。
「あぁ、去年から復職して俺のサポートをしてくれている花冠だ。もとも……」
桔梗は俺に体当たりして跳ねのける。
「あたし、桔梗って言います! 医療班です! だいたいの傷は死んでなきゃ治せます! 花冠さん! どこか痛むところはありませんか!? もしお疲れならマッサージもできますよ!」
グイグイと距離を詰められ花冠はちょっと引いていた。
「はは、大丈夫ですよ、ありがとうございます。桔梗さん」
「なにか困った事があったらいつでも医務室にいらして下さいね、あたし、待ってますから」
桔梗は目を輝かせていた。
「落ちたね……イケオジの沼に。ね、千代姉ぇ?」
芙蓉は声を掛けたが、千代草からの返事は、「私はアイラです」だった。
バン!
乱暴に扉が開かれる音が聞こえると、皆がその方に視線を向け、談笑をやめた。紫雲英班の到着だ。
麝香を先頭に、馬酔木、緋衣、繁縷が順に入室すると、部屋中が緊張に包まれる。堂々と闊歩する奴らは、俺たちを見つけ、目の前に立ちはだかった。
「ハ〜イ、英班様の皆様ァ〜♪」
麝香は手を上げ、ギザ歯を覗かせた。




