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異世界転生救済課─「お前を、この異世界から排除《ドレイン》する……」【フォーニーファミーリア】  作者: ねず ただひま
朝憲紊乱の章

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15. ご機嫌ななめ

紫雲英げんげ班・帰還地点(PR)◇



 廃墟となった夜の物流倉庫、その中を一台のバンのライトが照らしている。その光を浴びているのは現実の世界では、まずお目にかかれない異形の生物。


 巨大な蛇の胴体、頭の横から長い手が六本、縦に重複する三つの顔……この異形の存在が世に知られたら、この国はパニックに陥るだろう。


 異世界転生救済課の仕事で、一番の肝となるのが追跡者トラッカー討伐である。


 追跡者トラッカーは異世界から逃げた者を抹殺しにやって来る。その理由は未だに謎のままだ。研究者の知見では、ネペンテスを使って異世界を創造した人間が不在になると、その異世界が朽ち果てる可能性が高いと考えられている。


 ────「俺がやろう……」


 馬酔木あしびは、今にも敵に飛びかかりそうな麝香じゃこう緋衣ひごろもを制する。


「あぁ? アタイ様はさっき暴れてねぇんだけど?」


 麝香じゃこう馬酔木あしびへ不満そうな顔を向ける。


「知るか……おおかた海でも眺めながら、鼻歌でも歌ってたんだろ?」


 言い当てられ、麝香じゃこうはバツの悪そうな顔になる。


「俺はどっちでもいいかな? もう、紙ねぇしさ?」


「じゃあ決まりだな……」


 馬酔木あしびはタバコを指で弾いて捨てると、スラックスのポケットから黒い革手袋を取り出し、両手にはめた。

 無言で手のひらを何度も開いて閉じる……ギュッ、ギュッと音を立てながらゆっくり大蛇へと歩み寄る。


「なぁ、緋衣ひごろも様よぉ、もしかして馬酔木あしび班長代理様ァ……チョ〜機嫌悪いじゃねぇか?」


 麝香じゃこう緋衣ひごろもに耳打ちをした。


「そうですね……なぜだろう? 俺ら帰るの遅かったかな?」


 ヒソヒソと会話をする二人を他所に、馬酔木あしびは大蛇を手招きして挑発した。


 大蛇は六本の腕すべてに武器を召喚して持ち構えた。神器『三叉槍』によく似ている。大蛇は長い胴体を左右にうねうねと動かし、隙を伺う。


「マジか!? あのデカ蛇様ぁ、異世界から武器を呼び出しやがった! 神属性かよ!? かっけぇ!」


 麝香じゃこうは歓喜の声をあげた。興奮のあまりジャンプする。


「喜んでる場合ですか!? 神属性の追跡者トラッカーはさすがに馬酔木あしびさんでもヤバいかもしれないですよ!?」


 大蛇は素早く距離を詰めると、槍を持つ長い六本の腕で容赦なく馬酔木あしびを襲う。その攻撃は激しくも直線的で単調だった。だが速く、数も多い。

 馬酔木あしびは避けながら後退する。大蛇の槍が近くのスチール製の棚を破壊した。馬酔木あしびは飛び散る破片を両手に掴むと、それで大蛇の三叉槍を捌きはじめた。


「おぉ〜頑張ってるねぇ、馬酔木あしび班長代理様ァ……え〜っと、一本の槍に刃が三つだろ? んで六本持ってっから刃は全部で〜……三十六枚だな! そんだけ避けてんのスゲェな!」


「どんな計算ですか? てゆーか、あの蛇が持ってる槍……先端から僅かに魔力っぽいの出てるくね?」


 麝香じゃこう緋衣ひごろもは車の前で並んで座り、他人事のように観戦している。


 ガキン! バキン! と鉄がぶつかる音が響く。馬酔木あしびは適当に手に持ったスチールで、切れ味鋭い槍をいなしていた。だがそれもいつまでも続かない。

 大蛇の猛攻で、馬酔木あしびは壁際へ追いやられた。大蛇が左側三本の腕を一斉に突き立てた。馬酔木あしびは壁を蹴り、大蛇の頭上を越えて躱し、背後を取った。着地すると同時に大蛇の三本の左腕がボトボトと床に落ちる。


「お!? いつの間に()()を絡めたんだ!? 見えなかったぜぇ!」


「危ない!!」


 興奮する麝香じゃこうを他所に、緋衣ひごろもが大蛇の次の攻撃にいち早く気づく。


 ドゴォーーン!!


 大蛇のしなる尻尾が馬酔木あしびの背中を強打した。馬酔木あしびは吹き飛ばされ、ガシャガシャとスチール製の棚を巻き込みながら、車のライトが届かない闇の方へと消えると、壁にぶつかる音を立て、埃が舞い上がった。

 

 二人は馬酔木あしびが消えた倉庫の奥の闇を見つめながらゆっくり立ち上がる。


「やるじゃねぇかこのクソ蛇様ァ……」

 麝香じゃこうは薄い鞄とチェーンを握った。

麝香じゃこう先輩、援護するよ?」

 緋衣ひごろもは紙を取り出し、素早く手裏剣を折った。


 大蛇は体をうねらせ、後ろで構える二人の方へ体を向けた……ハズだった。

 

 大蛇の視界に麝香じゃこう緋衣ひごろもの姿はなかった。いつの間にか頭が体から切り離されていたのだ。


 全身の力が抜けた大蛇はその場に倒れ込み、頭はドシャっと床に落ちる。


 緋衣ひごろもは安堵して深く息を吐き出した。

「ふぅー、やらずにすんだね?」


「んだよ、つまんねーなぁ」

 麝香じゃこうは口を尖らせる。


「本当にツマラン……」

 車の光が届かない闇の奥から馬酔木あしびが姿を現した。手で全身の埃を払うと、ポケットから煙草を出し、オイルライターをキンと弾いて火を付けた。


「背中、大丈夫ですか? 馬酔木あしびさん?」


「ああ……自分じゃ手の届かない所が痒かったからな。丁度よかった……」


「へっ! 余裕じゃん、馬酔木あしび班長代理様ァ。てかよぉ、お前様ァなんで機嫌悪ぃんだよ?」


「……お前らがコッチへ戻る直前にな……蒲公英たんぽぽから連絡があった……」

 馬酔木あしびは切り落とした大蛇の頭を蹴り飛す。頭は勢いよく壁に当たると炭と化して崩れた。


蒲公英たんぽぽ課長から?」


「ああ……招集命令だ。明日正午……異世界転生救済課の全てのメンバーは本部に集合しろ……とな」


「全員集合……ですか?」

「んだそりゃ? お前様ァそれで機嫌悪くしてたんかよ」


「おそらくはなぶさの考えた事だろう……あの蒲公英ひきこもりが、こんなことを自発的にやるとは思えない……大方、うばらの件で紫雲英げんげ班長の失敗を、皆の前で糾弾するつもりなんだろう……」


「あのクソ陰湿ガキはなぶさの野郎がぁ?」

 緋衣ひごろもは使った手裏剣を握りつぶした。


「おもしれぇ〜じゃんか!? アタイ様も久しぶりに会いたい奴がいるんだよぉ」


 ギザギザの歯を見せて笑う麝香じゃこうの目には、執念のような濁った光が見えた。




ここまで読んでいただき、ありがとうございました^_^


次回のお話は、場面が変わり、異世界転生救済課最高戦力、九鬼くきの登場です。


天然で人たらしで最強、そして美人……彼女の魅力に是非触れてください。


そうそう……

白い☆を黒い★にしていただけたら嬉しい(*≧∀≦*)

ブクマ、リアクションを操作すると、指の運動になるかもよ。知らんけど




『枯れた舞台の上で……』


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