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異世界転生救済課─「お前を、この異世界から排除《ドレイン》する……」【フォーニーファミーリア】  作者: ねず ただひま
朝憲紊乱の章

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10. 新入り

はなぶさ



「未来で死ぬって……そりゃあ、誰でも……そうだろ? いつかは死ぬ」


 黒百合くろゆりは依然、笑顔を崩さない。困惑する俺を楽しんでいるかのようだ。

 

「未来死……とは言っても、予言の類なのよ。課長は先日、ある救出対象者ドリーマーから、未来死で死ぬ運命を受けたの」


救出対象者ドリーマーって……ソイツは俺と同じ希少種レアケースなのか?」


「そうよ。はなぶさ班長や千代草ちよぐささんと同じ、異世界からチート能力を持ち帰った救出対象者ドリーマー……彼女は──」



一柳ひとつやなぎツキだ」


 庭園側で開かれた襖とは反対側、入り口の襖が開かれた。たんぽぽの綿毛のようなヘアースタイル。二メートルを超える長身痩躯。やる気のなさそうな気だるい顔つきの男……蒲公英たんぽぽ課長が遅れて現れた。


「ひっさしぶだな、はなぶさ班長♡」


 遅れたくせに、調子良くウィンクしたので、

真顔で「キショいです……」と短く返した。


「だぁ〜っ! それってば上司に言う台詞かねぇ〜!」


 課長は大袈裟に額を叩き、天を仰いだ。

 それを見た黒百合くろゆりはクスクスと笑う。


 蒲公英たんぽぽ課長の隣には、高校生くらいの若い男が立っていた。救済課独特の黒いスーツを着ている。型崩れしていないスーツ……新人か?

 その若い男は、硬い表情で俺をまっすぐ見据えている。少し緊張している風にも見えた。


「課長、彼は?」

「おおう、コイツはたかむなだ。今日異世界転生救済課に配属した新人君だ」


 課長はたかむなと呼んだ若い男の肩をポンポンと叩いた。


「で、その新人、たかむなを何故ここに? アナタと接点を持てるのは、班長クラスの人間だけでは?」


「それは、これからの会話の流れで教えよう。まずは一杯やろうぜ」


 課長はたかむなを連れ、黒百合くろゆりの横に座る。テーブルを挟み、三人は俺に対面する形で座った。課長がグラスを持つと黒百合くろゆりが瓶ビールの栓を抜き、中身を注ぐ。


はなぶさ班長もいかが?」

 そう勧められたが、手を向けて無言で断り、早速話しを切り出した。


「課長が死ぬのは残念でしたね。ご愁傷さまでした。それで、今日はなぜ俺を呼んだのですか?」


「おいおい、そこはサラッと流すなよ。そしてまだ死んでねぇ……お前は意地悪な奴だなぁ」


「アンタが今まで俺にしてきた事と比べたら、可愛いもんでしょ?」

 

 俺と課長のやり取りを、黒百合くろゆりは微笑みながら、たかむなは緊張した顔で見ている。課長はビールを飲み干すと、俺にこう言った。


はなぶさ、お前に頼みがある……」

 ニヤけた顔をしているが、課長の目は真剣だった。


「八日前、任務中の紫雲英げんげ班から死人が出た。名前は苔桃こけもも。殺したのはバディのうばらだ。うばら救出対象者ドリーマーである一柳ひとつやなぎツキを異世界から連れ戻した直後に、苔桃こけももを殺害し、ツキを連れて逃亡した」


 その二人のことは詳しくしらないが、紫雲英げんげの名前を聞くと自然と眉根が寄った。同じ救済課で、同じく班長だが、俺の天敵だ。俺は、血の通わない冷たい右手の義手に触れた。


「一大事じゃないですか。救出対象者ドリーマーを連れて逃げるなんて……何が目的なんですか?」


うばらはツキを攫ったその日のうちにな、俺の元に文書を送りつけてきたんだ。それがコレだ……」


 課長は懐から紙を一枚取り出し、広げて俺に見せた。



 ────────

 

 異世界転生救済課、課長、蒲公英たんぽぽ


 貴方様にお願いがあります。私は特異死刑囚『砂庭すなばゴウゾウ』の即時釈放を求めます。


 私の要求が叶うまで、異世界転生救済課に関わる要人が、一柳ひとつやなぎツキの能力、未来死で順次死ぬ事となります。


 ・元法務大臣、成川清吾……心不全

 ・稲穂商事会長、藤忠明……焼死

 ・救済課課長、蒲公英たんぽぽ……溺死


 まずは成川氏から殺します。これは脅しではありません。お早い御決断をお勧め致します。


 うばら


 ────────




 課長が見せた紙に記された名前に見覚えがあった。


「元法務大臣、成川氏が逝去したのはニュースで知りました。まさかあれが“未来死”……てすか?」


「そうだ、そしてつい三時間前、藤忠明が自宅で突然体が発火して焼け死んだ……成川が死んだのはこの文が届いた四日後、それから四日後の今日、藤は死んだ」


 その法則のまま進むと、四日後に課長は死ぬ……


 思わず言葉を失った。いくらなんでもチート過ぎる。予告通りに人を殺せる能力を、一柳ひとつやなぎは現実世界に持ち帰ったのか。


「この脅迫状の存在は誰にも教えていない。はなぶさ……特命だ。うばら一柳ひとつやなぎツキを捕まえろ」

 

 課長の表情からはいつもの余裕が消えていた。


*次回、『特命』

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