10. 新入り
◆英◆
「未来で死ぬって……そりゃあ、誰でも……そうだろ? いつかは死ぬ」
黒百合は依然、笑顔を崩さない。困惑する俺を楽しんでいるかのようだ。
「未来死……とは言っても、予言の類なのよ。課長は先日、ある救出対象者から、未来死で死ぬ運命を受けたの」
「救出対象者って……ソイツは俺と同じ希少種なのか?」
「そうよ。英班長や千代草さんと同じ、異世界からチート能力を持ち帰った救出対象者……彼女は──」
「一柳ツキだ」
庭園側で開かれた襖とは反対側、入り口の襖が開かれた。たんぽぽの綿毛のようなヘアースタイル。二メートルを超える長身痩躯。やる気のなさそうな気だるい顔つきの男……蒲公英課長が遅れて現れた。
「ひっさしぶだな、英班長♡」
遅れたくせに、調子良くウィンクしたので、
真顔で「キショいです……」と短く返した。
「だぁ〜っ! それってば上司に言う台詞かねぇ〜!」
課長は大袈裟に額を叩き、天を仰いだ。
それを見た黒百合はクスクスと笑う。
蒲公英課長の隣には、高校生くらいの若い男が立っていた。救済課独特の黒いスーツを着ている。型崩れしていないスーツ……新人か?
その若い男は、硬い表情で俺をまっすぐ見据えている。少し緊張している風にも見えた。
「課長、彼は?」
「おおう、コイツは筍だ。今日異世界転生救済課に配属した新人君だ」
課長は筍と呼んだ若い男の肩をポンポンと叩いた。
「で、その新人、筍を何故ここに? アナタと接点を持てるのは、班長クラスの人間だけでは?」
「それは、これからの会話の流れで教えよう。まずは一杯やろうぜ」
課長は筍を連れ、黒百合の横に座る。テーブルを挟み、三人は俺に対面する形で座った。課長がグラスを持つと黒百合が瓶ビールの栓を抜き、中身を注ぐ。
「英班長もいかが?」
そう勧められたが、手を向けて無言で断り、早速話しを切り出した。
「課長が死ぬのは残念でしたね。ご愁傷さまでした。それで、今日はなぜ俺を呼んだのですか?」
「おいおい、そこはサラッと流すなよ。そしてまだ死んでねぇ……お前は意地悪な奴だなぁ」
「アンタが今まで俺にしてきた事と比べたら、可愛いもんでしょ?」
俺と課長のやり取りを、黒百合は微笑みながら、筍は緊張した顔で見ている。課長はビールを飲み干すと、俺にこう言った。
「英、お前に頼みがある……」
ニヤけた顔をしているが、課長の目は真剣だった。
「八日前、任務中の紫雲英班から死人が出た。名前は苔桃。殺したのはバディの荊だ。荊は救出対象者である一柳ツキを異世界から連れ戻した直後に、苔桃を殺害し、ツキを連れて逃亡した」
その二人のことは詳しくしらないが、紫雲英の名前を聞くと自然と眉根が寄った。同じ救済課で、同じく班長だが、俺の天敵だ。俺は、血の通わない冷たい右手の義手に触れた。
「一大事じゃないですか。救出対象者を連れて逃げるなんて……何が目的なんですか?」
「荊はツキを攫ったその日のうちにな、俺の元に文書を送りつけてきたんだ。それがコレだ……」
課長は懐から紙を一枚取り出し、広げて俺に見せた。
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異世界転生救済課、課長、蒲公英様
貴方様にお願いがあります。私は特異死刑囚『砂庭ゴウゾウ』の即時釈放を求めます。
私の要求が叶うまで、異世界転生救済課に関わる要人が、一柳ツキの能力、未来死で順次死ぬ事となります。
・元法務大臣、成川清吾……心不全
・稲穂商事会長、藤忠明……焼死
・救済課課長、蒲公英……溺死
まずは成川氏から殺します。これは脅しではありません。お早い御決断をお勧め致します。
荊
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課長が見せた紙に記された名前に見覚えがあった。
「元法務大臣、成川氏が逝去したのはニュースで知りました。まさかあれが“未来死”……てすか?」
「そうだ、そしてつい三時間前、藤忠明が自宅で突然体が発火して焼け死んだ……成川が死んだのはこの文が届いた四日後、それから四日後の今日、藤は死んだ」
その法則のまま進むと、四日後に課長は死ぬ……
思わず言葉を失った。いくらなんでもチート過ぎる。予告通りに人を殺せる能力を、一柳は現実世界に持ち帰ったのか。
「この脅迫状の存在は誰にも教えていない。英……特命だ。荊と一柳ツキを捕まえろ」
課長の表情からはいつもの余裕が消えていた。
*次回、『特命』




