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悪役令嬢セレフィーナ 乙女ゲームが始まらない  作者: 南蛇井


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第9話:宰相の調査

王城の執務室は、昼でも静かだった。

重い書棚と地図に囲まれた部屋の中央で、アルヴェルト王子は腕を組んだまま窓の外を見ていた。


机の前には、この国の政治を支える男――宰相グラディウスが立っている。


「奇妙な話をする」


王子がそう言うと、宰相は即座に答えた。


「殿下が奇妙とおっしゃる場合、大抵は奇妙です」


わずかに沈黙が落ちる。


王子は振り返った。


「アストリア令嬢だ」


その名を聞いた瞬間、宰相はため息のように言った。


「問題児ですな」


「違う」


王子は即座に否定した。


そして、ゆっくりと言った。


「問題が起きない」


宰相の眉がわずかに動く。


「……?」


王子は歩きながら話し始めた。


「騎士の決闘騒ぎがあった」


「はい」


「普通なら彼女が巻き込まれる」


「そうでしょうな」


王子は言った。


「彼女は草取りをしていた」


宰相は黙った。


王子は続ける。


「魔法事故が起きた」


「はい」


「彼女は灰を肥料として回収していた」


宰相の表情が微妙に崩れる。


王子はさらに言う。


「暗殺未遂があった」


「……」


「彼女は紅茶を淹れ忘れて庭にいた」


執務室に沈黙が落ちた。


やがて宰相は言った。


「……報告書にはありません」


「だからお前に頼む」


王子は机に手を置いた。


「あの令嬢を調べろ」


その日から、宰相府の情報部が動き出した。


「アストリア令嬢の調査だ」


命令は簡潔だった。


調査項目は多岐にわたる。


交友関係。

魔力。

家臣。

家庭教師。

日常行動。


部下の一人が聞いた。


「危険人物ですか?」


宰相は少し考えてから言った。


「不明だ」


そして付け加える。


「だが奇妙だ」


数日後。


宰相の机には、分厚い報告書が積まれていた。


グラディウスはページをめくる。


一行目。


・毎日庭にいる


二行目。


・雑草採取


三行目。


・土壌研究


四行目。


・虫観察


五行目。


・肥料実験


宰相は黙った。


さらにページをめくる。


・草の成長記録

・雑草の分類

・土壌水分測定


宰相はぽつりと言った。


「農学者か?」


その時、情報部の部下が一歩前に出た。


「最も奇妙な点があります」


「何だ」


「彼女の庭ですが」


「……?」


部下は言う。


「王城の庭より整っています」


宰相はゆっくり顔を上げた。


「……?」


部下はさらに続ける。


「しかも」


「雑草の種類が非常に豊富です」


「豊富?」


「はい」


「計画的に育てている可能性があります」


宰相は沈黙した。


そして呟く。


「令嬢が」


「雑草を」


「計画的に?」


「はい」


部下は最後の報告を告げる。


「そして」


「学園イベントへの参加率」


「ほぼゼロです」


宰相は言った。


「ゼロ?」


「はい」


グラディウスは椅子にもたれた。


そして静かに言った。


「理解できない」


部下が聞く。


「危険人物でしょうか」


宰相は首を振った。


「違う」


そして結論を出す。


「理解不能人物だ」


その日の夜。


宰相は王子の前にいた。


「どうだった」


王子が聞く。


宰相は答える。


「危険ではありません」


「では?」


「説明不能です」


王子は黙る。


宰相は続けた。


「彼女は」


「学園政治」


「恋愛」


「権力」


「すべてに関与していません」


王子は眉をひそめた。


「では何を?」


宰相は淡々と言った。


「雑草です」


沈黙が落ちる。


その頃。


アストリア家の庭。


セレフィーナはしゃがみ込み、地面を見ていた。


「あら」


小さな芽を見つける。


「まぁ」


嬉しそうに微笑む。


「見たことない種類だわ」


彼女はそっと土を整えた。


「あなたもここで育ちましょうね」


楽しそうに観察を続ける。


その同じ時間。


王城では会議が開かれていた。


議題。


「雑草栽培の政治的意味」


宰相は会議室の天井を見上げながら、心の中で呟いた。


(この令嬢……)


(本当にただの変人なのか……?)


答えは、まだ誰にも分からなかった。

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