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悪役令嬢セレフィーナ 乙女ゲームが始まらない  作者: 南蛇井


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第7話:ヒロイン困惑

――イベントが起きない世界


夜。


女子寮の一室。


机の上にはノートが広げられ、そこにびっしりと文字が書き込まれていた。


ミリアは両手で頭を抱えている。


「……おかしい」


ぽつりと呟く。


ノートの上には、整った文字でこう書かれていた。


イベント進行表


入学式衝突イベント

階段運命イベント

騎士救出イベント

魔法事故イベント

お茶会対立イベント


ミリアはペンを握り、ひとつずつ横に大きな文字を書いた。


失敗


失敗


失敗


失敗


失敗


ペンが止まる。


「……全部」


ミリアは椅子の背にもたれた。


「全部失敗してる」


部屋の中は静かだった。


時計の針の音だけが聞こえる。


カチ。


カチ。


ミリアはノートをめくる。


「まず、入学式」


本来のイベント。


ヒロインと悪役令嬢が衝突。


周囲の注目を集め、物語が始まる。


しかし現実は。


——回想。


入学式の校庭。


ミリアはセレフィーナを睨んでいた。


悪役令嬢。


高慢で冷酷。


そういうはずだった。


しかし。


セレフィーナはしゃがみこんでいた。


地面を触りながら。


「この土……粘土質ですわね」


「排水が悪そうです」


ミリアはその時の自分を思い出す。


立ったまま。


何も言えず。


「……」


回想終了。


ミリアはノートに書いた。


衝突イベント:消滅


次のページ。


「階段イベント」


これは重要なイベントだった。


ヒロインが階段で転びそうになる。


王子アルヴィンが助ける。


ロマンチックな出会い。


——回想。


階段の上。


ミリアが足を滑らせた。


「あっ」


転ぶ。


その瞬間。


王子が腕を伸ばす。


しかし。


横でしゃがんでいる人物がいた。


セレフィーナ。


階段の手すりを触っていた。


「この木材、良いものですわね」


王子が言った。


「……そうだな」


二人は手すりを見ていた。


ミリアは一人で転んだ。


回想終了。


ミリアはノートに書く。


階段イベント:崩壊


ページをめくる。


「騎士イベント」


本来。


チンピラが絡む。


騎士レオンが助ける。


好感度上昇。


——回想。


校舎裏。


チンピラが近づく。


レオンが剣を抜く。


しかし。


セレフィーナは地面を見ていた。


「雑草が多いですわね」


レオンが止まる。


「……そうですね」


二人で草を抜き始めた。


チンピラは帰った。


回想終了。


ミリアは机に額をぶつけた。


「意味がわからない」


ノートをめくる。


「魔法イベント」


これは確実だった。


魔法暴走。


カイルが助ける。


完璧なイベント。


——回想。


爆発。


煙。


灰。


そしてセレフィーナ。


灰を指でつまむ。


「その灰、肥料になります?」


カイルが答える。


「……研究してみます」


回想終了。


ミリアは天井を見た。


「なんで?」


最後のページ。


「お茶会」


毒入り紅茶。


本来なら事件になる。


しかし。


セレフィーナは紅茶を冷ました。


ふう。


ふう。


そして。


忘れた。


回想終了。


ミリアは机に突っ伏した。


「全部」


「全部成立してない」


沈黙。


時計の音。


カチ。


カチ。


ミリアはゆっくり顔を上げた。


「……まさか」


ノートの新しいページを開く。


震える手で書く。


仮説


ペンが止まる。


そして。


ゆっくり書いた。


セレフィーナがイベントを消している


ミリアは固まった。


「でも」


「本人」


「何もしてない」


それが一番おかしい。


翌日。


学園の中庭。


ミリアは木の影から様子をうかがっていた。


視線の先。


セレフィーナがしゃがんでいる。


花壇の前。


庭師と話している。


「この土に灰を混ぜてみましょう」


庭師が首を傾げる。


「灰ですか?」


「魔法灰ですわ」


セレフィーナは真剣だった。


ミリアはノートを取り出す。


書き込む。


セレフィーナ観察結果


・土を触る

・草を抜く

・石を拾う

・紅茶忘れる


ミリアは顔を上げた。


「ただの園芸令嬢じゃない!」


その時。


王子アルヴィンが通りかかった。


「また花壇か」


セレフィーナが微笑む。


「ええ」


普通の会話。


恋愛の空気。


ゼロ。


ミリアは小さく呟いた。


「王子ルート……消えた」


王子とセレフィーナは花壇の話をしている。


「水やりは朝が良いそうです」


「そうなのか」


本当に普通の会話。


ミリアは空を見た。


青い。


平和だ。


「この世界」


ぽつり。


「本当に乙女ゲーム?」


その時。


セレフィーナが立ち上がった。


花壇の花を見る。


「この花」


「少し元気がありませんわね」


彼女は水をかけた。


きらり。


水滴が光る。


花が揺れる。


風が吹く。


穏やかな景色。


なぜか。


その場所だけ。


世界が静かだった。


ミリアの背筋が寒くなる。


夜。


女子寮。


ミリアはノートに最後の一行を書いた。


結論:イベントが起きない原因


ペンが止まる。


そして書いた。


セレフィーナ


ミリアはノートを閉じた。


小さく呟く。


「……この人」


沈黙。


「悪役令嬢じゃない」


さらに小さく。


「バグ?」

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