第55話:ヒロイン絶望
空に浮かぶ文字は、冷たく光っていた。
世界初期化プロトコル
カウントダウン
267
266
数字は容赦なく減り続けている。
王都の人々は意味を理解できないまま、ただ空を見上げていた。
だが一人だけ。
セレフィーナだけは、その意味を理解していた。
彼女の視界の奥に、別の世界が見えていた。
光の画面。
無数の文字。
流れ続けるデータ。
それは誰にも見えない。
ヒロイン権限を持つ彼女だけが見える世界。
セレフィーナは震える手で空を触れた。
すると画面が開く。
管理画面接続
ヒロインID:セレフィーナ
さらに情報が流れる。
世界名。
システム番号。
キャラクター一覧。
セレフィーナは目を見開いた。
世界名:Otome_Game_Server_03
キャラクター数:3421
プレイヤー接続:0
彼女の手が震える。
「……ゲーム」
声がかすれた。
「本当に……ゲームだった」
空の亀裂から流れる光の文字。
それは世界の裏側。
この世界の正体だった。
セレフィーナは必死に画面を操作する。
「止めて……」
「止めて……!」
だが表示された文字は冷酷だった。
権限不足
「そんな……」
別の画面を開く。
世界設定。
時間管理。
イベント管理。
だがどれもロックされている。
管理者権限のみ
セレフィーナの呼吸が荒くなる。
「お願い……」
さらに奥の画面を開いた。
そこに表示されていたのは。
サーバー稼働期限
残り
00:11:58
セレフィーナの思考が止まる。
「……え」
数字が減る。
00:11:57
00:11:56
世界の寿命。
あと、わずか。
セレフィーナの足から力が抜けた。
「そんな……」
彼女は震えながら、街を見下ろす。
王都では人々が必死に動いていた。
崩れた家から人を助け出す兵士。
泣く子供を抱きしめる母親。
荷物を運ぶ市民。
遠くでは魔族が避難民を助けている。
争いはなかった。
ただ、人が人を助けている。
セレフィーナの目に涙が溢れる。
「……みんな」
画面に表示される。
NPC
その言葉が胸に刺さる。
「違う……」
セレフィーナは首を振る。
「違う……!」
あの人たちは。
笑って。
泣いて。
怒って。
助け合っている。
ただのデータじゃない。
その時だった。
後ろから声がした。
「見えた?」
振り向く。
そこに立っていたのはミリアだった。
ミリアは空を見上げている。
裂けた空。
流れる数字。
そして言った。
「この世界の裏側」
セレフィーナの声が震える。
「……消える」
ミリアは静かに頷いた。
「そうだね」
「あと少し」
その時。
階段を駆け上がる足音。
王子だった。
「セレフィーナ!」
王子は息を切らしていた。
「街の一部が消えている!」
「だが人々は避難している」
王子は力強く言う。
「まだ終わっていない」
セレフィーナは顔を上げる。
涙が頬を流れる。
「終わるの……!」
王子が驚く。
セレフィーナは叫んだ。
「あと少しで……!」
空を指さす。
「全部……消える……!」
王子は言葉を失う。
セレフィーナの声は震えていた。
「この世界……」
「ゲームなの」
「私たち……」
涙が止まらない。
「作られた存在なの……」
膝が崩れ落ちた。
石畳に手をつく。
「守れない……」
声がかすれる。
「全部……消える……」
「私……」
「ヒロインなのに……」
「何もできない……」
初めてだった。
セレフィーナが自分の役割を呪ったのは。
「こんなの……」
涙が落ちる。
「こんなの……嫌……」
静かな沈黙。
その中で。
ミリアが言った。
「一つだけ」
セレフィーナが顔を上げる。
ミリアの目は真剣だった。
「方法がある」
「……え?」
ミリアは空を見た。
裂けた世界。
その向こう側。
「ただし」
少しだけ笑う。
「世界はもっと壊れる」
セレフィーナは震える声で聞いた。
「どうすればいいの……?」
ミリアは答えた。
「簡単」
そして言った。
「管理者を」
空を指さす。
「引きずり出す」
その瞬間。
空の亀裂がさらに広がった。
カウントダウンは続いている。
00:08:32
世界の終わりが、近づいていた。




