第52話:イベント暴走
「全部、選ばない」
セレフィーナの言葉が空に響いた瞬間だった。
王都の空に浮かんでいた光の画面が、激しく揺れ始めた。
ヒロイン選択イベント
エラー
分岐未確定
システム修正開始
空の文字が赤く点滅する。
次の瞬間。
王都の広場に、突然風が吹いた。
花びらが舞う。
どこからともなく音楽が流れ始める。
優雅な、舞踏会のような旋律。
だが。
周囲の光景はまったく優雅ではなかった。
崩れかけた建物。
逃げ惑う人々。
遠くで鳴る悲鳴。
完全に場違いな光景の中で、花びらだけがふわりと舞っている。
王子が思わず空を見上げた。
「……何だこれは」
その時だった。
王子の体が、一瞬だけ硬直する。
そして口が勝手に動いた。
「セレフィーナ……」
王子自身も驚いた顔をする。
だが言葉は止まらない。
「君を、愛している」
沈黙。
セレフィーナが目を見開く。
王子も完全に困惑していた。
「……今のは」
王子は自分の口を押さえる。
「俺じゃない」
空の画面が再び揺れる。
恋愛イベント進行中
王子が呆れた顔で空を見る。
「勝手に進めるな」
その瞬間。
王都の外、丘の上。
ミリアの周囲で空が暗くなった。
黒い雲が渦巻く。
雷が走る。
地面が震える。
そして重々しい音楽が鳴り始めた。
まるで世界の終わりのような旋律。
ミリアが腕を組む。
「……あー」
空に文字が浮かぶ。
ラスボスイベント開始
魔王覚醒
ミリアはため息をついた。
「だからやらないって言ったよね」
しかし空は容赦なく暗くなる。
雷が落ちる。
魔族たちが戸惑う。
「魔王様……?」
ミリアは肩をすくめた。
「勝手に演出してるだけ」
その頃。
王都ではさらに奇妙なことが起きていた。
広場の中央。
突然、豪華なシャンデリアが現れた。
崩れた石畳の上に。
舞踏会の装飾。
貴族の服を着た人々が現れる。
だがそれは一瞬で消える。
その代わりに。
兵士が叫ぶ。
「総員、戦闘準備!」
戦争イベント。
だがその直後。
別の男が言う。
「ようこそ、学園舞踏会へ」
兵士が固まる。
「……は?」
逃げていた市民が突然言う。
「勇者様、魔王を倒してください」
兵士が怒鳴る。
「勇者なんていない!」
だが別の兵士が真顔で言う。
「舞踏会の時間です」
完全に会話が崩壊していた。
教会前。
セレフィーナはその光景を見ていた。
街のあちこちで
恋愛イベント。
戦争イベント。
舞踏会イベント。
全部が同時に起きている。
セレフィーナは拳を握った。
「……やめて」
空を睨む。
「こんなの」
「物語じゃない」
空の文字は止まらない。
イベントキュー処理中
複数イベント実行
丘の上。
ミリアはシステム画面を読み取っていた。
大量のデータが流れる。
ミリアが呟く。
「なるほど」
魔族の部下が不安そうに聞く。
「魔王様……?」
ミリアは笑った。
「イベントが渋滞してる」
画面を指でなぞる。
「世界が、全部の物語を同時に進めようとしてる」
つまり。
恋愛も。
戦争も。
最終決戦も。
全部一度に起きている。
「そりゃ壊れるよ」
その時。
空に再び声が響いた。
管理者。
だが今度ははっきり焦っていた。
「システム……安定度低下」
「復旧のため」
「強制ルート固定を実行します」
王都の空に巨大な文字が現れる。
ルート強制決定
三つの選択肢が表示される。
王子ルート
魔王討伐ルート
世界リセット
王子が塔の上からそれを見る。
ミリアも空を見上げる。
セレフィーナも。
沈黙。
そして。
画面が突然、大きく歪んだ。
文字が崩れる。
光が乱れる。
新しい文字が浮かび上がる。
新ルート生成
タイトルが表示される。
ヒロイン反逆ルート
世界が大きく揺れた。
空の亀裂が、さらに広がっていった。




