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悪役令嬢セレフィーナ 乙女ゲームが始まらない  作者: 南蛇井


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第39話:王子の決断

王都は、まだ静まらない。


夜ごとに起きる小競り合い。


暗殺者の影。


貴族残党の動き。


そして、魔族の噂。


人々は落ち着きを取り戻しつつあるが、王宮では緊張が続いていた。


その日の朝、王宮の会議室には重い空気が流れていた。


円卓を囲むのは、宰相、騎士団長、神官長、そして王子。


諜報官が報告を終える。


「以上です」


宰相が眉を寄せた。


「魔族が“聖女”を狙っている可能性が高い、ということか」


「はい」


諜報官は頷く。


「民衆の信仰の中心です」


「彼女が倒れれば、王都は混乱します」


騎士団長が腕を組む。


「つまり敵にとっては、最高の標的だ」


神官長が言った。


「聖女セレフィーナを王宮に保護すべきです」


宰相も頷く。


「政治的にも必要です」


「彼女はすでに王国の象徴となっています」


つまり。


聖女を、国家の管理下に置く。


それが会議の結論だった。


だが――


王子は何も言わなかった。


静かに窓の外を見ている。


宰相が問いかける。


「殿下?」


王子は小さく言う。


「少し、外を見てくる」


王宮を出て、教会へ向かう。


王子は護衛を最低限にして歩いた。


城壁を越え、街を抜ける。


やがて教会が見えてくる。


その裏庭で、王子は足を止めた。


荒れ地だった場所が、変わっている。


整えられた土。


畝。


そして小さな芽。


人々が働いている。


子供が水を運び、老人が石をどけ、兵士が鍬を振るう。


その中心に――


セレフィーナがいた。


泥だらけで。


袖をまくり、土をならしている。


子供が笑う。


「聖女様!」


「聖女様、芽が増えた!」


セレフィーナは嬉しそうにしゃがみ込む。


「本当だ」


王子はその光景を、しばらく黙って見ていた。


やがて、彼女に近づく。


「……セレフィーナ」


セレフィーナが振り向く。


「あ、殿下」


顔に泥がついたまま、笑った。


「どうしたんですか?」


王子は少し戸惑う。


聖女と呼ばれる少女が、こんな姿で笑っている。


「話がある」


セレフィーナは頷いた。


二人は畑の端へ歩く。


王子が言った。


「王宮に来ないか」


セレフィーナは目を丸くする。


「え?」


「君は狙われている」


王子の声は真剣だった。


「魔族も、暗殺者も」


「王宮なら守れる」


沈黙が落ちる。


風が畑を揺らす。


セレフィーナはしばらく考えていた。


そして、静かに首を振った。


「……行けません」


王子は驚く。


「なぜだ」


セレフィーナは畑を見る。


子供たち。


難民。


働く人々。


「私がいなくなったら」


「この人たちはどうするんですか」


王子は答えられなかった。


セレフィーナは続ける。


「私は聖女じゃありません」


小さく笑う。


「ただの人です」


彼女は土を指でつまんだ。


「でもここなら」


「人を助けられる」


王子は黙ったままだった。


やがて彼は言う。


「……そうか」


それだけ言って、王子は王宮へ戻った。


夜。


王宮の会議室。


再び円卓が囲まれている。


宰相が言う。


「では、聖女は?」


王子は答える。


「王宮には来ない」


ざわめきが起きた。


神官長が立ち上がる。


「殿下、それでは危険です」


宰相も言う。


「彼女は王国の象徴です」


「国家として守らねば」


王子は静かに言った。


「象徴ではない」


部屋が静まり返る。


王子は続ける。


「彼女は人だ」


誰も言葉を返せない。


王子は立ち上がった。


「彼女は王宮に来ない」


「ならば」


彼の瞳が強くなる。


「こちらが守ればいい」


騎士団長が少し笑った。


「つまり?」


王子ははっきり言う。


「彼女を守る」


一瞬の沈黙。


そして続けた。


「王としてではない」


「私の意思で」


騎士団長は深く頷いた。


「承知しました」


「精鋭を出します」


その夜。


教会の農園。


月明かりの中、小さな芽が揺れている。


セレフィーナが水を撒いていた。


その時。


鎧の音が聞こえる。


振り向くと、騎士たちが並んでいた。


教会の周囲に配置されていく。


セレフィーナは驚く。


「どうしたんですか?」


そこへ王子が歩いてくる。


「守備だ」


「え?」


王子は畑を見る。


小さな芽。


土。


人の手で作られた場所。


「この畑を守る」


セレフィーナは戸惑う。


「畑?」


王子は少しだけ笑った。


「王国の未来だからな」


風が吹く。


芽が揺れる。


その光景を、遠くの丘から見ている者がいた。


ミリア。


彼女は静かに呟く。


「守れると思ってるの?」


その背後には。


黒い軍勢。


魔王軍。


夜の闇が、ゆっくりと王都へ近づいていた。

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