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悪役令嬢セレフィーナ 乙女ゲームが始まらない  作者: 南蛇井


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第36話:ヒロイン闇堕ち

王都の広場には、人が溢れていた。


教会の鐘が鳴り、巡礼者たちが祈りを捧げている。


「聖女様に祝福を」


「この国をお守りください」


白い花が供えられ、子供たちが手を組んで祈る。


その中心にあるのは、ただ一つの名前だった。


セレフィーナ。


奇跡の聖女。


神の加護を受けた少女。


王国を救う存在。


人々はそう信じていた。


だが、その光景を少し離れた場所から見つめる少女がいる。


ミリアだった。


彼女は静かに広場を眺めている。


祈り。


希望。


笑顔。


そして、誰かが言った。


「聖女様がいるなら、この国はもう大丈夫だ」


その言葉を聞いた瞬間、ミリアの眉がわずかに動いた。


「……違う」


小さな声。


誰にも聞こえない呟きだった。


彼女の目には、別の光景が浮かんでいる。


戦場。


焼けた村。


血に染まった地面。


倒れた人々。


助けを求める声。


そのすべてを、ミリアは見てきた。


なのに人々は、今こう言っている。


「聖女様が救ってくれる」


「神はこの国を見捨てていない」


ミリアは静かに目を閉じた。


そして呟く。


「……何も変わってない」


その日の夕方。


王宮の庭園。


セレフィーナが花壇の前で立っていた。


そこへミリアが歩いてくる。


「ミリア」


セレフィーナは少し安心したように笑う。


「探してたんです」


ミリアは隣に立つ。


「街を見てきた」


「どうでした?」


セレフィーナは困ったように笑う。


「皆さん、私を聖女だなんて……」


「私はそんな人じゃないのに」


ミリアは静かに聞いた。


「本当に?」


「え?」


「あなたは、この国を救えると思う?」


セレフィーナはすぐに首を振った。


「そんな力ありません」


「私はただ……」


言葉を探す。


「皆が傷ついてほしくないだけです」


ミリアは少しだけ笑った。


しかしその笑みは、どこか冷たかった。


「でも人は信じてる」


セレフィーナは戸惑う。


「え?」


ミリアは言う。


「人は“希望”があれば、現実を見ない」


風が庭園を通り抜ける。


ミリアは続けた。


「聖女がいるから大丈夫」


「神が守ってくれる」


「誰かが救ってくれる」


静かな声だった。


「だから、この世界は変わらない」


セレフィーナは何も言えなかった。


「ミリア……?」


だがミリアは、それ以上何も言わなかった。


夜。


王都の裏路地。


灯りも届かない暗い場所。


ミリアは一人で歩いていた。


その時。


「君は、この世界が嫌いだろう?」


背後から声がした。


振り向く。


黒いローブの男が立っている。


人間ではない。


その瞳が語っていた。


「……誰」


ミリアは警戒する。


男はゆっくり歩み寄る。


「世界の真実を知る者だ」


ミリアは黙った。


男は続ける。


「この世界は壊れている」


ミリアは小さく笑う。


「……知ってる」


男の口元が歪む。


「ならば壊すべきだ」


沈黙。


夜風が吹く。


ミリアの髪が揺れる。


男は囁いた。


「魔王様は、この世界を作り直す」


「偽りの神も」


「腐った王国も」


「すべて終わる」


ミリアは低く聞く。


「終わった後は?」


男は答えた。


「新しい世界」


「苦しみのない世界」


ミリアは長く黙った。


遠くで、王都の鐘が鳴る。


聖女を讃える祈りの鐘だ。


彼女の脳裏に、昔の光景が蘇る。


焼けた村。


泣き叫ぶ子供。


倒れた母親。


そして神官の言葉。


「神は試練を与える」


ミリアはあの時、思った。


これは試練ではない。


ただの――地獄だ。


彼女はゆっくり顔を上げた。


王都の灯りが遠くに見える。


人々は祈っている。


救いを信じて。


だが。


その祈りは、誰も救わなかった。


ミリアの瞳から、迷いが消える。


彼女は静かに言った。


「……全部、嘘だ」


涙が一滴、落ちた。


「救われない人は」


「ずっと救われない」


そして。


ゆっくりと振り向く。


黒ローブの男を見て、はっきりと言った。


「世界を壊す」


夜が静まり返る。


男は微笑んだ。


「ようこそ」


「魔王軍へ」


ミリアはもう振り返らなかった。


王都の灯りを背にして、闇の中へ歩いていく。


その頃、王宮では。


セレフィーナが窓辺に立っていた。


なぜか胸騒ぎがする。


「ミリア……?」


しかし答える者はいない。


遠くの丘で。


ミリアは最後に一度だけ王都を振り返った。


小さく呟く。


「さよなら」


「聖女様」


そして少女は、闇の中へ消えた。


世界を壊すために。

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