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悪役令嬢セレフィーナ 乙女ゲームが始まらない  作者: 南蛇井


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第25話 攻略対象崩壊 ――恋愛どころではない

王立学園の春は、本来なら恋の季節だった。


庭園の薔薇が咲き、噴水の水音が穏やかに響く。

この時期は、乙女ゲームにおいて最もイベントが多い“黄金週間”である。


ヒロイン、ミリアは中庭のベンチに座りながら、胸を高鳴らせていた。


「ついに……イベントラッシュね」


王子との庭園散歩。

騎士との剣術訓練。

魔法天才との研究室イベント。

貴族策士との舞踏会。

隣国王子との外交交流。


好感度が一気に伸びる、いわば恋愛の収穫期。


ミリアは手帳を開き、イベント予定を書き込む。


「今日は王子ルートから……」


その瞬間だった。


中庭の入口から、学生たちのざわめきが聞こえる。


「王子殿下、また庭園にいるらしいぞ」


「でもデートじゃないって」


「花壇だってさ」


ミリアは首を傾げた。


「花壇?」


嫌な予感がした。


庭園の奥。


そこには確かに王子アルヴィンがいた。


だが。


彼はベンチに座っていなかった。


優雅に紅茶を飲んでもいなかった。


スコップを持っていた。


「この位置なら日照が安定しますね」


土を掘りながら、真面目な顔で言う。


その隣では、セレフィーナが花の苗を並べていた。


「ええ。ここなら水はけも良さそうです」


ミリアは呆然と立ち尽くす。


(……庭園イベント?)


しかしそれは、彼女の知っているイベントではなかった。


王子は真剣だった。


「この土壌、少し固いですね」


「腐葉土を混ぜましょう」


「なるほど」


二人は真面目に園芸をしている。


ミリアは震えた。


「違う……」


これは恋愛イベントではない。


園芸作業である。


ミリアは急いで次のルートへ向かった。


「騎士ルートなら……!」


剣術訓練場。


ここでは騎士レオンとのイベントが発生するはずだ。


剣の指導。


距離が近い。


心拍数上昇。


完璧なイベント。


……のはずだった。


しかし訓練場には、レオンはいなかった。


代わりに騎士団員が慌ただしく走り回っている。


「騎士団長代理は!?」


「王都警備の指揮中です!」


「暗殺者が増えている!」


ミリアは固まる。


そこへレオンが駆け込んできた。


「学園周辺の警備を強化しろ!」


部下が聞く。


「恋愛イベントは?」


レオンは真顔で答えた。


「今はそれどころではない」


ミリア

「それどころではない!?」


次。


魔法研究棟。


ここは魔法天才ルート。


研究室で二人きりになるイベントがある。


……はずだった。


しかし研究棟は大騒ぎだった。


「魔力反応がまだ残っている!」


「誰だこの魔法構造を書き換えたのは!」


研究室の中心で、魔法天才の青年が頭を抱えている。


助手が叫ぶ。


「原因は花壇の土壌改良です!」


「意味がわからない!」


「闇魔法の残滓が肥料に反応しました!」


「もっと意味がわからない!」


ミリアは静かに後退した。


まだだ。


まだルートはある。


貴族策士ルート。


舞踏会イベント。


ここなら。


しかし貴族サロンでは、恋の気配など一切なかった。


円卓で真剣な会議が開かれている。


「隣国が動いている」


「外交官が怪しい」


「国内の派閥も不穏だ」


貴族策士の青年は腕を組んだ。


「今は恋愛より政治だ」


ミリアは思わず叫びそうになった。


(乙女ゲームで政治を優先するな!!)


最後の希望。


隣国王子ルート。


彼なら。


しかし彼もまた、疲れた顔でため息をついていた。


「謝罪外交で忙しい」


側近が言う。


「学園恋愛イベントは?」


王子は静かに首を振った。


「無理だ」


ミリアの世界が揺らいだ。


その夜。


学園の談話室。


偶然にも攻略対象たちが顔を揃えていた。


王子アルヴィン。

騎士レオン。

魔法天才。

貴族策士。

隣国王子。


沈黙が流れる。


レオンが言った。


「最近、事件が多すぎる」


魔法天才が頭を抱える。


「研究が進まん」


策士が呟く。


「外交問題だらけだ」


隣国王子が言う。


「本国が怒っている」


そして王子が穏やかに言った。


「花壇が増えました」


沈黙。


全員、同時に思った。


恋愛どころではない。


一方その頃。


庭園。


セレフィーナは花の苗を植えていた。


王子が隣で水をやる。


「最近、学園が平和ですね」


セレフィーナは首を傾げる。


「そうかしら?」


「事件が全部未遂です」


「偶然でしょう」


夜風が吹き、花が揺れる。


遠くでミリアが呟いた。


「私のゲームが……」


壊れていた。


完全に。


静かに。


崩壊していた。

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