第23話:闇魔法事件 闇魔法暴走。セレフィーナ「珍しい土ね」
王立アストリア学園、魔法演習場。
広い砂地の訓練場に、生徒たちが並んでいた。
今日は魔法実習の日である。
教師が腕を組み、厳しい声で言った。
「本日の課題は魔力制御だ」
生徒たちが頷く。
「使用可能魔法は、初級三種」
黒板に書かれている。
火
風
光
教師は振り返る。
「そして――」
強く言った。
「闇魔法は禁止だ」
生徒たちが少しざわめく。
教師は続けた。
「理由は分かるな」
誰もが知っている。
闇魔法は危険だ。
精神汚染。
魔物発生。
魔力暴走。
制御を誤れば、演習場どころか学園が消える可能性すらある。
教師は腕を振った。
「では始め!」
その頃。
演習場の端。
セレフィーナ・フォン・アルティスはしゃがみ込んでいた。
手にしているのはスコップ。
見ているのは地面。
侍女が不安そうに言う。
「お嬢様……魔法の授業ですが」
セレフィーナは頷いた。
「ええ」
そして真剣に言う。
「だから調べているのよ」
侍女は首を傾げる。
「……何をですか?」
セレフィーナは土をすくった。
「この演習場の土質」
その頃。
演習場の中央。
一人の男子生徒が焦っていた。
ローデル・グランディス。
名門貴族の子息。
だが成績は平凡。
今日の授業には王子も視察に来ている。
彼は思った。
(このままでは目立てない……)
ポケットから小さな石を取り出す。
黒い石。
闇魔法触媒。
本来は研究室保管品だ。
ローデルは呟いた。
「少しだけなら……」
呪文を唱える。
黒い魔法陣が浮かぶ。
一瞬。
静寂。
次の瞬間。
爆発的な魔力が噴き出した。
地面から黒い霧が溢れる。
空気が冷える。
魔法陣が暴走する。
教師が叫んだ。
「闇魔法!?」
「全員下がれ!!」
生徒たちが悲鳴を上げる。
「逃げろ!」
「闇魔法だ!」
ヒロイン・ミリアも顔を青くする。
「そんな……!」
黒い魔力は地面に広がっていく。
草が枯れる。
砂が黒く染まる。
教師が結界を張る。
「くそ……抑えきれない!」
闇魔法は制御不能だ。
暴走すれば止めるのは困難。
そのとき。
演習場の端で。
セレフィーナは黒く変色した土を見ていた。
しゃがみ込み。
指で触る。
侍女が悲鳴を上げる。
「お嬢様危険です!!」
セレフィーナはじっと観察する。
しばらくして。
ぽつりと言った。
「珍しい土ね」
周囲の空気が凍った。
教師が叫ぶ。
「触るな!!」
騎士も慌てる。
「闇魔法ですよ!?」
ミリアが叫ぶ。
「危ないのよ!?」
セレフィーナは頷いた。
「ええ」
そして真顔で言った。
「だから珍しいの」
誰も言葉を返せない。
セレフィーナは土を指で崩した。
黒い粒子。
魔力の残滓。
彼女の目が少し輝く。
「この腐食……」
呟く。
「魔力菌かしら」
侍女が半泣きになる。
「お嬢様!!」
だがセレフィーナはすでに研究者の顔だ。
スコップで地面を掘る。
黒い土を広げる。
空気に触れさせる。
その瞬間。
奇妙なことが起きた。
暴走していた闇魔力が
ゆっくり弱まり始めた。
教師が目を見開く。
「……?」
黒い霧が薄れる。
魔法陣が消えていく。
まるで
土に吸われているようだった。
理由は単純だった。
セレフィーナが掘った穴。
土壌が空気に触れ
魔力が拡散した。
結果。
闇魔法は
自然に収束した。
数分後。
騎士団が到着。
ローデルは拘束された。
演習場は封鎖。
被害は最小。
教師たちは顔を見合わせる。
「……なぜ収まった」
一人が言う。
「令嬢が掘った穴……?」
別の教師が首を振る。
「偶然だ」
「闇魔法だぞ」
誰も説明できない。
ミリアは遠くからセレフィーナを見ていた。
彼女は頭を抱える。
「また……」
小さく呟く。
「またあの人……」
唇を噛む。
「絶対おかしい」
その頃。
セレフィーナは小瓶を取り出していた。
黒い土を入れる。
侍女が聞く。
「何をなさるのですか」
セレフィーナは微笑む。
「研究用」
瓶を光にかざす。
黒い粒子がきらめく。
「この土」
真剣な顔で言う。
「魔力肥料になるかもしれないわ」
侍女は静かに天を仰いだ。
今日もまた。
王国の危機は
静かに終わった。
ただ一人。
それに気づかない令嬢の手によって。




