第22話:学園祭陰謀 「爆破計画。セレフィーナが屋台の位置を変更」
王立アストリア学園の校庭は、朝から騒がしかった。
色とりどりの旗。
木製の屋台。
甘い菓子の匂い。
年に一度の学園祭である。
生徒たちは忙しそうに走り回り、木材を運び、看板を立てていた。
「急げ急げ! 王子殿下も来るんだぞ!」
実行委員の声が飛ぶ。
校庭中央には大きな地図が広げられていた。
屋台配置図だ。
だがその地図の前で、しゃがみ込んでいる人物が一人。
セレフィーナ・フォン・アルティス。
彼女は真剣な顔で地面を触っていた。
指で土をすくい、匂いを嗅ぐ。
侍女が小声で言う。
「お嬢様……今日は学園祭の準備ですが」
セレフィーナは頷いた。
「ええ」
そして真面目に言った。
「だから調べているのよ」
侍女は首を傾げる。
「……何をですか?」
「土よ」
即答だった。
その頃。
王都の地下。
暗い部屋で、数人の男たちが机を囲んでいた。
貴族派の密談である。
机の中央には学園の図面。
赤い印がつけられている。
男が低い声で言う。
「設置は完了した」
別の男が頷く。
「魔法爆弾。半径五十メートル」
三人目が笑った。
「王子は確実にここを通る」
図面の中央。
屋台通り。
学園祭で最も人が集まる場所。
男は指でそこを叩いた。
「爆発すれば、王子も護衛も終わりだ」
沈黙のあと。
一人が言った。
「完璧だ」
その夜。
黒装束の男が学園に潜入した。
校庭の中央。
屋台予定地。
地面を掘る。
魔法装置を埋める。
小さく呟く。
「これで終わりだ」
土を戻す。
足跡を消す。
誰にも気づかれない。
完璧な作業だった。
翌朝。
学園祭準備は最終段階に入っていた。
実行委員長が叫ぶ。
「屋台配置はこの通り!」
生徒たちが地図を覗き込む。
そのとき。
「待ってください」
静かな声。
全員が振り返る。
セレフィーナだった。
彼女は地図を見て、真面目な顔をしている。
委員長が言う。
「どうしました?」
セレフィーナは地面を指した。
「この場所」
校庭中央。
まさに爆弾が埋まっている場所だ。
彼女は言った。
「湿気が多いわ」
生徒たち。
「……」
委員長が困惑する。
「湿気、ですか?」
「ええ」
セレフィーナはしゃがみ、土を触る。
「水はけが悪い」
少し考えてから言う。
「油を使う屋台が多いでしょう?」
委員長が頷く。
「確かに」
「危険です」
セレフィーナは地図の別の場所を指す。
「こちらに移動しましょう」
校庭の端。
委員長は少し考えた。
そして言う。
「……安全第一だな」
生徒たちに指示を出す。
「屋台、全部移動!」
ざわめき。
だが学園祭準備ではよくある変更だ。
生徒たちは屋台を運び始めた。
結果。
屋台は
三十メートル移動した。
地下。
監視役の男が双眼鏡で校庭を見ていた。
「……」
固まる。
仲間が聞く。
「どうした」
男は言う。
「屋台が」
「何だ」
「ない」
「は?」
双眼鏡を奪い取る。
見る。
爆弾の埋まっている場所。
そこは。
ただの空き地。
さらに悪いことに。
新しい看板が立てられる。
『園芸研究展示』
そこへ現れた。
セレフィーナ。
しゃがみ込む。
スコップを持つ。
男が叫んだ。
「掘ってる!!」
地下室で全員が立ち上がる。
「止めろ!」
「どうやってだ!」
「今行ったら捕まる!」
校庭。
セレフィーナは土を掘っていた。
「この土、良いわね」
侍女が言う。
「展示用ですから」
そのとき。
スコップが硬い物に当たった。
カン
セレフィーナが首を傾げる。
「?」
土をどける。
金属の装置。
魔法紋様。
侍女が目を丸くする。
「お嬢様……」
セレフィーナはそれを持ち上げた。
しばらく観察する。
そして言う。
「あら」
生徒が聞く。
「何ですかそれ」
セレフィーナは首を傾げた。
「分からないわ」
少し考える。
「でも」
装置を見て言う。
「危険そうね」
侍女が叫ぶ。
「先生を呼びます!」
数分後。
騎士団が学園に到着した。
校庭は封鎖。
魔法爆弾は回収。
学園祭は一時中断。
貴族派の計画は
完全に崩壊した。
王城。
報告を聞いた王子アルヴィンは黙っていた。
騎士が言う。
「爆弾は未起動でした」
「発見者は」
少し間を置く。
「セレフィーナ令嬢です」
王子は天井を見上げた。
そして呟いた。
「……またか」
同じ頃。
学園祭は再開していた。
セレフィーナは屋台を歩いている。
りんご飴を見て言う。
「砂糖が多いわね」
侍女が言う。
「お嬢様」
「先ほどの爆弾ですが」
セレフィーナは少し考えた。
「ああ」
思い出したように言う。
「地面の中に変なものがあったわね」
そして真顔で言った。
「肥料かと思ったわ」
侍女は何も言えなかった。
セレフィーナはりんご飴を見つめる。
そして呟く。
「甘すぎるわね」
彼女はまだ知らない。
今日もまた。
王国の陰謀を
一つ潰したことを。




