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悪役令嬢セレフィーナ 乙女ゲームが始まらない  作者: 南蛇井


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第21話:宰相胃痛 「なぜ全陰謀が空振りする」

王城宰相府、執務室。


重厚な机の上には書類が山のように積まれていた。

国家予算、外交報告、貴族議会の議事録――


そして、その一番上に置かれているのは。


失敗報告書。


宰相グラディウスは、額を押さえた。


机の端には、小瓶がある。

胃薬だ。


彼は静かに一粒飲み込んだ。


「……報告を」


執務室の隅に控える侍従が一礼する。


「はい、閣下。本日の報告です」


紙を一枚めくる。


「貴族派による王子暗殺計画ですが――」


宰相は目を閉じた。


「失敗したのだろう」


侍従は少し驚いた顔をした。


「はい。会場変更により、計画は成立しませんでした」


宰相は深く息を吐く。


「理由は」


侍従は書類を確認する。


「学園中庭に新しい花壇が設置されており、会場が変更されたためです」


「……花壇」


「はい」


宰相はしばらく黙った。


「誰が作った」


侍従は答える。


「セレフィーナ令嬢です」


宰相は天井を見上げた。


「次」


「毒茶事件です」


侍従が紙をめくる。


「対象の紅茶に毒が混入されていました」


「結果は」


「飲まれませんでした」


「理由」


「冷ましている間に忘れたそうです」


沈黙。


宰相はもう一粒胃薬を飲んだ。


「誘拐事件」


「失敗です」


「理由」


「令嬢が予定の森に来ませんでした」


「なぜだ」


侍従は困った顔をする。


「……キノコ採取に夢中だったため」


宰相はゆっくり机に額をつけた。


「魔法事故」


「失敗」


「狙撃」


「失敗」


「暗殺者」


「成功率0%との結論です」


宰相は顔を上げた。


「0%?」


「暗殺者ギルドの会議で決定されたそうです」


「……」


宰相はしばらく何も言わなかった。


やがて、ゆっくり口を開く。


「侍従」


「はい」


「質問だ」


「なんでしょう」


宰相は真顔で言った。


「なぜ」


書類の山を指差す。


「全ての陰謀が」


一枚めくる。


「空振りする」


侍従は答えられなかった。


宰相は椅子にもたれた。


「偶然か」


侍従は慎重に言う。


「可能性としては……」


「十回続けば偶然ではない」


宰相は断言した。


「ならば理由がある」


彼は紙を引き寄せ、書き始める。


仮説①

護衛が優秀


すぐに線を引く。


「違う」


護衛記録を見る。


「むしろ平均以下だ」


仮説②

内部情報漏洩


「違う」


陰謀は複数派閥。


互いに連絡はない。


仮説③

未来予知


宰相はペンを止めた。


侍従が静かに言う。


「理論上は存在する魔法です」


「成功例は」


「ありません」


宰相は再び胃薬を飲んだ。


「ならば」


呟く。


「なぜ避ける」


侍従が新しい報告書を差し出した。


「追加報告です」


「読め」


侍従は紙を見る。


「セレフィーナ令嬢、本日の行動」


・庭で土壌調査

・キノコ栽培の実験

・新しい肥料の研究


宰相は黙った。


侍従が言う。


「政治活動はありません」


宰相は机を叩いた。


「それが問題なのだ!」


侍従はびくりとする。


宰相は立ち上がり、窓の外を見る。


「この令嬢」


低い声で言う。


「何をしている」


侍従は答える。


「園芸です」


宰相は振り返る。


「それは分かっている」


そして静かに言った。


「なぜ園芸をしている人間の周囲で」


書類を掲げる。


「国家陰謀が壊滅する」


侍従がもう一枚の紙を差し出す。


「学園内の噂です」


宰相は眉をひそめる。


「読め」


「“セレフィーナ令嬢は未来予知者”」


「却下」


「“世界の中心人物”」


「却下」


「“運命を操作している”」


「却下だ!」


宰相は叫んだ。


そして沈黙。


しばらくして、ぽつりと言う。


「……だが」


窓の外を見る。


「説明がつかない」


宰相は椅子に座り直した。


「監視を続けろ」


「はい」


「だが」


彼は指を立てた。


「干渉するな」


侍従は首をかしげる。


「理由は」


宰相は疲れた顔で言う。


「この令嬢」


書類を見る。


「何もしていない」


「はい」


「それなのに」


机の山を指す。


「世界が勝手に動いている」


彼は胃薬の瓶を見つめた。


「……関わると」


小さく呟く。


「もっと悪化する気がする」


同じ頃。


王城庭園。


セレフィーナはしゃがみ込み、土を触っていた。


「この土、酸性が強いわね」


侍女が驚く。


「分かるのですか?」


「ええ」


セレフィーナは微笑む。


「でも改良すれば、とても良い花が咲くわ」


彼女は楽しそうに土を混ぜた。


その背後で。


王国の陰謀は、また一つ静かに崩れていた。


セレフィーナは気づかない。


今日もまた。


何も知らないまま。


花のことだけを考えていた。

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