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悪役令嬢セレフィーナ 乙女ゲームが始まらない  作者: 南蛇井


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第2話 ヒロインの宣戦布告

翌朝。


王立アストリア学園の女子寮の一室で、ミリア・エヴァレットは机に向かって唸っていた。


机の上にはノートが一冊。


そこにはびっしりと書き込まれている。


『薔薇と誓いのロイヤルアカデミア イベント一覧』


ミリアは前世の記憶を頼りに、ゲームのイベントを書き出していた。


そして昨日の出来事を思い出す。


「……おかしい」


悪役令嬢セレフィーナ・ルヴァリエ。


ゲームでは、ヒロインと初対面した瞬間から嫌味を言い、対立関係を作るはずだった。


しかし実際の彼女は――


『この土、面白いわね』


土を調べていた。


ミリアは額を押さえた。


「いや、落ち着こう」


ゲームの世界とはいえ、多少のズレはある。


イベントが少し遅れるくらいなら問題ない。


大事なのは、ここから軌道修正することだ。


ミリアはノートをめくる。


今日のイベント。


彼女は指でそのページを叩いた。


『噴水広場イベント』


内容はこうだ。


昼休み、噴水広場。


ヒロインが通りかかると、セレフィーナが取り巻きと一緒に現れる。


嫌味を言いながら水をかける。


その瞬間――


王子アルヴィンが登場。


ヒロインを庇う。


そして王子の好感度が上がる。


ミリアは拳を握る。


「ここで流れを作る!」


これが物語の最初の大きなイベント。


ここで王子ルートのフラグが立つ。


失敗するわけにはいかない。


ミリアは立ち上がった。


「よし!」


今日は絶対に成功させる。


悪役令嬢との戦いが、ついに始まる。


昼休み。


学園の中庭にある噴水広場は、昼の光に照らされてきらきらと輝いていた。


大理石の噴水から水が流れ落ち、生徒たちの憩いの場になっている。


ミリアは噴水の近くに立っていた。


手には水差し。


少し不自然だが、イベントのためだ。


(落ち着いて……)


ゲーム通りなら、セレフィーナがここを通る。


そしてイベントが発生する。


ミリアは深呼吸した。


その時。


近くを通りかかった女子生徒が話しているのが聞こえた。


「最近、ルヴァリエ様をよく校庭で見かけるわよね」


「ええ。庭師とずっと話しているとか」


ミリアの眉がぴくりと動いた。


「……え?」


女子生徒たちはそのまま去っていく。


ミリアは噴水の水面を見つめた。


(……まあ、来るでしょ)


ゲームでは毎日この道を通る。


イベントポイントなのだから。


五分経つ。


十分快経つ。


二十分。


ミリアは水差しを持ったまま立っていた。


「……遅い」


その時、見覚えのある人物が噴水広場を横切った。


金色の髪。


青い瞳。


王太子アルヴィン。


ミリアの心臓が跳ねた。


(来た!)


だが――


セレフィーナがいない。


王子はミリアの横を普通に通り過ぎた。


一瞬だけこちらを見たが、何も起こらない。


ミリアは固まった。


(違う違う違う!)


(今じゃない!)


王子はそのまま去っていく。


イベントは、起きない。


ミリアは噴水の前で立ち尽くした。


水差しを持ったまま。


「……なんで?」


昼休み終了の鐘が鳴った。


イベント終了。


ミリアは静かに呟く。


「なんで来ないのよ……」


そして、はっとする。


(そうだ)


来ないなら――


行けばいい。


ミリアは決意した。


「セレフィーナのところへ」


校庭の端。


芝生の広がる一角で、セレフィーナはしゃがみ込んでいた。


その横には庭師。


二人は地面に広げた図面を見ている。


「ここにバラを植えようと思うのだけれど」


セレフィーナが言う。


庭師は頷いた。


「日当たりは良さそうですが、水はけが少々」


「ええ、だから土を入れ替えましょう」


完全に園芸の会話だった。


そこへ、ミリアが歩み寄る。


水差しを握りしめながら。


(ここで水をかければ……!)


イベント成立。


そう思った瞬間。


セレフィーナが顔を上げた。


青い瞳がミリアを見つめる。


「あなた、新入生?」


ミリアは思わず固まった。


「え……はい」


セレフィーナは微笑む。


「ちょうどよかったわ」


そう言って、地面の図面を指差した。


「この花壇の配置、どう思う?」


ミリア


「……え?」


「ここにバラを植えようと思うのだけれど」


ミリアは水差しを持ったまま、図面を見下ろした。


噴水。


花壇。


通路。


きれいに描かれた配置図。


頭が追いつかない。


(違う)


(こんなイベントじゃない)


手の中の水差しがやけに重い。


セレフィーナは真剣な顔で言う。


「この場所、日照はどうかしら」


ミリアは立ち尽くした。


ナレーションのように、頭の中で声が響く。


ヒロインは宣戦布告した。


だが――


相手は戦場に来なかった。

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