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悪役令嬢セレフィーナ 乙女ゲームが始まらない  作者: 南蛇井


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第19話:王子のストレス

――王子の日記「理解できない」


王城の一室。

夜は深く、燭台の火だけが机を照らしていた。


王子アレクシスは、ゆっくりと羽根ペンを置いた。


目の前には、分厚い革表紙の日記帳。

幼い頃から続けている記録だ。


彼はページをめくり、書き始めた。


王子の日記


今日も理解できなかった。


なぜ彼女は、あれほど落ち着いていられるのだろう。


昼の出来事を思い出す。


庭園での騒動。

またしても、彼女――レディアナが中心にいた。


毒殺未遂の疑い。

証拠。

告発。


普通の令嬢なら、泣く。

震える。

弁明する。


だが彼女は違った。


静かに紅茶を飲み、

淡々と状況を整理し、

そして一言だけ言った。


「では、調べましょう」


それだけだった。


王子はペンを止める。


そして、再び書く。


彼女は怒らない。

怯えない。

取り乱さない。


まるで、最初から結果を知っているようだ。


彼は眉を寄せた。


「……あり得ない」


呟きが漏れる。


王宮の政治は複雑だ。

陰謀、派閥、裏取引。


自分ですら、時に翻弄される。


だが彼女は違う。


迷わない。


日記の続きを書く。


私は今日、彼女に質問した。


「なぜそんなに冷静でいられるのですか」


彼女は答えた。


「慣れていますから」


王子はその言葉を思い出し、深くため息をついた。


慣れている?


何に?


毒殺未遂に?

告発に?

断罪に?


そんなものに慣れている人間がいるはずがない。


ペン先が紙を強く押した。


理解できない。


本当に理解できない。


ふと、王子は窓の外を見る。


夜の王都。


静かな灯りが広がっている。


その中で、ひとつの疑問が浮かぶ。


だが、今日ひとつ気づいた。


彼女は恐れていないのではない。


恐れる必要がないのだ。


王子はペンを止めた。


それが意味するものを、考える。


もし彼女が、


未来を予測しているのだとしたら。


もし彼女が、


この王宮の全てを知っているのだとしたら。


「……まさか」


王子は小さく笑った。


馬鹿げた考えだ。


未来がわかる人間などいるはずがない。


しかし。


日記の最後に、彼はこう書いた。


もし仮に。


仮にだが。


彼女が未来を知っているとしたら――


私は今、

その未来の中にいることになる。


ペンを置く。


ページを閉じる。


王子は深く椅子にもたれた。


そして静かに呟いた。


「……本当に理解できない」


だがその言葉は、苛立ちではない。


どこか、興味に近かった。


夜の城。


王子はまだ知らない。


この「理解できない」という感情が、


やがて――


恋よりも厄介なものに変わることを。

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