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悪役令嬢セレフィーナ 乙女ゲームが始まらない  作者: 南蛇井


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第18話:強制恋愛イベント

王立アストリア学園の大講堂は、今夜だけ別世界のようだった。


天井には巨大なシャンデリア。

壁には金の装飾。

床には磨き上げられた木の舞踏フロア。


年に一度の学園舞踏会。


貴族の子女たちは正装に身を包み、楽団が優雅なワルツを奏でている。


そして——


この場にいる一人の少女は、拳を握りしめていた。


ヒロイン、ミリア。


(ついに来た)


彼女は心の中で叫ぶ。


(乙女ゲーム最大イベント!)


王子アルヴィンとのダンスイベント。


ゲームではここで王子がヒロインに声をかけ、特別な会話が発生し、好感度が大きく上昇する。


今まで壊され続けたイベント。


しかし舞踏会は違う。


全員が会場に集められ、逃げ場がない。


ミリアは確信していた。


(今回は絶対成功する)


楽団の曲が終わる。


静寂。


王子アルヴィンが一歩前に出る。


長身の金髪。


会場が静まり返る。


貴族たちの視線が集まる。


そして王子が歩き出す。


ミリアの心臓が跳ねる。


(来る……!)


王子は真っ直ぐ歩く。


その時だった。


突然、王子の足が止まった。


ミリア

(え?)


理由はすぐに分かった。


王子の前に、しゃがみ込んでいる人物がいたからだ。


青いドレスの令嬢。


セレフィーナ・ローゼンベルク。


彼女はドレスの裾を少し持ち上げ、舞踏会の床をじっと見ていた。


王子が声をかける。


「……何をしている?」


セレフィーナは顔を上げた。


「あら、王子」


そしてまた床を見る。


真剣な顔。


「この床材、面白いわ」


王子は一瞬黙る。


「床材?」


セレフィーナは指先で木の継ぎ目をなぞる。


「普通の舞踏会の床ではありません」


王子

「そうなのか?」


「ええ」


セレフィーナは床を軽く叩く。


コツン。


「樫とブナを組み合わせています」


王子

「……」


周囲の貴族がざわつく。


(なぜ床を見ている)


(舞踏会だぞ)


セレフィーナは続ける。


「しかもこの部分」


指をさす。


「修理されています」


王子が床を見る。


「分かるのか?」


「音が違います」


セレフィーナはもう一度叩く。


コツン。


コツン。


「こちらは新しい木材です」


王子は腕を組む。


「……なるほど」


完全に話を聞いている。


会場の貴族たちは混乱していた。


楽団も困っている。


ダンスが始まらない。


その頃。


ミリアは遠くで固まっていた。


(違う)


本来ここで発生するはずの会話。


王子

「ミリア、踊ってくれるか?」


しかし現実。


王子

「この木材はどこから?」


ミリア

(違う!!!)


セレフィーナは真剣だった。


「この弾力は見事ですわ」


軽く足踏みする。


トン。


「ほら」


王子も足で床を踏む。


トン。


「……確かに」


セレフィーナは満足そうにうなずく。


「ダンスに最適です」


王子は少し笑った。


「なら試してみるか」


セレフィーナ

「え?」


王子は手を差し出す。


「踊ろう」


セレフィーナはきょとんとする。


「床の確認だ」


「……なるほど」


セレフィーナは納得したように手を取った。


楽団が慌てて演奏を始める。


ワルツ。


王子とセレフィーナが踊り出す。


会場がざわめく。


「王子が……」


「セレフィーナと?」


「ヒロインじゃないの?」


ミリアは真っ白になった。


「え?」


本来のイベント。


ヒロインと王子のダンス。


しかし今。


王子は言っている。


「確かに踊りやすい床だ」


セレフィーナ

「ええ、弾力が良いです」


完全に


床材評価ダンス。


ミリアは震える。


「嘘でしょ……」


ダンスが終わる。


会場から拍手。


王子は言った。


「良い舞踏会だ」


セレフィーナはうなずく。


「床が素晴らしいですわ」


ミリアは遠くで頭を抱えていた。


その夜。


学園の噂は一つだった。


「王子とセレフィーナが踊った」


「恋愛か?」


「やはり未来予知者」


そして翌日。


庭で。


セレフィーナが庭師に言っていた。


「舞踏会の床、とても良い木材でしたわ」


庭師は首をかしげる。


「床?」


「ええ」


セレフィーナは微笑んだ。


「良い素材は歩くだけで分かりますもの」


その遠くで。


ミリアが叫んでいた。


「なんで床なのよ!!」

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