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悪役令嬢セレフィーナ 乙女ゲームが始まらない  作者: 南蛇井


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第16話:毒菓子事件

王立アストリア学園の午後。


春の陽気に包まれた裏庭で、セレフィーナ・ローゼンベルクはしゃがみ込み、花壇の土を指先でつまんでいた。


白い手袋はすでに土で少し汚れている。


「やはり少し硬いですわね」


静かな声でつぶやく。


隣で騎士レオンが腕を組んでいた。


「硬いか?」


「ええ。雨が少ないと土が締まりますの」


セレフィーナは土を軽く崩す。


「もう少し腐葉土を混ぜた方が良さそうですわ」


レオンは感心したようにうなずいた。


「令嬢は本当に詳しいな」


「庭は正直ですもの」


穏やかな空気が流れる。


その時だった。


一人の生徒が近づいてきた。


制服姿の、どこにでもいそうな女子生徒。


手には小さな箱。


「セレフィーナ様」


声をかける。


レオンが即座に警戒する。


「……誰だ」


少女は慌てて頭を下げた。


「菓子研究会です! 試作品を配っていまして」


箱を差し出す。


「クッキーです。よろしければどうぞ」


箱の中には、きれいに焼かれたクッキーが並んでいた。


香ばしい匂い。


レオンは少し眉をひそめる。


「……大丈夫なのか?」


少女は必死に笑顔を作る。


「もちろんです!」


その裏で。


少女の心臓は激しく鼓動していた。


(これで終わり)


彼女の正体は暗殺者。


箱のクッキーには、無味無臭の毒が混ぜられている。


計算済みの量。


一枚食べれば数分で倒れる。


自然な事故にしか見えない。


完璧な計画だった。


セレフィーナは箱を受け取る。


「ありがとう」


優雅に微笑む。


暗殺者は心の中で勝利を確信した。


(終わった)


セレフィーナはクッキーを一枚取り出す。


じっと見る。


暗殺者

(なぜ観察する)


クッキーは普通の焼き菓子。


毒など見えるはずがない。


レオンが言う。


「食べないのか?」


「ええ」


セレフィーナはゆっくりうなずく。


そして一口かじった。


暗殺者は息を止める。


沈黙。


数秒。


レオンが聞く。


「どうだ?」


セレフィーナは真顔だった。


そして言う。


「甘すぎるわね」


暗殺者の思考が止まる。


(……え?)


セレフィーナはもう一口食べる。


「砂糖の量が多すぎますわ」


レオンがクッキーを見る。


「そうなのか?」


「焼き菓子は甘さのバランスが大切です」


真面目な口調。


完全に味の講評だった。


暗殺者は混乱する。


(毒は!?)


セレフィーナはさらに続けた。


「それにバターが少ないですわ」


レオン

「そうなのか」


「ええ。もう少しコクが必要です」


完全に料理批評。


毒の話は一切出ない。


暗殺者は心の中で叫ぶ。


(毒は!?)


セレフィーナはクッキーを見つめる。


「あと少し固いですわね」


レオン

「……よく分かるな」


「焼き時間が長すぎたのでしょう」


セレフィーナは箱を閉じる。


暗殺者の顔が青くなる。


(食べないの?)


セレフィーナは言った。


「レオン」


「なんだ」


「庭師さんたちに差し上げましょう」


暗殺者

(やめろ)


レオンは箱を持ち上げる。


「いいのか?」


「ええ」


セレフィーナは花壇の苗を整えながら言う。


「甘い物は皆で食べる方が楽しいですわ」


数分後。


庭の奥。


屈強な庭師たちが休憩していた。


レオンが箱を差し出す。


「令嬢からだ」


庭師たちの顔が明るくなる。


「お、クッキー!」


「いただきます!」


暗殺者は遠くの茂みから見ていた。


(終わった)


庭師たちがクッキーを食べる。


一枚。


二枚。


三枚。


沈黙。


庭師A

「甘いな」


庭師B

「若い子向けだ」


庭師C

「紅茶欲しいな」


普通に食べている。


毒は?


効かない。


理由は単純だった。


毒の量は令嬢一人分。


筋肉質の庭師たちには薄すぎた。


暗殺者は膝をつく。


(計算ミス)


その頃。


花壇では。


セレフィーナが土を触っていた。


「この土には灰を混ぜると良さそうですわ」


レオンがうなずく。


「魔法事故の灰か?」


「ええ」


セレフィーナは微笑む。


「灰も、食べ物も、使い道が大事ですもの」


レオンは少し考える。


「……そうか」


遠くの茂み。


暗殺者は頭を抱えていた。


その日。


暗殺者ギルドに報告が届く。


「毒菓子作戦、失敗」


ギルド長が聞く。


「理由は?」


暗殺者は答える。


「ターゲットが……」


言葉に詰まる。


「味の批評を始めました」


会議室は沈黙に包まれた。

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