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神木さんちのお兄ちゃん! ~美人すぎる兄は、双子の妹弟を溺愛してる~  作者: 雪桜
エピローグ

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第597話 大野さんと神木くん


「げ! 神木くん!?」


「こんにちは、大野さん」


 多少、失礼な反応をされつつも、飛鳥は、ニコリと笑って挨拶をした。

 

 敵意を持たれているのは、よくわかっているが、だからと言って敵対するつもりはなかった。


 だって、この人は、俺と同じ人を好きになった相手だから──…


「こんな所で会うなんて、珍しいね」


「そうだね。神木君は、あかりちゃんちに行くの?」


「うん。大野さんは、仕事帰り?」


 大野の言葉に、飛鳥は穏やかに返した。


 いつもは私服姿だが、今日の大野はスーツを着ていた。だから、仕事帰りかと思ったのだが、大野は


「いや、面接帰り」


「面接?」


「うん。今の職場、合わないから辞めようと思って。今、転職活動中なんだよ」


「そうなんだ。何年、務めてるの?」


「二年。でも、本当は半年で辞めようと思ってた」


「それで二年続いたなんて、よく頑張ったね」


「そうだろう!? 俺もそう思うよ! でも、これも、あかりちゃんのおかげかな」


「え?」


 突然、あかりの話が出てきて、飛鳥はキョトンと首を傾げた。


 すると、大野は飛鳥の横を歩きながら


「色々上手くいかなくて、スゲー辛かった時があってさ。そんな時に、あかりちゃんが、うちの隣に引越して来たんだよ。あかりちゃん、こんな俺にも、いつも明るく笑って挨拶してくれて、仕事から帰ってきた時は『お疲れ様です』って労ってくれて……田舎からでてきたと言ってたけど、今時こんなふうに、ご近所さんに挨拶してくれる子もいるんだなーって思ったら、なんだか泣きたくなって……だからかな、俺にとってあかりちゃんは癒しで、とても大切な子だったんだよ」

 

「…………」

 

 大野の真摯な告白に、飛鳥は胸を痛めた。


 自分が辛かった時に、優しくしてくれた人。

 

 そんな人を好きになってしまう気持ちは、よくわかる気がしたから。

 

「そうなんだ……でも、あかりはやれないよ」


「わかってるよ! でも、俺は本気だったんだ! 会って話しをするうちに、こんな子と結婚できたら、きっと幸せだろうなって思って……帰ってきて、あかりちゃんが出迎えてくれたら、どんな仕事も頑張れそうな気がしたんだよ! だから、本気で好きで、運命の人だって思って。それなのに……っ」


 言葉をつぐんだ大野は、失恋の悔しさを噛みしめているように見えた。


 辛いだろう。運命だと思うほど、本気で好きになった人と諦めなくてはならないのは。


 だが、痛む心を必死に押さえつけながら、大野は、まっすぐに飛鳥を見つめた。


「あかりちゃんと、幸せになれよ!」 

 

「え?」


 それは、少し予想外の言葉だった。

 

 恨み節を言われるのではなく、しつこく別れろと言われるわけでもなく、まさか、幸せを願われるなんて──

 

 すると飛鳥は、キレイに微笑みながら


「あかりだけじゃなく、俺の幸せも願ってくれるんだ?」


 『あかりを幸せにしろ』ではなく『一緒に幸せになれ』と言ってくれる。

 

 恋敵にそれを言えるのは、なかなかできないことで、飛鳥の胸は自然と温かくなって純粋に嬉しいと思った。


「ありがとう。正直、恨まれてるのかと思ってた」


「いや、恨みたいわ! でも、神木君が不幸になったら、あかりちゃんが悲しむだろ! それに、この前の夏祭りの告白大会の動画、俺も見てたんだよ」

 

「え? 動画って、なに!?」


「あれ? しらないの? 録画してる人がいたみたいだよ」


 まさか、動画まで拡散されてるのか!?

 恐ろしい自体だ。


「で、神木くん、結婚したいくらい好きな人がいるって言ってただろ」


「え?」


「あかりちゃんのこと、そこまで本気なんだなって……それに、あんなに大勢の目の前で、ハッキリ断ってて、男らしいなとって思った。見た目がチャラいからって、俺、ずっと君を誤解してて……だから俺、神木くんに謝ないといけない」


「え?」

 

 謝る──それは、更に予想の上を行く言葉に、飛鳥は目を見開いた。


 自然と足を止めると、風が飛鳥の長い髪を揺らした。そして、しっかりと飛鳥の目を見つめた大野は

 

「五股してるなんて言って、ゴメン!!」


「いや、謝るのソレ!?」


 昨年の夏祭り。飛鳥が、たくさんの女の子をはべらせていたのを見て、大野は飛鳥に五股疑惑をかけていた。


 だが、先日の夏祭りの告白を目にして、誤解は解けたらしい。


 しかし、その謝罪が、未だかつて聞いたことないような謝罪文句で、飛鳥は、こらえきれず笑い出す。


「はははっ、なにそれ。ていうか、マジで五股かけてると思ってたの? 俺は、あかりの気を引くために悪評を吹き込んでるのかと思ってたよ」


「いや、マジで思ってたよ。それだけ君は顔が良すぎるんだよ」


「そっか。まぁ、よく言われるよ。女の子選び放題だよねとか、遊びまくってそうとか……でも、見かけと違って、一途だよ俺は」


 飛鳥が、不倫や浮気に嫌悪感を抱くようになったのは、きっと、母親の影響が大きい。


 幼い頃、飛鳥は母親であるミサが、父親である侑斗の浮気を疑い、よく口論をしているのを見ていた。


 もちろん、侑斗は浮気なんてしていなかったし、ミサの誤解だったわけだが、それでも、あの険悪な両親の姿を見てきたからこそ、飛鳥は、あんなふうにはならないようにしようと自分に言い聞かせていた。


 もし、愛する人ができたら、彼女を悲しませないよう、誠実な男であり続けよう──と。


「わかってるよ。だから、謝ってるんだろ」


「あはは。そうだね。よかったよ、誤解が解けて」


 『一途』といった言葉に『わかってる』と大野が答えて、飛鳥は可愛らしくにはにかんだ。

 

 顔がいいと、様々な誤解を受ける。

 

 そんな中で、こうして自分の本質を理解してくれる人がいるのは、とてもありがたいことだと思った。


 すると、しばらく歩いた先で


「じゃぁ、俺は買い物して帰るから、ここで」


 そう言って、大野が飛鳥とは違う道を選んで、飛鳥は改めてお礼を言う。


「うん、ありがとう。あかりとのこと認めてくれて。大野さんも、面接でいい結果が出るといいね」


「そうだなー。手応えはあった気がするんだけど、どうなるか? まぁ、頑張るよ!」


 その後、お互いに円満な別れをつげ、飛鳥は大野を見送った。だが──

   

「ねぇ、大野さーん! 俺、大野さんの下の名前聞いたことなかった!」


 そう言って、再度、声をかければ、大野は足を止め、振り向きながら。


「名前? シンイチだよ!」


「しんいち?」


「うん。信じるに一で、信一!」

 

「いい名前だねー! また会うと思うから、その時は声をかけるね、信一しんいちさん!」


「……っ」


 不意に名前で呼ばれ、大野は頬を赤らめた。


 同じ人を好きになって、邪魔でしかなかった相手。それでも憎みきれなかったのは、彼が放つ穏やかな人柄によるものなのだろう。


(勝てるわけないよァ、あんないい子…)


 神木くんは、見た目だけじゃなく、中身も素敵な子で、あかりちゃんが好きになるのは、当然だと思った。


 なにより、お似合いだと思った。


 悔しいが、優しいあかりちゃんの隣には、彼のような優しい人がお似合いだ。


 すると大野は、飛鳥に向かって

 

「ありがとう! 街一番の人気者に名前を覚えてもらえるなんて光栄だよ! またな、飛鳥くん!」


 どこか吹っ切れたような、すがすがしい笑顔を浮かべて、大野が手を振り返した。

 

 きっと新しい職場で、また新しい出会いがあるだろう。


 大野の未来の幸福を願いながら、飛鳥は、ずっと手を振り続けていた。


 それはまるで、新しい未来へ旅立つ姿を、力強く応援するように──…

 


 

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