予兆
やっぱり徹を書くのは楽しいですな(笑)
毛色の違う、放課後が始まります。よろしくお願いします。
春、桜が散り始める、そんな季節。
俺は、中学校に入学式を迎えた。
そう、本来なら、家族で祝われる立場のはずの俺は、夕食の席で、忘れてはいないんだよ?と言い訳のような家に帰るとオヤツを用意してましたとばかりにショートケーキを目の前に置かれるだけであった。
胡乱な眼を前に向けると垂れ幕が用意されており、そこには普通なら『徹、中学入学おめでとう』が、大袈裟に祝う家族が取るべき行動であるはずである。
だが、その垂れ幕に書かれてる文字は、『和也! 世界一おめでとう』である。
その祝いの席に呼ばれているルナ一家と美紅の家族と共に、ミラさんの家の料亭の部屋を借りて、和也の登場を徹の除いて、みんなが待ち望んでいた。
「今日こそ、ヤツの息の音を止めるのにふさわしい日はない!」
据わった目で拳を握る俺の隣に座る美紅が苦笑して言ってくる。
「お祝して貰えなくて拗ねる気持ちは分かりますが、いいじゃないですか、トオル君は一度はお祝されてるんでしょ?」
確かに、その通りだが、それとこれとは別の話である。
和也は、世界で行われた15歳以下の大会で、学力、武力、体力の三部門の大会で全て、優勝するという偉業を果たして帰ってきたのである。
それを祝いたくなる親の気持ちは理解できるが、やはり、本来の主役は俺じゃないのか、と声を上げたくなるのは必然である。
アイツが世界一になり、テレビで放映され、学校の友達達に和也の事をしつこく聞かれるだけでなく、比べられて、「出涸らしか……」などと言われ続けて俺のハートはボロボロである。
テレビや新聞の取材で訪れた者達にうんざりするほどコメントを求められた事にも憤慨を通り越して疲れたのである。
何より許せなかったのは、テレビで騒がれるなか、女性に歓声をあげられるのを余裕の顔で笑みを返すあのクソ野郎に怒りも覚えた。そのうえ、今をときめくグラビアアイドルの冬実ちゃんに、頬を染めてインタビューされて、強調された胸にも目もくれずに爽やかな笑みを見せる和也がネットで褒め倒すコメントの祭が開催されていた。
俺は、かぶり振る、みんな、騙されていると……
ヤツは、貧乳信者である事を廻りの者は知らない。例え、今、暴露しても誰も信じないと俺のカンも言っていた。
「うーん、アンタが悔しい気持ちになるのは分からなくはないけどっ、あれは別格と思って諦めたらっ?」
我が妹のテリアは、和也を待ってるのが退屈になってきたようで対面で、ミルクキャンディの包み紙で折紙をしながら言ってくる。
「ええ、そうですよ。もし、兄様が和也のようになったら、隔離して飼う、もとい、2人の愛の巣を作って籠る為に動かないといけません」
なんでもないような顔をして、俺に言ってくるティティの言葉に、サラッと恐ろしい発言が混じっていたような気がする。自分の精神衛生上なかった事にしたかったが、後半も既にアウトの予感がヒシヒシとする。
というか、動く用意とかアテはあるのかと震える。
「徹、心配はいらないの。既に和也キラーは動いてるから、取材陣が去ったら、刑は執行されるはずなの」
目の前の食事をツマミ食いしようとして美紅に止められるという行動を繰り返していたルナは、指を咥えながら言ってくる。
ルナの話では、真理亜は、ここのところ、自分の部屋に籠る事が多くなったらしい。部屋の中からは、不気味な笑い声や、何かを磨いでる音や作る音がするそうである。
それを聞いた俺は、家の手伝いをするミラさんとそれに付き合う真理亜を見つめる。
笑みを絶やさず、頬笑みながら仕事に打ち込んでいるように見えるが、他の人は騙されても、俺ときっと和也なら分かる。
あれは、内心、怒り狂っていると……どうやら、俺の出る幕はないようであるが、だが、一矢は報いたい俺は呟く。
「明日のアイツのコーヒーに塩を入れてやる!」
「少量なら、美味しさが引き立つらしいですよ? ミランダさんが前に言ってました」
考える事がセコイ俺を一瞥もせず、お茶をすする美紅は、お茶が美味しいと微笑む。
そして、和也がやってくると拍手をもって歓迎され、宴が開催される。
俺は、もう食うしかないとヤケ食いをする夜であった。
一夜明けた次の日、ルナ達と学校に向かう道ながら、昨日の話をしているとあっという間に学校に到着する。
自分のクラスにやってくると座る席は自由な学校であるが、動物の習性のように一度決めた場所が自分の席みたいな感じになっており、みんな、いつも通りの席に着く。
俺もいつも通り、窓際の一番後ろの席に座る。
ルナと美紅は並んで、俺の前の席に着くのを見た後、窓の外へと視線を向けると人の群れという言葉がぴったりの群がれるようにして歩く胸糞の悪いイケメンを見つけて、ケッ、と吐き捨てる。
そんな俺に気付いた2人が苦笑するが、昨日から繰り返されている事なので、何も言ってこない。
やさぐれながら、外を眺めていると気付けば、HRの時間になっていたようで、先生が入ってくる。
教壇に立つ先生は少し困った顔をすると入口に一度、目を向けた後、俺達を見て話し出す。
「あっ――、少し、遅れてやってきた新入生を紹介する。入ってきてくれ」
入口のほうに、入室を促す言葉を投げかけると、カラカラと音をさせて戸を開ける。
そこに現れたのは、美紅よりは少し背が高いが、同じ年齢の子と比べるとやや低く、肩で揃えられた銀髪。そして、西洋人形を思わせるような綺麗な少女が現れる。
教壇に立つ先生の隣に立つが、表情はまったく動かない。綺麗な顔立ちだから余計に冷たさを感じさせる。
やりにくそうな顔をした先生が、自己紹介をするよう伝える。
すると、少女は、ウィ、と返事するとまったく動かない表情のまま、前を見つめたまま話し始める。
「私の名前は、エマ・デュボワと言います。よろしくお願いします」
挨拶を済ませると、先生に空いてる席に座れと言われると辺りを見渡し、俺の方へと視線を向ける。
すると、迷わず、こちらにやってくる。
俺の横の席に着席すると、こちらを見ずに言葉を発してくる。
「よろしくお願いします。世界一の兄を持つ、弟さん」
少しだけ、訛りがあるように感じるが、ほぼ完ぺきな日本語で話す少女、エマとの出会いであった。
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