譲れぬ思い
気ままな更新の放課後ですが、気長によろしくお願いします。
HRが済み、1限目も済んだ休憩時間になると、俺は自分の席から追い出される。
転校生のエマに話しかけたい女の子と美人とお近づきになりたいという素直な野郎に弾かれる。それはもう、恋人に捨てられた直後の人のように、床の上で女座りでシナを作って、自分の席の辺りを見つめるという小芝居をしてると、声をかけられる。
「徹、何をしてるの?」
俺を覗き込むようにしてくるルナに、溜息を吐く。溜息を吐かれたルナは、「モウモウ!」と、最近のお気に入りの『母ちゃまと一緒』のウシさんのモノマネをしながら笑いかけてくる。
「トオル君も大変ですね。でも、みんなの気持ちも分からなくはないですね」
そう言いつつ、俺の席の隣に座ってるはず、人だかりで見えなくなっているエマを見つめるように見る美紅は苦笑していた。
俺は、ズボンに付いた汚れを払いながら、2人と一緒に少し離れた所から、エマの様子を眺める。
周りから質問攻めにあっているようだが、困った様子も、嬉しそうな反応も見せず、淡々とウィ、ノンと繰り返すのみで応答にはなっているが会話にはなっていなかった。
何も見つめていないような目で辺りを見ながら、時折、俺と目が合うとジッと見つめる。
誰かに話しかけられると視線を切るを繰り返されるのを見て、俺は頬を掻く。
「どうしたの、徹?」
「いや、どうしてエマは俺の事を知ってたのかな、ってな」
考えてた事とはちょっと違うけど、気になってた事を口にする。
「それは、やっぱり和也さんの取材で映ったとか、コメント取られていたから知られたんじゃないのですか?」
「まあ、そうだとは思うんだけど、和也に注目をしても、俺を覚えているのはちょっとな……と思ってな」
今も質問攻めに合いながらも、周りに意識を向けようとせず、淡々と対応するエマを見て、無駄な事をしたりするようなタイプには見えなかったのである。
なんとなく、俺のカンがキッカケはともかく、俺にわざわざ、「世界一の兄を持つ、弟」と言葉にして言ってくるのが、エマらしくないと、今日、会ったばかりの子の、らしさ、など分かるはずもないのに訴えてきている。
ならば、和也に意識をしてるのかと思えば、世界一と言った時の響きが、イヤミが含まれているように感じたので、良い意味では意識はしてなさそうだと思う。
だが、弟と言葉にした時に、同情に似た感情が伝わってきたような気がしたのである。
ジッとエマを見続ける俺に疑問を思った美紅が、見上げてくる。
「先程からエマさんをジッと見られてますが、何かあるのですか?」
「いや、外国人って成長すると胸が大きくなるって言うからエマが大きくなったら最強だな、って思ってさ?」
さすがに、カンだけで、自分でもイマイチ信用しきれない内容であったので、伏せる形で別の事を咄嗟に答える。
なっ?と同意を求めようとしたと同時に、美紅に脛を蹴られ、ルナには拳で横から頬を打ち抜かれる。
俺は、頬を押さえて痛みに耐えたらいいのか、脛を摩ればいいのかの究極の二択に迫られながら、冷たい目をした美紅が口元を綻ばせて、床を指で差して、「正座」と言ってくる。
俺も慣れたモノで、痛みを恐怖で抑え込んで、背筋を伸ばして床に正座する。
それと同時に、もっとマシな話を振れば良かった、と後悔もした。
美紅とルナに見下ろされながら、俺は、2人から教育という調教を受ける。
「いいですか? トオル君。外国の人が全員が胸が大きいという考えは思いこみです。あくまで、アジア系の人よりは多いというだけの話です」
うんうん、と美紅の隣で頷くルナを見て、お前はいなくても変わらなくねぇ?と思ったが、鉄拳制裁要員か……と目を反らす。
「何より、胸なんて飾りなのです。世界を良く見てください。美と認めれている人達が、全員、胸が豊かですか? 私は、そうでない人のほうが多いと思っています」
「そうなの、あれは、脂肪の塊で、胸が大きくていいのは、ウシさんだけなの」
2人の目が、そうでしょ?違うと言わせないと訴えていた。
このような情操教育が始まって、そろそろ10年になるのだろうか、自分のポリシーを貫いて痛い目に合い続けていた。
そう、俺もそろそろ、大人になり、言葉の上だけは認めれる男になればいいと空に向かって遠い目をする。
そんな、空の向こうで俺を馬鹿にするクソ野郎を見た気がした俺は、弱くなっていた心に喝が入る。
「例え、俺が少数意見だとしても、俺はオッパイが大好きだぁ!!」
俺は、俺の道を逝く。文字通りであったとしてもだ!
あのクソ野郎も真理亜とミラさんに貧乳信仰を捨てるように教育を受けているが、未だに頑張ってる。
俺は、アイツより先に折れる訳にはいかんのだよ!
和也も同じような事を思いつつ、毎日、歯を食い縛って生きている事を徹は知らない。
自分の道を貫いた男前の顔をする俺を、冷笑する2人は、言葉の上だけは褒めてくる。
「徹、凄いの。さすがに10年、自分のポリシーを貫くなんて、カッコイイ」
「そうですね、さすが、トオル君です。むしろ、ここで日和見するようなセリフが出たら、ガッカリしたかもしれません」
目が笑ってない2人ににじり寄られて、後ずさりをするが壁に追い込まれ、尻モチを着く。
ルナと美紅に壁ドンされて、ときめく乙女のような仕草をして笑いを取ろうとするが、2人の冷笑を崩す事はできなかった。
「じゃ、たまには授業をサボるという、ヤンチャも体験しとくのは、未来の私達への財産……になるかもしれません」
「徹を空き教室にご案内なの~」
2人に片手づつ手を取られて、引きずられる俺は、体面も気にせず、涙も鼻水も垂らし、「誰か助けてくれっ!」と叫ぶ。
エマに群がっていた者達が、エマの懐に入るのが困難と苦戦中だったところで俺のヘルプを聞いて振り返り、苦笑する。
それを見たエマが、初めて返事以外の言葉を口にする。
「助けなくていいのですか?」
やっと反応らしい反応が返った事に、喜びを前面に出した野郎共が答える。
「いいの、いいの。アイツ等とは小学校から一緒だけど、昔からあんな感じだから、問題ない、ない」
これをキッカケにと奮起するように、お昼休みに食事に誘う女子と帰りに一緒に遊びに行こうと誘う野郎共が頑張るが、再び、ウィ、ノンの応酬に戻り、項垂れる。
そして、俺が教室の外に連れ出されようとした時、廊下を走る集団がいるのに気付く。
走る者を止めたクラスメートが、何があった?と聞くと走ってた者は興奮気味にこう語った。
「今日やってきた転校生が、世界一に喧嘩を吹っ掛けたらしい!」
そういうと、「見逃せない」と叫ぶと再び、走り去るのを見送った後、ルナ達と視線を交わすと頷かれる。
視線の隅で、椅子から立ち上がる銀髪の少女の姿が目に入る。
エマは立ち上がると、野次馬をする為に走って行った者が向かった先、体育館に続く道を迷わず、走り出した。
ルナ達と再び、視線を交わした俺は、エマを追うように体育館へと向かった。
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