ヒロインは一体誰なのだろうか…?
鎧の名前が判明した。
アルはその場にいなかったのでヒロインとしての立場がガタ落ちだった。そもそも活躍していないのでヒロインらしさもないのだけれども。
そんなアルの心情など知ってか知らぬか、鎧ことゼノンは地図を見ていた。
「次はここを落とす」
鎧が指差したのはサン・フラワーだ。
そこは王都以上に物流が盛んである。人の出入りが多く、活気に満ち溢れており、一度は行ってみたい街ナンバーワンとも言われている。
「私はも行こう!」
ゼノンにアルは声高らかに宣言した。アルはすでに大罪人になってしまっていると思っているので腹を決めただけなのだが、実際はまだアルの名前を大々的に広めたわけではない。ゼノンがアルの使い魔であることを知っているのはオーロンと魔女協会の長だけだ。
なのでゼノンはアルが表に出てきてほしくは無い。それに魔女の契約書の件もあるので出てこられても困るのだ。
「アル、お前はアイリスを見張ってくれ」
「なんでだよ!」
「胸が大きい人間の近くにいると胸が大きくなるからだ」
「なるほど!!任せておけ!!」
「それでいいの…?」
簡単に騙されるこの少女がゼノンの主なのかと思うと頭が痛い。
アルは期待に満ちた目でアイリスを(具体的にはアイリスの胸部、というかおっぱい)みている。
「じゃあ、準備してくるからアルは見張りをしておけよ」
「準備?」
「ああ」
そう言ってゼノンは部屋に行ってしまった。
「おい、アイリス!」
「なにかしら?」
「私も胸を大きくしたいんだ!」
「牛乳を飲みなさいな」
アイリスはゼノンが帰ってくるまでずっと胸の質問をされるのかと思うと気が重くなった。
と思ったが、ゼノンが居ても胸の話しかされないのであんまりかわらなかった。
「テリウス…、早く助けに来てください!」
人質にされて3日目。初めて救助が早く来てほしいと思った瞬間だった。
鎧は自室――といってもベッドすらないただの物置だ――に戻ると水晶を準備する。
「アーアー、マイクのテスト中」
鎧はマイクに冑を近づけて声を発する。
『テストの必要ないだろう…』
すると水晶から声が返ってくる。この声は魔女協会の長のものだ。
「よう、協会長元気か?」
『おいちょっと待て。なにやらルビに違和感があるんだが!?』
「気のせいだって」
『そうか…すまんな』
「誰も協会長って呼んでるのに心の中でババアなんて言ってないぞ」
『明らかに気のせいじゃないな!!』
「年齢気にする歳じゃなかろうに」
『女は永遠の18歳というだろうが!!』
「…流石に238歳は盛りすぎじゃないか?」
さすがの鎧でもちょっと引いた。
『そ、そんなことより要件はなんだ?』
鎧の引き気味な気配(気味というか完全に引いてる)を感じ取った協会長は話を真面目な方向にシフトさせた。
「ああ、伝えたいことがあったんだ。サン・フラワーの防備を固めろ」
『唐突だな…、理由は?』
「俺が次に攻め込む場所だからだ」
『なぜそれを伝える必要がある?』
「演出の為だ」
『…お前の目的はそれだけか?』
少しの間を空けて協会長が訊ねる。
「どういう意味だ?」
『いや、お前からは別の意図を感じるのだ。お前の主である魔女の名前を知らしめるのはそのついでに過ぎないのではないのかと、な』
「考えすぎだろ。歳をとりすぎてるからそんな穿った考え方をするんだな、若づくりババア」
『そうやって相手を苛立たせて、もしくは気を別のところに向かせて煙に巻くということはあってるのではないか?』
「だから考え過ぎだババア」
『ババアババアうるさいぞ!!』
「うるさいババア」
『まあ、いい。お前が攻め込むという話が真実ならサン・フラワーには血の雨が降るだろうな』
「今回は俺の一部、俺の分身を連れて行く。スノー・リリィみたいになりたくなかったら十全な準備をしておけ」
『いいだろう、お前が攻め込むのは何時だ?』
「半月後だ」
『わかった。貴様に吠え面をかかせてやる』
「鎧だから吠え面はかけませーん」
『言葉のあやだ!!ならばぎゃふんと言わせてやる!』
「ぎゃふん!」
『ぐぬぬ…、首を長くして待っていろ!』
「首も無いんだが」
『知るかバーカバーカ!』
幼稚な言葉を最後に通信は切れた。
鎧は居間に戻るとアル達にもう行くのかと聞かれたが準備には時間がかかると答えた。
鎧の言う準備は、サン・フラワーの準備なのだが二人は知らない。鎧も教える気はない。
そして半月の歳月はあっという間に流れたのだった。
時は鎧がサン・フラワー侵攻を協会長に伝えて7日が経った頃だ。スノー・リリィ陥落から10日が経過した日。
魔女協会の工房では新たな使い魔を作り出そうとしていた。
それは大規模なものだった。魂を定着させて作る使い魔。
アルは一人で一日足らずで行ったが、本来であれば複数の魔女が数日をかけて魔力を魔法陣に送り続けて初めて出来るものだ。
「気分はどう?」
魔女の一人が新たな使い魔に訊ねる。
「なんというか不思議な気分だな」
使い魔が答える。
「それは仕方ないこと。貴方は一度アストラル界を漂っていた。そこでは魂は輪廻をする為の準備を行っている。魂の漂白とでも言えばいいのかしら」
「次に生まれる準備をしていたところで無理矢理こっちに呼び戻されたってことでいいのかね?」
「大体あってる。貴方の魂は強い魂だった。だから死んでから半月経っても記憶の断絶がないの」
「…俺の魂は強くないさ」
「それは謙遜。貴方の魂は輝いている。仲間を救うために命すら投げ出す。普通の人には、魂の輝きがない者には出来ない行為。貴方は時代が違えば英雄と讃えられる人かもしれない」
「やめてくれ、そんなに褒めるために俺を呼び戻したわけじゃないだろう?」
新たな使い魔は話の続きを促す。
「そう、貴方は戦うために呼び戻された。相手は分かるでしょ?」
「あの化物か…」
「そう、貴方には出来うる限り最高の力を与えた。その新しい体は魔女協会が持つ最高のアーティファクト。神代の武装」
新たな使い魔は、聖なる輝きを放つ鎧の使い魔だった。




