サン・フラワー攻防戦・1
ゼノンはアルとアイリスを置いてサン・フラワーへと目指す。
彼の後ろには彼の劣化版と思える異形がひしめき合っている。その全てが彼であり、彼がその全てであるとも言える。
彼の視線の先にはサン・フラワーの街壁がある。
そこに装備を固めた騎士やギルドの戦士達が緊張した面持ちでこちらを見ている。前回とは違い、彼らは十全な装備を整えている。一筋縄ではいかないだろう。
「さてさて、一仕事するかー」
なんとも適当なことを呟いて手を上げる。それだけで後ろに控えていた鎧の化物が静かに、そして津波のように進軍を開始する。
それが戦いの始まりだった。
サン・フラワーの騎士団長、ロイエンタールはその様を冷静に見ていた。そして敵の群勢が投石機の射程距離に入るや否や声を上げる。
「来たぞ!!投石機用意!」
「投石装填!」
「よし!……放てぇ!!」
ゴウン!と巨大な岩が投石機から放たれる。風圧が発生し、大気が唸りを上げる。ドン!と地面を揺らして着弾。あれだけひしめき合っていれば狙わなくても当たる。群れの中に着弾した岩は鎧を押し潰していた。
「よし効くぞ!次弾発射準備!」
「投石装填!」
「放て!!」
次の岩も群れの中に着弾。順調に敵の数は減らしている。
だが敵の侵攻は早い。ロイエンタールは舌打ちをしつつも指示を飛ばす。
「投石機を放棄!全員門の内側へ退却!その後、門を閉めろ!」
投石機によって与えた被害は味方の士気を高めた。無敵の化物と言われていた鎧の分身とはいえその一部を倒すことが出来たのは上々だ。
「バリスタ、準備が出来ました!」
「よし!狙い撃て!壁を昇ってくる奴を優先して落とせ!」
「了解!」
通常の弓よりも数倍も大きい機械弓、バリスタが人の腕ほどもありそうな矢を放つ。それは鎧の堅固な守りを貫通し敵を巻き込む。
それにより歓声が上がる。
「よし、敵の数を減らして行け!」
ロイエンタールは声を上げつつも、内心では首を傾げていた。
魔女協会の長からもたらされた情報では鎧は一騎当千の強さを誇ると言う。その分身も鎧には及ばないが強力であると。
だが、その情報よりも遥かに弱い。
「まさか力を温存してるのか…?」
見た目が化物なので知能を低くみてしまう者もいるだろうが、鎧の本体は人間と知能を持っているという。もしかしたら何かを企んでいるのでは…?
思考を巡らせていると悲鳴が聞こえた。
「どうした!?」
ロイエンタールは確認の為に状況を見やる。
「なんだあれは…!?」
そしてロイエンタールは驚愕の声を上げた。戦場の遥か向こうに見える異形。
それは鎧と同じ色をしたドラゴンだった。
遠くからでも分かる巨体。先ほどにはあんな化物はいなかった。
いつ、どうやって来たのだろうか?
今はそんなことを考えている場合ではないと自分を叱咤する。
「怯えるな!奴はまだ遠くにいる!バリスタの有効範囲まで来たら撃ち落とせばいい!」
檄を飛ばす。異形のドラゴンがとった行動でそれも無意味となった。
ドラゴンは口を大きく開く。そして大きく開かれたアギトからは昼間でも分かるほどの眩い光を湛えているのが見える。
「まさか…!総員衝撃に備えろ!」
ロイエンタールの指示に意味はあっただろうか?次の瞬間には衝撃と鼓膜が破れるほどの爆音。
まばゆい光がサン・フラワーの城壁を打ち崩した。
それはサン・フラワーを二つの意味で震撼させた。巨大な揺れと、途方もない敵と戦っていると言う恐怖である。
幸いなことに鎧の群勢は大半がその光に巻き込まれて消失していた。だが、それを素直に喜ぶことはできない。
サン・フラワー側の兵もまた、その多くがドラゴンの吐きだした光によってもたらされた破壊に巻き込まれ、戦闘不能に陥っていたのだから。
「たーまやー」
ゼノンはその光景を暢気に見ていた。
ゼノンの身体であるダークマターの鎧が生み出したドラゴン。それを生み出すには流石のゼノンも体力を消費した。そもそもドラゴンの見た目をしているがこれは固定砲台としてしか機能を備えていない。しかもエネルギーも一発分しかないので再利用は不可能ときた。
「でも、これで相手の士気は大きく下がる」
そう、これは演出なのだ。
ゼノンがドラゴンすらも操るとなれば敵に与える恐怖は大きい。
「こんな程度で絶望してくれるな?」
ゼノンはそう呟いて次の行動に移る。
生き残った兵は同じく生き残った鎧と戦っていた。
鎧一体に対し、三人体制で戦闘する。それにより被害を抑えることに成功する。
そして戦闘していない兵たちは瓦礫に埋もれた仲間の救助にあたったりしている。
ドラゴンの攻撃こそ、度肝を抜かれたがまだ形勢が崩れているわけではない。ロイエンタールは体勢を持ち直す為にもと、的確に指示を出していた。
そして、再びの異変。
「うわぁぁああ!」
闘っていた鎧の分身体が変異を始める。一体、また一体と仲間を鎧が吸収し出したのだ。そして鎧は二周りも大きくなりその姿は人型から外れ異形と化した。
兵たちは突然の事に驚き、パニックを起こす。そうして崩れた連携の隙を狙って敵は兵をまた一人、また一人と処理していく。
巨大な顎に噛み砕かれて頭部を咀嚼される兵。その光景を拘束され見せつけられ、血を浴びせられる者もいた。
生きながらにして手足をもがれ大きくなった鎧の胴体部に張り付けられたものもいた。
一瞬にしてここは戦場から地獄へと変貌したと、ロイエンタールは思った。だが、ここで戦意を喪失しないのがロイエンタールの強みだ。
「馬鹿ものどもが!仲間を殺されたのなら倍の敵を討て!仲間の仇を、恨みを、その刃にのせるのだ!」
自らも剣を抜き、果敢に攻め行く。指揮官の行動としてみれば愚かであるが、それにより兵たちは恐怖の表情から、怒り、憎しみといった怒りの表情へと変えて行く。
「くそったれがぁぁぁ!」
怒号と共に剣を叩きつける。彼らもまた様々な戦場をくぐり抜けた戦士なのだ。強力になったとはいえ鎧は数を減らしている。包囲し仲間と連携をすれば被害は抑えられ、確実に倒すことが出来る。
まだ、サン・フラワーの兵士たちの意志は折れてはいなかった。




