魔女と囚われの姫
「ちょっと待てゴラァ!なんじゃこのタイトルはぁ!?ああ!?これじゃまるで私が悪役みたいじゃないか!?」
「ど、どうしたのアル…!?」
「あ…、いや…、世界の理不尽に対して怒りをぶつけてただけ…」
「そ、そう…」
気まずい沈黙が降りる。妙な静けさに耐えられなかったアイリスが口を開く。
「ねえ、アル」
「な、なんだ?」
「これは一体どういう状況なの…?」
「ああ…、これはアイリスのおっぱいが大きくなる成分を掌から吸いとっているのだ」
今の状況を説明するなら、アルがアイリスの胸を後ろから揉みまくっていると言えば分かるだろうか?
「いや、なんでこの状況になっているかを聞きたいんだけど!」
「地の文に怒っても仕方ないと思うんだ」
「怒ってるって言うかやるせない気持ちになっている感じというか…。あと、地の文にも確かに言ったけどアルにも言ってるからね!?」
「メタな発言は控えるようにと言われたばかりだろうに…」
「最初も含めてメタな発言してるのはそっちだからね!?」
「もう、ゼノンに感化されてふざける必要はないからね?いい?これからシリアスパートだからふざけるのは禁止よ?」
「待て、アイリス。それは前振りか?アフリカ辺りに住んでる飛べない大型の鳥の名前を冠した倶楽部の定番ネタのやるなやるな詐欺か?」
「アフリカ…?クラブ…?なんのことを言ってるの?」
「ごめん、忘れてくれ。変な電波を受信したみたいだ」
「そ、そうなの?気をつけてね」
「うん…、メタ発言は程々にする」
「そうしてね…。それで話を戻すけど…、そもそも始めてすらいないのに逸らされたけど…。聞きたいことがあるの」
「聞きたいこと?なんだ?」
「鎧について」
「…それはゼノンという意味でか?」
「いいえ。魂が定着している鎧について聞きたいの」
ゼノンという魂を定着させられた鎧。あれは余りにも異常だ。異質といっても仕方がない。
「あの鎧はな…」
アイリスの真剣な様子に、アルも答えてくれる様子を見せている。アイリスがアルたちと一緒に暮らしていた時間は無駄ではない。
「分からない、というのが正しい」
「どういう意味?」
「おそらく神代に造られた鎧…だとは思う。だが神代の物でもあそこまで異常なものは存在しないはず」
「でもあの鎧は存在している」
「あの鎧を見つけたのはこの工房でだ。そもそもこの工房は私の物にしているが元々は私の物ではない」
「そうなの?」
「ああ。かなり高度な、それこそ私以外だったら気付かないようなレベルの認識阻害と人避けの結界が張られていたのでそれを引っぺがしてみたらこの工房があった。かなりの資料や良質な研究資材が眠っていたからそのまま私が使っている。その時に見つけたのがあの鎧だ。おそらく工房自体も神代のものなんだろう。使いやすいように改造はしてあるがな」
「そう…」
推測するに、あの鎧はこの工房で生み出されたのだろう。神代に造られた鎧ならばダークマターで出来ているのも納得がいく。
「ゼノンの魂を定着させた鎧はあくまでも普通の…とまでは言わないが常識の範囲内に収まっている物だったはずなんだ」
「つまりは使い魔にしてからあの鎧は更なる変化を遂げたってこと…」
「そうなる。だが、そんな話は聞いたことないんだ。まるで魂が寄代に影響を与えてるみたいだ」
鎧はダークマターとはいえ常識内の物。化物へと変貌させたのは定着した魂。
鎧の、ゼノンの謎に迫るにはゼノンという魂について知らなくてはならない。
「ねえ、アル」
「なんだ?」
「私がゼノンについて知りたいと言ったら協力してくれる?」
アルは考え込む。ゼノンを呼び出したのはアルだ。アルの目的を果たす為にアルが生み出した使い魔。それの弱点を探ることはアルにとっていいことではない。
だが、アルは現状を良しとしているのだろうか?
「アル、貴方は今の状況でいいの?このままだとアルは世界を滅ぼそうとしている災厄の魔女として名を馳せることになるわ」
「む…」
アルはずっと悩んでいた。アイリスはそれをずっと見ていた。自分の浅はかな考えが悲劇を生んだことに。だが、アルはあの鎧の使い魔を、ゼノンを憎み切れてもいない。ゼノンはゼノンでアルの目的を果たそうとしているのだから。
だから苦悩していた。どうすればいいのか、どうしたらいいのか。アルには悩みを相談できる人が居なかった。
「私はアルの事が嫌いではないわ。勿論、アルのせいで私は友人を失った。護るべき街を失った。それは許さない。でも、貴方という人を身近で見てきて悪意があったわけではない。罪に苦しんでたのは知っている」
「アイリス…」
「私はゼノンを…、あの鎧の化物を止める。だから協力して。貴方に罪の意識が、良心があるというのなら」
アイリスはアルを真正面に見据える。
「私に協力して」




