そよ風のジジイと復讐の刃
オーロンは央都セントラル・ローズに一度は保護されていた。だが、彼は安穏とした日々を過ごす気はさらさらなかった。
(スノー・リリィを再興させる為にもやらなくてはいけないことがたくさんある…)
鎧の使い魔ゼノンによってスノー・リリィは滅びた。スノー・リリィの生き残りはオーロンと、テリウス。そして未だ敵の手中にいるアイリスだけだ。
スノー・リリィを再興するために必要なこと、それはまずあの鎧の使い魔を倒さなくてはいけない。魔女協会に連絡が行ったように、オーロンの元にも連絡は来ていた。
だが、オーロンに出来ることはほとんどないのだ。それでも、じっとしていることは出来なかった。足はいつの間にかセントラル・ローズの門へと向いていた。そこには先客が居たようだ。
「街長…」
「テリウス君…」
かつての精悍さはなりを潜め、今は憔悴しきった顔をしている。だが、瞳だけは異様にギラギラと輝いている。
「君は何処に行くんですか?」
オーロンは分かり切ったことを、それでも訊ねずにはいられなかった。
「決まってるだろう、あの鎧をスクラップにしに行くんだ」
「待ちなさい、今の君が言っても無駄死にするだけです」
「それでも行くんだ、シックザールを殺した、アイリスを連れ去ったあいつに一矢報いるだけでもいいんだ」
「だからと言って…」
「うるせえ!」
テリウスの激情が叩きつけられる。闘う者でないオーロンはそれだけで身が竦む。
「俺はな…!俺はな…!」
感情が制御できなくてまともに言葉も喋れない様子のテリウス。その表情には悲哀と怒りの中に狂気が見え隠れしている。このままではテリウスは壊れてしまう。
「これ、御若いの。そんなに殺気を振りまいてどうする?」
そこに声が割り込んできた。声の方に振り向くとそこにはボロボロの服を着た老人が立っていた。オーロンはその姿を見て、何故だか強風の中でも風を受け流して涼しげに立つ細木を連想した。
「あなたは…?」
「わしは何ものでもないよ。ただの老いぼれじゃ。それでも名が必要とするのなら…ゼファーとでも名乗っておこうかの」
「俺の、邪魔を、するな!」
「テリウス君!?」
テリウスが自身の邪魔をしたと認識し流れる動作で抜刀、そのまま老人に切りかかる。
オーロンはまさかテリウスがここまで狂気に侵されていたとは思ってもいなかった。止める間もなく凶刃はゼファーの老体を切り伏せようとしていた。
「ホッ!そんな剣では切れる物も切れぬよ」
「え…?」
オーロンの目にはゼファーが消えて映った。それはテリウスにも同様だったらしい。驚愕の表情を浮かべている。
「少し落ち着きなされ。世界に見える物を見ようともせず、力任せでいては何もなせん」
「だからどうした…!!」
「ふむ、若いのお。誰かの為に怒り、誰かの為に悲しむ。そこまでのエネルギーを持っているのは若者だけじゃろうて。だが、そのエネルギーが今や死地に赴かせようとしているのは見過ごせぬのお」
そう言ってゼファーは少し散歩でもいってくるかのお、と言わんばかりに足を一歩だけ踏み出す。それで一瞬にしてテリウスの懐に潜り込んだ。
「少し眠りなさい」
そっと手をテリウスの腹に添えた。それだけでテリウスの身体は浮きあがりテリウスは白目を向いた。
「貴方は一体…?」
オーロンが一連の出来事を見ていて思わず訊ねた。
「なに、わしは何者でもないよ。ただの老いぼれじゃ」
「是非、貴方の力をお借りしたいのですが」
「老いぼれに出来る事なぞ少ないぞ?」
「それでも…」
「ふむ、その目…。絶望の中でも輝きを放っておる。力なくとも足掻き、希望を掴みとる者の目。なるほどのお」
「えっと…?」
「こっちの話じゃ。お主は激情を抑え込み、それを糧に立ちあがることが出来るようじゃ。わしの力を借りる為には何でもする。自分がどうなっても、そうじゃろ?」
「…ええ」
「いいじゃろう。力を貸してやろう。この老いぼれに何処まで出来るか分からぬがの。ついでじゃ、そこの若いのの面倒も見てやろう」
枯れ木のような老人はその時だけは大樹のような雰囲気を出して笑った。




