フラグは折られ、代償を支払う
「おい、テリウス呆けてる場合じゃねえ」
「シックザール、落ち着け」
シックザールが慌ててくれたおかげでテリウスは冷静でいられた。
愛する女性であるアイリスが敵の手中に落ちたことで怒りが渦巻いている。
だが、その怒りを爆発させずに研ぎ澄ます。そうすることで爆発力を力に変えられるのはシックザールが居てくれたおかげだ。
冷静に、静かに、冷やかに。だがマグマのように熱く、ゆっくりと怒りをたぎらせる。
「おお、この女人。胸がでかいぞ!?」
「てめえふざけんなぶちころすぞ!?」
溜めていた怒りは鎧のふざけた言動で爆発してしまった。
「テリウス、待て!!」
怒りを解き放つテリウスを止めることはできない。シックザールは咄嗟にテリウスの背中へ言葉を投げかけることしか出来なかった。
「アイリスを返せぇぇ!!」
「えー」
鎧は適当な反応を返してくる。ふざけてはいるがその実力は本物。一流をも超える超一流。テリウスの連撃を柳のように受け流す。
「しかたないにゃあ…」
そういって鎧は冑を外した。
テリウスが冑を狙ったタイミングで。
テリウスの剣がアイリスの顔を叩きつぶしそうになる直前でテリウスは逸らす。そのせいで体勢を崩し致命的な隙を晒す。
「愛は力をくれる。怒りは推進力を与えてくれる。そしてその二つは代償として冷静な判断を奪う。そして君は命を散らす。さようなら、若き剣士よ」
詩人の歌が如き呟きをテリウスの耳に囁く。どこで囁いているのかは分からないが。
時間の流れが遅くなる。
テリウスは迫る凶刃に死を覚悟した。
激しい揺れでアイリスは意識を取り戻した。だが、目を開けても暗闇。体を動かすことは出来ず、くぐもった音で耳は機能しない。自由なのは嗅覚くらいだった。
体が勝手に動いているような感覚は自分がついさっき鎧に取り込まれたからだと気付く。
どうしたらいいのだろうかと思考を巡らせる。しかし妙案は浮かばない。
ふいに視界が開ける。突然のことに驚く。
視界にはテリウスが驚愕の表情を浮かべていた。そう、テリウスの持つ剣がアイリスを切り裂こうとしていたのだ。
しかしテリウスは無理矢理剣筋を逸らす。そのせいで鎧に致命的な隙を晒してしまった。鎧の持つ剣がテリウスの隙を逃さず命を奪おうとしていた。
「愛は力をくれる。怒りは推進力を与えてくれる。そしてその二つは代償として冷静な判断を奪う。そして君は命を散らす。さようなら、若き剣士よ」
鎧は詩人のような歌を呟き、鎧は剣を振るった。
「やめろぉ!!」
鎧に捕えられたアイリスは叫ぶことしかできない。テリウスの端正な顔が引き裂かれ、赤を撒き散らすはずだった。シックザールが言っていた通り、ここでフラグを回収するはずだった。
だが、そこに割り込んできたのはシックザールだ。シックザールの右肩から胸にかけて剣が入っていく。厳つい顔が痛みで歪む。口からは血を吐いていた。
「シックザール!!」
テリウスが友の名前を呼ぶ。だが体勢を崩したところをシックザールに押され重力に引かれるしかできることはない。
アイリスの顔に血がかかる。暖かいそれは先ほどまで生きていた者の血液。テリウスと共通の友人の体から出たものだった。
そして無情にも鎧は剣を切り上げる。胸から上。つまり首と頭を剣が引き裂いて行く。
シックザールの武骨でいて、どこか温かみのある顔が無残にも切り裂かれる。凄まじい剣風がシックザールの眼球を眼孔から零れさせた。光を失った瞳が地面に落ちる。
そして、あたたかく、軟らかいものがアイリスとテリウスの顔に付着した。
それは。
――シックザールの脳だった。
「一話まるまるでてなかった気がするが気のせいだ!」
「アルは一体誰に何を言っているんだい?」
アスタちゃんは再び呼び出されて不満顔…兎だからよくわからないけど。
「あの鎧が主人公なんじゃないかと思ってしまうな。タイトルだと鎧の方が後に来ているのに全く理不尽だ!」
「仕方がないよ。タイトルに名前があるのにビリビリさんにメインヒロインの座を奪われているなんとかックスさんという哀れなキャラクターもいるんだから…」
「おっと、サンダ―ノベルスのインなんとかさんの話はやめるんだ!」
「ありゃ、これは悪いことをしちゃったねぇ!てへぺろ」
「…って現実逃避してる場合じゃねえ!やっべやっべまじでやっべ」
「この前よりもキャラが崩れてるね。大学生みたいになってるよ」
先ほど鎧が起こした惨劇はアルも遠見の術でみていた。そのせいでアルの心は罪悪感が振り切って情緒不安定になっている。
「なんで鎧は暴走しちゃったんだよお…」
その疑問は何度も繰り返してきた。だが、その考え自体が間違っている。
鎧は暴走などしていない。鎧は鎧のやり方でやっているだけだ。
アスタちゃんと違い、鎧はアストラル界に漂っていた魂を用いて作られた使い魔だ。
意志の強さゆえに、魂だけの存在となっても滲んでしまわず、ぼやけてしまわずに行動している。
そこがアルの誤算だった。
ここまでくるとアルはもう世界を揺るがした大罪人になるしか道は残されていない。
「アスタちゃん…、私世界を征服するよ…」
「まあ、それでもいいんじゃないかな。ここまで来ちゃったらもうなるようにしかならないよ」
アルは溜め息をつく。
アルは才能がありすぎた。出る杭は打たれるようにアルは打たれた。
そして不貞腐れたアルはちょっといたずら程度の悪事を考えた。
それが今や大罪人。
「あー、これって人生詰んだフラグ?」
「いやいや、アルはエイリアンとかで言う仲間を置いて逃げようとしたらエイリアンと遭遇して、誰にも気づかれずにいつの間にか死んでるタイプのキャラだから」
「私一応主役級なんだけど!?」
「いつから主役だと錯覚していた?」
「な、なんだってー!!」
アルの現実逃避はもうしばらく続く。




