ナンバリング?そんなの要らねえってか!?ふざけんな!
「ということだ」
「そうですか…」
テリウスは街長オーロンの執務室にて情報を全て洗いざらい伝えた。オーロンは話を聞いた直後すぐに連絡用の水晶に向かい合い早口で今あったことを告げる。そして何度か頷くとテリウスに向き直る。
「魔女協会に確認もとりましたがそのアルという魔女は協会に属していない魔女だそうです。かなり優秀だということですが…。また鎧の話ですが目撃情報が正しければあれは暗黒物質ダークマターで作られた鎧で並みの攻撃や魔法では傷一つつけられないとのことです」
「絶望的じゃないか」
その時、執務室の扉がノックされた。そして返事を聞かずに扉が開かれる。そこにいたのは騎士団長シックザールだった。
「おう、街長。市民はこの砦に避難させた。騎士も配置済みだ。あとはあんたが地下に行けば避難は終了だ、ってテリウス!生きてたのか!!」
シックザールは破顔してテリウスの肩を叩く。沈鬱な雰囲気を一瞬にして吹き飛ばしてしまうこの剛毅な男はテリウスの親友であり好敵手である。
「まあ何とか生きてる。お前のほうこそさっさと突っ込んで死んじまってるかと思ったぜ」
「おいおい、俺は今や騎士団を率いる団長様だぜ?昔ならいざ知らず今はそんなことできるかよ」
そう言って笑うシックザール。テリウスも思わず笑う。
「そんで?実際どうなんだ?」
シックザールの装飾を省いた質問。この男が重役から嫌われる原因であり逆に部下から好かれる要因の一部だろう。
テリウスは苦笑して首を振る。
「あれは化物だ。並みの戦士じゃ近づいただけで殺される。剣も業物で切れ味一つ鈍らない。鎧も頑強ときている。それが疲れ知らずのように暴れまわっている。唯一勝ってるのはこちらの人数だけだ」
「なるほど、そりゃ絶望的だわ」
だが、二人の顔に諦めの色は無い。往生際が悪い性格なのだ。
「俺、この戦いが終わったらアイリスに求婚する」
「おい、馬鹿テリウス。このタイミングでのその台詞は間違いなく死ぬぞ!!」
フラグが立った瞬間だった。このフラグが折れるのかそれとも成立するのか…。オーロンは二人を見ていて呆れ半分で溜め息をつく。だが、希望は残っている。此方が全滅するか、あの鎧を倒すか。
それはこの後の戦いが証明する。
「使い魔と魔女はこういった通話もできるのか。此方から話すことが出来ないのが残念だ」
鎧は瓦礫に腰をかけ、足をぷらぷらさせながら一人呟く。アルからの返答は勿論無い。
街の体勢がそろそろ整っただろうと思い立ち上がる。住民の避難は既に終わっているようで先ほどから気配を感じない。
鎧は街の中心部にある砦を見る。この街は城下街ならぬ砦下街である。住民は皆あそこに避難しているのだろう。
鎧は剣を鞘から引き抜き肩に担ぐ。ゆっくりと、威圧するように、戦場の王者は歩みを進める。
砦の近くまで歩いて来た時だ。怒号が静寂を破った。
「撃てぇ!!」
ある一定まで進むと矢が射られた。無数の矢が空を埋め尽くし鎧に当たる。硬い装甲は矢をカンカンと弾き返す。鎧の弱点である関節部位に当たろうが関係ない。鎧の中身は無いのでダメージは無い。
「クソ!」
弓兵の悔しそうな悪態が聞えた。鎧はそちらの方を向くと跳躍する。
「なっ!?」
しばしの混乱が起きる。砦を守る外壁の高さは5mだ。鎧を着た人間が飛んでこれる高さではない。魔物だとしても不可能だ。一体こいつは何なんだろうか。その思考が答えを導くことは無く彼は頭を刈り取られた。
「どうもお邪魔します、魔女アルからの宅急便で貴様らに死をお届けします。あ、ハンコはそちらの血判でいいのでお構いなくー」
ふざけた事を鎧が言う。その圧倒的な強さに、そして常識外れの行動に恐慌に陥っていた兵達は、恐怖から怒りへと感情を遷移させる。
「ふっざけんなぁぁあ!!」
弓を捨て腰の剣を引き抜き鎧へと駆けだす兵達。先ほどのギルドの戦士たちと違い彼らは鉄の鎧に身を包んでいる。
だが鎧を紙を切るかのように切り裂く姿を見て驚愕する。驚きで鈍った隙を見逃さず一瞬で数十名の首が飛ぶ。腕や足をもがれる。臓物と汚物が撒き散らされる。
先ほどまでの喧騒も、いまや静寂があたりを包む。一方的な戦闘、否、殺戮劇は一度幕を閉じる。
鎧はその気配を二つ感じていた。
「これはBOSS戦ってやつか?」
鎧がその二人に問いかける。
「いやいや、どう見てもお前の方がボスでしょうが」
「貴様を倒す。そして求婚する」
「おい馬鹿!だからフラグを建てるな!」
それを見て鎧が呟く。
「俺、この戦いが終わったら親孝行するんだ」
「お前もフラグ建てるの!?俺だけ生き残るパターンかよ!?」
「シックザール、ふざけるのはも大概にしろ」
「そうだぞ、ホームシック。なんて女々しい名前なんだ」
「ホームシックってなんだ、ホームシックって!?わざとだろ!!」
「え、わざとだなんて照れますねぇ」
「照れる要素あったか!?」
鎧と対峙するテリウスとシックザール。
二人は鎧の発する濃厚な死の気配に冷や汗をかいていた。
「おい、テリウス。アイツふざけてはいるが実力は本物だ」
「そうだな、本気を出す前に倒せれば重畳だな」
二人は小声で囁き合う。
「もう後がないからな、最初から全力でいかせてもらう!!」
「ああ!!覚悟しろ!!」
「会話の途中で攻撃仕掛けるのってどうなんだ?味方サイドとしていいの?」
鎧の一人ごとには耳を貸さず二人は連携して攻撃を繰り出す。
テリウスの攻撃にやや遅れてシックザールが切りかかる。波状攻撃を仕掛けることで鎧に必殺の一撃を与えようとする。
「おおっと、動きが全然違うな」
鎧は感心した声でテリウスの攻撃を捌く。体重と想いの乗った重い想い…もとい一撃は中身のない鎧をよろけさせた。
その隙をついてシックザールが斬鉄をも可能とした鋭い一撃を放つ。狙うは首。そして寸分の狂いもなく目標を捉え、鎧の冑は宙を舞う。
「「なっ!」」
二人は驚愕するしかなかった。
鎧の中には人が居ない。魔物も入っていない。何も入っていない、からっぽだった。
「眼鏡眼鏡」
ふざけて頭を探すしぐさをしている鎧を見つめて二人は絶望する。
「おい、フラグ成立するかもな…」
「アイリスと結婚できるのか!!」
「そっちじゃねえよ!…お前は俺より心が強いな…」
シックザールの心は既に折れかけていた。
「無事か!?」
その時、女性の声が聞えた。同時に投擲剣が鎧の胴に当たる。それは弾かれたが鎧のおふざけを終了させた。
「アイリス!!」
テリウスが叫ぶ。ギルドマスターである少女、アイリスが鎧を挟み込む形で駆けつけてきたのだ。だがタイミングが最悪だった。鎧が突如バラバラになりアイリスを包み込む。
アイリスは強制的に鎧を装着させられた。アイリスは襲い来る鎧を振り払うことも出来ず、最後に冑が頭を包んだところで意識を失った。
「さて、人質も手に入ったところだ。君達はこの女性の命と市民の命を天秤に掛けられるかな?」
悪魔の鎧の言葉が二人に投げかけられた。




