勝手に鎧が街を滅ぼします。え?その2じゃないのかよ!?
「魔女の仕業?」
アイリスは息も絶え絶えな男が持ち帰った情報を聞いて顔をしかめる。
魔女とは怪しげな術を使う者達だ。だが、それは自分達が理解できないだけで生活の様々なところに使われていると聞く。
街にある街灯も魔女の技術が使われている。そもそも魔女は人間に比べて数が少ない為、非好戦的で協力的だと聞いたのだが…。
「ま、まじょ…アルの、つかい、ま、だと…、いって、ました」
「もういい、喋るな」
両足を切断された男はここまで這ってきたのだ。
街を守る為に戦い、少しでも情報を残す為に戻ってきた。
それを臆病者と、死ぬまで闘えと罵る者はいなかった。
アイリスの優しい口調に男はほっと一息をついて息を引き取った。
アイリスはそれを見て黙祷する。近くにいた者たちも静かに息を引き取った男の死を悼む。
だが、いつまでも時間を使う訳にはいかなかった。
彼の死を無駄にしないためにも闘わなくてはならない。
「誰か!街長のところに伝令を!」
「私が行きます」
「行ってくれるか、テリウス」
名乗りを上げた男レリウスは若き戦士だ。そして歴戦の猛者でもある。体には無数の傷がある。それは修羅場をくぐった数でもあるし、敵を倒した数でもある。
「ああ、大事な話なんだろう?確実に伝えるなら俺が一番だ」
テリウス程の男なら死ぬことは無い。だが、相手は屈強な戦士を鎧袖一触で殺す化物だ。テリウスとて無事では済むまい。だが、頼むしかない。
「すまない…」
アイリスは顔を伏せた後、すぐに凛とした顔を作る。戦いはこれからだ。
一方、アルは大変困っていた。
遠見の術を使ってあの鎧の使い魔の様子を見ていたら本当に街を襲い始めたのだから無理もない。
「あわわ、あわわわわ」
もう取り返しがつかない状況に追い詰められてしまった。
「どどどどどうしようどうしよう!こんな予定じゃなかったのに!!」
アルの中では以下のような感じになる予定だったのだ!
―アルの妄想―
「ふははー!私の使い魔つよいだろー!」
「わあわあ!暴れるのやめてください!」
「では私の名前をわすれるなー!」
「アル様ごめんなさいわすれませんー!」
―以上―
だが現実はそうならなかった。もう人がぐっちゃぐっちゃのドロッドロになっていく。
人が死んでいく様なんて見たことないので気持ち悪くなった。
そして罪悪感でいっぱいになった。
「いったいどうしたらいいのアスタちゃん!」
アルは親友(だと思い込んでる)の使い魔を呼び出した。
「なんだいなんだいアル?僕は寝るかご飯を食べるか以外に呼び出されるのが嫌なんだよ?」
手足のない団子みたいな兎に悪魔の羽がついた生き物、アスタちゃん(アル命名)は不機嫌そうな顔で出てくる。まあ、不機嫌そうと言ってもわからないのだが。
「アスタちゃん聞いて!」
「へえ」
「まだ何も言ってない!」
「ほら、ここは作者もめんどうだからかくかくしかじかで済ませる場面でしょ?」
「そんなことないから!ちゃんと説明パートあるから!」
「そんなこと言っても覚えてるでしょ?ほら、説明パートって内容忘れちゃった人の為のって誰かが言ってたよ?」
「メタな話はやめて!」
もうアルのライフポイントは0に近い。キャラが崩れるのも仕方ない。
「んで?どうしたの?アスタちゃん頑張って聞くから言ってみ?」
「じつはかくかくしかじかで…」
「結局使うのかよ!ふざけんな!謝れよ!読者に謝れ!」
「アスタちゃん!良く分からない言葉を使うのはやめるんだ!」
無為な時間を過ごしてようやくアルは冷静になる。
「冷静になってきたところでちゃんと説明するから聞いて」
「無駄な時間を過ごしたね、僕はもう帰りたいんだ」
兎の面倒そうな顔…と言っても分からないのだが、とりあえず面倒そうなのだけはわかった。主にふいんきで。あれおかしい変換できないぞ?
「アルちゃんよ、ふいんきじゃ変換できないよ?ふんいきだからね?」
「地の文につっこむのはやめてほしい!」
―――
時間がかかるので説明タイム
―――
「ということなんだ」
「あれ?時間が飛んだ気がするんだけど…」
「気のせい。で、わかった?」
「分かった分かった。アルちゃん有名になりたい作戦を実行するため強い使い魔を呼び出したら強すぎて考えも過激でアルちゃん大ピーンチ!になってるのね、それでもう後戻りできないからここは頼りがいのあるナイスガイ!アスタちゃんに頼ろうというわけだ、なるほど納得」
「説明口調ありがとう!それでどうしたらいい?」
「とりあえず話せば?」
「どうやって?」
アルは何を馬鹿なことを言ってるんだとアスタちゃんを見る。アスタちゃんはお前が何を馬鹿なことを言ってるんだとアルを見る。そして、アルは何を馬鹿なことを言っているんだお前はと言っているお前は何を言っているんだとアスタちゃんを見る、そして――以下略。
「本気で言ってるならアルちゃんはマジで使えないアホたれウンコの魔女ですね。ヒント。使い魔と魔女はパスが繋がっています」
「あ…」
忘れてたと言わんばかりのアルにアスタちゃんは溜め息をつく。
「はいはい、さっさと念話してください。僕はもう寝ます」
そう言ってアスタちゃんはどろんと消え去った。アルはやっちまったーという顔をしている。
「やばい、念話すれば被害を抑えられたかもしれないのに…」
今さら後悔しても後の祭りだった。とりあえずは話さないことには始まらない。遠見の術で座標を確認し念話を送る。
「ちょっとあんた!止まれ!」
『ん?偉大なる貧乳魔女芸人、アルの声が聞える。どうしてだろうなー、不思議だなー』
「もっと不思議そうに言えよ!てか魔女の入る場所変だろってかそもそも芸人じゃない!…っておまえとコントやってる場合じゃないの!なんてことしてくれるんだ!」
「名前を知らしめたいっていうから手伝ってるだけだ」
「私はそんな悪名を知ってほしいわけじゃなかったんだ!」
『あくみょう?なにそれおいしいの?』
「ふざけんなこのすっからかん」
『鎧だし、財布も持ってないから間違ってない』
「頭がって意味だ!…て中身入ってないから結局間違ってない!くっそー!」
『まあ、起きたことを後悔してもおそい。これからのことはこれから考えればいい。前向きに』
「悪逆非道なことをやってるやつが前向きとか言ってるんじゃねえ!」
『こら、人の権利を奪うのはいけないことだと親にならわなかったのか?ダメな子だねぇ、全く』
「いや!お前の方が人の権利奪ってるから!命とか最大級の強奪だから!」
話が進まない。アルはこの使い魔の事が全く理解できない。悪逆非道な行為をしていながらも会話はギャグみたいな、ふざけているようなそんな感じだ。ギャップが激しすぎて同じ個体だという認識が上手くい出来ない。
『そうそう、もうすぐこの街落とせる。その時は世界征服するって言っておくから覚悟しといて』
思考の間隙をついて言われた事を聞き返そうとするもツーツーという音しか聞こえなかった。
「っていうかツーツーってならねえから!」
『ただいま、電波の届かない場所か…』
「電波じゃねえから!」
とりあえず、大変なことになるのは明らかだった。




