鎧の街殲滅作戦、その1☆
アルの家を飛び出した鎧は自分の新しい体の調子に驚いていた。
疲れを感じさせない体は戦闘には向いている。また傷を負う心配もない。
更に言えば膂力も問題ないどころか十分すぎる。
ただ欠点と言えば中身が空洞なので重さがないことか。
「それにしても可愛い顔をしてあの子もえげつない事を考える」
それは鎧の勘違いなのだがもう事態は動き出してしまった。
彼は街を一つ潰すつもりで動いている。
生前の記憶とやらはないが別に構わない。戦いの技術については体が…といっても自分のものではないのだが覚えているので大丈夫だ。
人間では考えられないようなスピードで目的の街へと到着する。
地図で確認した街の名前はスノー・リリィ。だがその街の名前は今日を持って消える。
「ブラッディ・リリィ事件とでも言われそうだな」
この予想は外れるのだが使い魔にとってはどうでもいいことだった。
「おーい、そこのあんた!一旦止まってくれー」
弾丸のようなスピードで疾駆する鎧に気付いた街の門番が制止してきた。だが危機を感じているわけではない。この街は平和なのだろう。だが、その平和はたった今から崩れ去る。
「おい、止まれ…って、え?」
目にもとまらぬ速さで下半身と上半身が永久の別れを告げた。上半身が重力に引かれてドシャっと音を立てて地面に落ちる。収まるはずの臓物がはみ出し血が大地に吸われ黒い染みを生み出す。
「お、おまえなに…」
もう一人の門番が最後まで言葉を発する前に首が胴体と離れる。その目は驚きに見開かれているがそれ以降言葉を発することも表情を変えることもない。
「さて、地獄の始まりだ」
鎧は口のない顔で呟くとゆっくりと、確実に死を振りまき始めた。
街は突然の事態にパニックを起こしていた。
ギルドはそんな中、冒険者たちを集めて対策を取り始めていた。
また、街のトップである街長も騎士団に準備を急がせていた。
「一体何が起きたって言うの…?」
ギルドマスターであるアイリスは冷静に思考を走らせていた。
目撃情報を集めると敵は一体。
黒い禍々しい程の鎧だという。そんな魔物の存在は聞いたことがないが、何処かの騎士が攻め込んできたのかというとそうでもない。
だが、歴戦の戦士である冒険者も被害にあっている、人外の動きをすることから新種の魔物ではないかと結論付ける。勿論、相手が人間だったとしてもここまでの問題を起こしたら殺すことに戸惑いは無いのだが。
「でも、一体何が目的?」
目的が読めないのだ。なぜ急に攻め込んできたのか。
もともと魔物が街に攻め込んでくるには理由がある。
例えば住処を移動する際の進行ルートに街があった。例えば人間が魔物を刺激しすぎた。他には人間が主食の魔物が餌を求めてやってきた。大体この辺りだろう。
だが、あの魔物はそうではない。
たった一体の魔物が住処を移動する、というのは聞いたことがない、住処の移動は群れ単位で行われるからだ。次に人間が刺激した、というのもないだろう。あの魔物が目撃されたのは今回が初めてだ。
そして人間が主食…、という線はないだろう。
「マスター!そろそろ奴が来ます!」
「分かったわ!皆!ここで奴を止めないと街が滅ぶわ!この街の命運をかけて闘いましょう!」
答えが出ないまま戦場はすぐそこまで迫ってきていた。
そこは地獄といっても良かった。
石畳は元の色を失い、赤黒く染まっている。また、足の踏み場がないほどの骸。勿論無事なものは一つとしてない。すべてが切り刻まれ、内臓を骨を晒している。
その中をゆっくりと歩き進む者が居る。アルの使い魔だ。業物の剣はこれだけの人を切っても切れ味を鈍らせず、未だに輝きを放っている。使い魔は知らないだろうがこれは人々を死に陥れた魔剣だとあとでアルに聞かされるが今はまだそんなことを知らない。
「武装した連中が来るころ合いだな」
そう呟く。それから数秒もしないで曲がり角から武装した者達が現れた。
「いたぞ!!」
「あいつだ!」
「俺達が街を守るんだ!」
先ほどまでの一方的な虐殺ではなく、これからは戦闘となる。
だがゆったりとした足並みを変えない鎧の使い魔。だらりと下げた剣を見て相手は油断をする。
「貰ったぁ!」
剣を持った男が鋭い踏み込みで先陣を切る。そして次の瞬間には腕と足が肉体から離れていた。
「あれ?」
間抜けな声を上げてしまうほどに、それは唐突な出来事で予想できなかった。
血が噴き出し鎧を濡らす。切りかかった男は浮いていた体が地に着くと同時に絶命した。
「我は災厄の魔女、アルの使い魔。お前らには悪いがここで死んでもらう」
ここで初めて鎧はアルの名を告げた。そして皆殺し宣言をする。先ほどの光景を見て戦士たちは心に恐怖を刻み込まれたはずだ。だが、鎧は皆殺しにするつもりはない。
皆殺しにしてしまえば、語り部が居なくなるからだ。恐怖と絶望を与えて語り継がせる。それが伝播しいずれはアルの名前はこの世界中に広がるだろう。
「かかってこい」
鎧は手を広げる。それは無防備に見えた。その造られた隙を好機と見て飛びかかるギルドの戦士達。
そして戦士たちは解体されていく。腕を失い、足を失い、胴を分かたれ、首を飛ばされ、左右に分かたれ、糞尿を撒き散らし、血を噴き出し死んでいく。
そこにあるのはただ、死を振りまくという災害といっても良かった。
それほどまでに圧倒的だった。
恐慌を起こして逃げ惑う屈強な戦士達。それを適度に逃がし、適度に痛めつける。逃げる最中に死なないのならいい。ある程度生きてられる程度に体を削ればいいのだ。
そして恐怖は伝播する。アルの名前は広がる。鎧とってはどうでもいいが、面白そうなので彼女を手伝ってもいい。もちろん鎧のやり方で好きにやるが。
そんなことを考えている内に鎧のほかに動く者は居なくなっていた。地面には這って逃げたのか血の跡がたくさんできている。
「よしよし」
それを見て鎧は満足そうに頷くのだった。




