ぼっちな魔女と鎧の使い魔
「気分はどうだ?」
唐突な質問に驚く。
見事なまでの意識の断裂。質問以前の記憶は朧気だ。
違和感を覚える体を今は置いといて質問主の方へと意識を向ける。
「おい、なんとか言ったらどうだ?」
目前に居るのはなんともまあ美しい少女だった。残念なことに、豊満な体というよりもしなやかな体なので出るとこは出ていない。
「おい…おまえ失礼なこと考えただろ?」
首を振る。横ではなく縦にだ。正直なことは基本的にはいいことだ。
それを見た少女は頬を引くつかせる。
「人の胸を見て失礼なことっていったらあ、なんだ?おい?」
「貧乳」
自分の声に驚く。まるで自分のものではないみたいだった。というか自分のものではない。
こんな無機質な声を出したりはしなかった。
「ふざけんな!」
ガイン!と金属を殴ったような音が聞こえる。自分の頭から。
「痛い!」
こっちの疑問など知らぬ存ぜぬで少女の方は勝手にコントをやっている。
「てめえ!せっかく私が使い魔にしてやったのになんてことしやがる!」
「何を言っているんだ?それは自業自得というんだ」
「うるせえ!」
ガインガインとこちらの頭を殴る少女。
音が直接頭に響くのでうるさいことこの上ないが分かったことがある。
自分の頭が金属になっている。そして痛みを感じない。
自分の体に何かしらの変化が出ているのは明らかだった。
「おい、貧乳芸人」
「誰が貧乳芸人だゴラぁ!?」
「名前を知らないから仕方がないだろう?貧乳芸人」
「調子に乗んなよぉ!?」
「調子になど乗っていない。貧乳芸人はこちらの方が立場が下だと思っているのか?思い上がりはやめたほうがいい」
「ぐぬぬ…!」
少女の目に涙が溜まり始めた時点でやめる。
「ふむ、美少女が悔しそうにしているのはそそられるな」
「この変態が!!」
またもやガインと音がする。
少女が落ち着くまで黙っている事にする。もちろんその間も視線を外さない。舐めまわすようにじっくりとねっとりと見つめる。その間に分かったことだが、この体には瞼がない。というか呼吸をしていないので生身じゃない。だが、そんなことよりも今は少女を余すことなく観察することだ。勝気な少女が弱っている姿は見ているだけで気分がいい。
「ハア、さて話を戻そう…」
「ああ、そうだな。コントはもうやめてくれよ」
「だまらっしゃいッッ!!」
「一々反応していては身が持たないぞ?早く話を進めるんだ」
「一体誰のせいだと思ってんだ…!」
少女は目を瞑って深呼吸する。残念なことにそれをやっても主張する胸はないのだからサービスにはなっていない。本当に残念だ。
「最初の質問に戻る。気分はどうだ?」
「悪くない。勝気な美少女が屈辱に耐えて泣きそうにしていたり、その立ち直る様を見ているのはとても最高だった。悪いはずがない」
「こいつ変態だよぉ…」
脱線しすぎるのもなんなので自分から話を修正する。
「それで?ここはどこで君は誰かな?」
「やっとここまでを持ってこれた…1000文字くらい無駄に使ってるからな?」
「まったく困ったものだ、気をつけるといい」
「他人事みたいに言うなよ!お前のせいだよ!!」
「いいから話を進めるんだ」
「ッ…!!ん、んん、私の名前はアルだ、そしてここは私の工房だ」
「ふーん」
「お前なんなんだ!?」
「煽られ耐性なさすぎだな、それで使い魔ってのはなんなんだ?」
「お前は私の使い魔となった」
「今日で辞めさせていただきます」
「クソ!怒るなよ私!ここで叫んだらあいつの思うつぼだ!」
「冗談はこれくらいにしておいて、体が変なのと関係はあるのか?」
そういうとアルは人の悪そうな笑みを浮かべる。とても泣かせたい顔だった。
「お前の体はな、鎧に変わったんだ!」
「だからガインガインうるさかったんだな納得」
「驚き少ないな!?」
くそー!と地団太を踏むアル。ちょっと悔しそうで興奮する。
「しかたないな…。な!なんだって!?俺の体が鎧になっているだと!まさかそんなはずは…!!」
そうして手を見る。籠手を外してみると本来ならば鎧の下にあるはずの肉体は存在しない。
「俺をどうしようって言うんだ!?」
「なんで急にそんな演技派みたいになるんだ…!?」
「こういうのを所望していたのではないのか?」
「最初からやれよ!!」
全く、と溜め息をついてアルは疲れた顔をした。
「まあ、お前は生前剣士として名を馳せていたらしい。だからその魂をアストラル界から引っ張ってきて鎧に定着させた」
「へえ」
「これからは私の使い魔として働いてもらう」
「えー」
「私は世界に私を認めさせてやるんだ!私の才能を、私の力を!私を馬鹿にした奴らに見せてやるんだ」
「ほほう」
「お前聞いてないだろ!?」
「要約すると、皆して私を無視するの!私を見てほしいから力を貸して!お願い!!って感じ大丈夫だろうか?」
「間違ってないけどさあ…!!」
こめかみを押さえるアル。大分疲れているのだろう。
「そうか、俺の魂を定着させるのに体力を使い果たしたんだな」
「ちげえよ!お前と会話してて疲れてるんだよ!変なとこで気を回さなくていいから!」
ゼエハアと荒い息を吐くアル。
「それでお前にやってほしいことなんだけど」
「…」
「私の力を見せつけるにはお前が各地で暴れてくれればいいんだ」
「…」
「人々が恐怖したところで私の名前を出す、完璧だろ?」
「…」
「何か言えよ!」
「会話が疲れるっていったから…」
「そういうところが疲れるっていってるの!!」
涙目になって少し幼くなってしまった口調で言う。可愛いじゃないか。
「分かった。お前の言う通り暴れてくればいいんだな?」
「ああ、そうそう適度に暴れてもらって私の名前を出して世間に知らしめればいいんだ」
「分かった。血と絶叫と絶望を持って君の、アルの名前を世間に知らしめよう」
「え?」
「地図はあるか?」
「え、えっとあそこに」
そうして指差された場所にある地図を見る。
「現在地は?」
「ここ」
指差された場所と地図を比べて一番近い街をピックアップ。
適度に大きく、適度に繁栄している感じの場所に目処をつけると、鎧の使い魔は腰に下げた業物の剣を確認する。
「えっと、さっきなんて言ったのかもう一度いいか?」
「この街の人間を皆殺しにして君の名前を恐怖と共に知らしめる、心配するな。俺一人でも十分だ」
「ちょ、待って!」
呼び止めるまでもなく鎧の使い魔は走りだす。
後に残されたアルは取り返しのつかないことをしてしまったと震えだした。




