おがみ屋さん
セツちゃんじゃないの、とさくらちゃんに声を掛けたのは、皆が「なむなむ婆」と呼んでいる駄菓子屋のおばあちゃんだった。
さくらちゃんはキョトンとして、でもニコニコ笑って挨拶した。
「まあ、元気な挨拶ありがとうねえ。セツちゃんが今日も元気で過ごせます様に」
なむなむ婆は手を合わせてなむなむとやる。
挨拶をするとなむなむするから、なむなむ婆、と呼ばれている。
「わたしは、セツちゃんの曾孫の陽菜って言うんだよ。でも、ありがとう、ミヨちゃん」
なむなむ婆は目をまぁるく見開いて「あらあ、そうなの。ごめんね、じゃあ改めて。はるちゃんが今日も元気で過ごせます様に」となむなむした。
「おばあちゃん、名前、ミヨって言うの?」
「そうよ。角川ミヨ子。セツちゃんは、ばあちゃんのお友達」
○○家の人間を友達だと言う人は初めて見たので、どうしてオトナは○○家に関わったらいけないと言うのか聞いてみた。
「そうねぇ。セツちゃんの旦那さん、恐ろしい死に方したからねぇ。それで、恐いと言う人はいっぱいおるねぇ」
なむなむ婆は、セツちゃんのお家、○○家は「おがみ屋さん」だと教えてくれた。
オバケに困っている人を助けたり、村の人の悩みを解決して生活していた家で、さくらちゃんのおばあちゃんやお母さんは素質を受け継がなかったからセツちゃんの代でおがみ屋さんを畳んだんだと言った。
「感謝もされるけど、怨まれる事もある仕事だからねぇ。セツちゃんはいっつも、自分は普通の死に方はしないだろう、って言っていたよ」
おがみ屋さんだった最後の2人が死んだ時の様子がそら恐ろしいものだったから、村のオトナ達は「災いを貰ったらかなわん」と○○家を避けているんだとなむなむ婆は言った。
「みぃんな、良くセツちゃんの世話になったんだよ。失せ物はピタリと見付けてくれるし、セツちゃんが経を上げたら悪い事がピタリとやんだり、色々あったねえ」
なむなむ婆は懐かしそうにそう言った。
「じゃあ、なんでオトナはその話せんの?」
「僕達のお父ちゃんやお母ちゃんは、○○家に関わったら呪われるって、吹聴して回ってたからねえ。大人になると、簡単にごめんなさいと言えんのよ」
謝っても、許しては貰えないだろうしねえ、となむなむ婆は言った。
ごめんなさい、って言われたら許してあげましょう、って先生が言ってたよ、と言うと、「大人は難しいのよ」って返ってきた。
「お腹空いてるでしょう?きなこ棒買ってくかい?」
「あら、お母さん。店の仕事は私がするから、居間で訪問医を待っててって言うたんになんで店におるの」
そうだったかねぇ、と言うなむなむ婆を自宅になっている部屋の奥へ連れてって、駄菓子屋のおばちゃんが帰ってきた。
「いらっしゃい。いっぱい買って行きなさいね」
おばちゃんに言われて財布を広げる。
おやつ代に貰った500円と、家の手伝いをして貯めた小銭がいくらか入っている。
さくらちゃんは首から提げているポーチの中身を見ながら、「足りるかなあ?」と言いながら色んな駄菓子を見て回っていた。




