○○家
○○家に孫がやって来たのは、陽菜が小学校に上がって直ぐの事。
嫁ぎ先で「この子は孫ではない」と母子共に差別を受けた為に、結婚している身にも関わらずなつきは女手ひとつで陽菜を育てる事になった。
全ての手続きが完了し、なつきを迎えに行った時、初めて対面した陽菜の右手にはさくらんぼ柄のミトンが嵌められていた。
どうしたのか、と聞けば「この子、教えてもいないのに呪物を造ったのよ」となつきは言った。
なるほど、身体の一部に呪いを込めて切り落とせば呪物になると、両親に教わった事がある。つまり、こんな小さな子供が父親を見限ったと言う事か。
「○○家に関わると呪われる」、そんな噂に陽菜を振り回したくないからと、なつきは旧姓には戻らず婚家の性を名乗り続ける事に決めた。
隔世遺伝で拝み屋の才能を引き継いだらしい陽菜には、父母が使っていた仕事部屋を割り当てた。
むかしの文字もスルスルと読む陽菜を褒めると
「おじいちゃん達が読み方を教えてくれるんだよ」
と言って仏壇を指差した。
過去帳を引っ張り出した陽菜は、「先生」の名前を次々に指して、「ちょっと怖い時もあるけど、みんな優しいんだよ」と笑った。
陽菜は毎朝4時に起き出して、仏壇におはつを供えて、小さな両手を合わせて経文を読み上げる。
それは、生前の両親の姿そのものだった。
お参りが終われば家中を掃き清め、「かしこみ、かしこみ」と唱える。
朝食の時にそれを褒めると、小首を傾げてなつきに先日観た女児向けのアニメについて無邪気に話していた。
「覚えているところと、覚えていないところがある、と言うか。仕事と、仕事以外を完全に分けているみたいなのよ」
勉強中、仕事中なら拝み屋として何があったのか教えてくれるそうだが、それ以外の時間では新しい学校で友達が出来た事や、流行りのアニメの話をする普通の小学生なのだと、なつきは言った。
夏に入って直ぐ、なつきの元夫から頻繁に電話が掛かって来る様になった。
曰く、「目が醒めた。やり直したい。帰って来て欲しい」と言った内容だそうだ。
母親に流されやすい男と復縁したところで、また苦労する事になる、忘れなさい、と言えば「分かってるわ」となつきは言った。
『…陽菜に会いたい…』
「産まれてからずっと、興味ひとつ持たなかった貴方が何を言っているの?」
電話が掛かって来る度、なつきは「もう掛けて来ないで」と元夫に告げるのだが、2日と空けずに電話は掛かって来る。
着信拒否にしては、と言えば「それで押しかけて来られたら困るから、着信拒否はしない」となつきは言った。
「―――お義母さんが来たわ」
夏休みに入った孫が友達と外遊びをして、喉が渇くだろうし、小腹も空くだろう、と言って小学校に冷えたジュースとお菓子を持って行っていたなつきは心底嫌そうにそう言った。
「たまきちゃん、…元義妹に、ウチが元拝み屋だと聞いて、私が再婚相手を恨んで呪ったんだろう、って。陽介が再婚した事も知らないのに、どうして再婚相手を呪えるんですか?って言って追い返したわ」
離婚後直ぐに再婚するだろう事は陽菜に聞いて頭には入れていたらしいが、まさか本当に直ぐに再婚しているとは思わなかった、となつきは言った。
「向こうの家、今大変な事になっているらしくてね。その責任を全て、こちらに押し付けて来たのよ」
再婚相手が、陽菜が造った呪物に触れて死んだ。
それを皮切りに、不幸が連鎖しているのだと。
「陽菜。お前はいったい、何を造ったんだい?」
「分かんない。おじいちゃん達に聞いた通りに造っただけだから」
そう言って、陽菜は自分の部屋に戻って行った。




