矢口理沙
―――おじさんの子供を妊娠した。
わたしのお腹に芽吹いた新しい生命は、幼馴染の陽介のお父さんとの子供になる。
陽介やたまきちゃんから見たら、異母きょうだいになる。
おじさんはわたしが中学生になった頃から、厭らしく舐め回す様な目でわたしを見ていた。
そうして、とうとう。
おばさんがわたしを呼んでいるから、と言う陽介の言葉を信じて陽介の家に行った結果が、これである。
ボロボロになったわたしを、夕飯の買い物から帰宅したおばさんは何故か喜んでいた。
仮にも、自分の夫が不貞を働いたと言うのに、だ。
「私は理沙ちゃんを全力でサポートするわ。あの田舎娘よりも先に、男の子を産んで頂戴ね」
なつきさんを裏切る事は出来ない、けれど、両親の行動を良しとする陽介は、本当にわたしの知る幼馴染だろうか、と絶望した。
毎日繰り返される行為の末、わたしはおじさんの子供を妊娠し、なつきさんが出産するよりも3ヶ月早く出産した。
男の子だった。
なつきさんを陽介から別れさせたいばかりにわたしを都合良く利用したおばさんは許せなかったし、産まれた息子も可愛いとは思えなかった。
わたしが息子に何もしなくても、おばさんが何かと世話を焼いていた。
ほんとうに血の繋がった孫娘である陽菜ちゃんを認める事は無く、わたしの息子ばかりに構う姿は見ていられなかった。
「この子は私の可愛い孫。大事な跡取りよ」
本気でそう言っていたおばさんは、陽菜ちゃんが6歳になった頃、陽介になつきさんと別れる様に言った。
「おばさん」
全ての手続きが終わって、なつきさんが陽菜ちゃんを連れて故郷の村に帰るその日、陽菜ちゃんがわたしに声を掛けた。
「どうしても辛くなったら、お母さんの使ってた部屋の天井を調べてね」
なつきさんが陽介と交際を始めた頃、たまきちゃんから聞いた事があった。
なつきさんの実家は祖父母の代までは拝み屋で、なつきさんのお母さんとなつきさんは能力を受け継がなかったから、拝み屋を廃業した家系らしい、と。
なつきさんは、「お母さんやわたしには、受け継がれなかったのに、隔世遺伝、ってヤツかしら?」と陽菜ちゃんを見てそう言っていた。
元嫁がいた痕跡を消して、自分好みの空間にしたい、と言えば、おばさんや陽介はあっさりと了解してくれた。
陽菜ちゃんが教えてくれた通りの場所を探すと、天井に小さな箱が隠してあった。
綺麗な木目細工の箱で、振ってみると中からカサカサと音がする。
ぐらり、と、わたしの身体が大きく倒れた。
身体の中身を食い荒らされる様な痛みと、吐血。
オカルト掲示板巡りの好きなたまきちゃんが教えてくれた、「コトリバコ」、と言う単語が脳裏を巡る。
女性や子供が触れると、死を齎すとされる呪物。
わたしは、嬉しくなった。
これで、これ以上おじさんに穢される事も無ければ、なつきさんが田舎出身と言う、ただそれだけの理由でおじさんの不貞行為を許すおばさんに振り回される事も、忌まわしいあの子を育てる事も無いし、思考が狂っている両親に流される幼馴染と、物理的に離れる事が出来る。
ありがとう、陽菜ちゃん。
お母さんと一緒に、しあわせになってね。




