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僕が逃げた利器と得た安住  作者: 藤一


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新春の餅つきと、広がっていく輪

1月2日の朝。佐藤は居間で両親と雑談を交わしながら朝食を摂っていた。

「二人とも、今日の餅つきって来られそう?」

「もちろん行くわよ。何時ごろに行けばいいのかしら?」

「10時くらいに山口製作所の門前に来てくれたら、ちょうど合流できると思う」

そう手短に予定を伝え、佐藤は急いで身支度を整えて家を出た。まずはサークルメンバーが待つ鈴木さんの喫茶店へ移動し、車に商工会から借りておいた本格的な臼と杵を積み込んで会社へと向かった。もち米に関しては、渡辺さんたちが手配して直接運び込んでくれることになっている。

今回は市役所による全体への告知を出していなかったため、参加者はサークルメンバー、道具を貸してくれた商工会の人々、山口製作所の社員とそのご家族、そして事前に約束していたあのお見合いの佐久間さんほどだろうと思っていた。

しかし、10時前に会社の門前に着いてみると、そこにはすでに50人を超える人々が集まっていた。

「うわ、こんなに……!」

佐藤は驚きつつも、昨日初詣で会えなかった人々へ「あけましておめでとうございます!」と新年の挨拶をして回った。人だかりの中には社長の姿もあり、佐藤を見つけると破顔した。

「佐藤くん、今年も色々と面白そうなことをやるんだろう? 敷地を使いたい時はいつでも相談してくれよな」

「ありがとうございます! 今年もよろしくお願いします」

和やかに言葉を交わし、門を開けて全員で敷地内へと入っていった。

まずは大鍋で大量のもち米を研ぎ、蒸し始める。すると、特に誰が指示を出したわけでもないのに、集まった人々が手際よくブルーシートを広げ、パイプ椅子や長机を並べ始めた。さらには「これみんなで食べて!」と各自が持ち寄ったお菓子やジュースがテーブルいっぱいに並べられ、あっという間に賑やかな空間が出来上がっていく。

小さな街ゆえに元々顔見知り同士が多く、和気あいあいとした最高の雰囲気でイベントがスタートした。

準備の合間、佐藤は佐久間さんのもとへ歩み寄った。

「そういえば、ちゃんと自己紹介をしてませんでしたね。佐藤です」

「私こそ、今更ですみません! 佐久間です」

照れくさそうに名刺代わりに改めて挨拶を交わす。写真と名前、大体の年齢くらいしか知らなかったが、こうして損得抜きで楽しそうに手伝ってくれる佐久間さんの姿を見て、(本当に気さくで素敵な人だな……)と佐藤はしみじみ感じていた。

そうこうしているうちに、蒸したてのもち米から甘い湯気が立ち上った。

「よし、もち米が炊き上がったぞー!」

その声を合図に、トッピングの準備が一斉に始まった。定番の醤油、大根おろし、きな粉、あんこ、海苔、そして温かいお雑煮の汁。参加者たちが思い思いに薬味の準備を手伝ってくれるため、サークルメンバーは純粋に「餅を突く作業」に専念することができた。

「佐藤さん、私にも餅つきをやらせてもらってもいいですか?」

佐久間さんからのリクエストを受け、「もちろんです! じゃあ一緒に持ちましょう」と佐藤は杵を並んで握り締め、「よいしょー!」という周囲の掛け声に合わせて力を合わせて杵を振り下ろした。

参加人数が多いため、もち米を炊いては突く作業を怒濤の5セット繰り返した。出来上がったつきたてのお餅は、温かいうちにどんどん参加者へ配られていく。

「熱い熱い! でもウマい!」

冬の寒さを忘れるほど汗だくになって杵を振るいながら、佐藤は(明日、絶対にもの凄い筋肉痛になるな……)と苦笑いした。

最後の5セット目の餅が突き上がると、ようやく佐藤たちも席に着き、自分たちの分を好きな味付けで食べ始めた。つきたてのお餅は驚くほど柔らかく、絶品だった。

テーブルには、近所の人々が差し入れてくれた自家製の漬物や、唐揚げ、フライドポテトなどが所狭しと届けられる。そこへ、ご機嫌な様子の社長が極上の日本酒を一升瓶ごと抱えてやってきた。

「みんな、今日は正月なんだからな! 面倒な片付けや道具の返却なんて明日にして、まずは飲もう!」

社長が自ら盃に酒を注いで回り、商工会の面々も混ざって、現場は完全に大宴会へと突入した。美味しいお酒とお餅、手作りの料理を囲み、最高に心地よい時間が流れていく。

気づけばあっという間に夕暮れ時を迎えていた。

「明るいうちに、大きな洗い物だけ済ませちゃおう!」

渡辺さんの声掛けで、全員で協力して大きな鍋や臼の手入れをテキパキと終わらせた。

ここで一旦、締めとして社長とサークル代表の鈴木さんから挨拶が行われた。

「昨年に引き続き、今年もみんなで色々と楽しいことをやっていきます! 変わらず協力よろしくお願いします!」

「イベントもたくさん企画するので、みんな遊びに来てね!」

二人の挨拶に大きな拍手が送られた後、子ども連れのご家族や女性陣、そして佐久間さんも「お先です!」と満足そうに帰路に就いた。

そして現場に残されたのは——特に急ぎの予定もない、おじさんたちと佐藤だった。

「よし……それじゃあ、二次会スタートだな!」

そこから酒盛りは夜の21時まで途切れることなく続き、最後は社長に「明日、残りの片付けに来ますね!」と固い握手を交わして、大盛況の新春餅つき大会はお開きとなったのだった。

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