除夜の鐘と、巡る季節
夜が更けると、リビングのテレビには賑やかな年末特番が映し出された。
食卓には、父親が奮発して買ってきた新鮮な刺身や、珍味の盛り合わせ、そして昼間に揚げたサクサクの天ぷらがずらりと並ぶ。佐藤は缶ビールのプルタブを押し開け、冷えたビールを喉に流し込んだ。
「そういえば、紅白は見なくていいの?」
刺身に醤油をつけながら佐藤が尋ねると、父親は手元の盃を傾けながら苦笑いを浮かべた。
「うーん、最近は知ってる歌手なんてほとんど出ないし、出たとしても毎年同じ曲ばかりでもう飽きちゃったんだよなぁ」
意外な返答に佐藤は少し驚いた。「ずっと変わらない安心感」を求めて見ているものだと思っていたが、両親の中ではすでに過ぎ去った習慣になりつつあるらしい。
「じゃあ、このバラエティ番組でいいの?」と重ねて聞くと、父親は「ガハハ」と笑った。
「流しておくだけだからこれでいいんだよ。こうやって酒をゆっくり飲んで、好きなものを食ってるのが一番だ。所詮、今のテレビなんてただのBGMさ」
テレビの音をバックに、たわいもない雑談を交わしながらゆったりとお酒を楽しむ。特別なことは何一つないはずなのに、その空間がたまらなく心地よかった。
22時を回った頃、「そろそろお蕎麦にしようか」と母親が立ち上がった。
少し遅めの夕食として出されたのは、あらかじめ準備しておいた温かい蕎麦に、昼間一緒に揚げた天ぷらを載せた一杯だった。ほろ酔い加減の身体に、出汁の優しさがじんわりと染み渡っていく。
(実家で食べる年越し蕎麦なんて、何年ぶりだろう……)
ズズッと麺を啜りながら、佐藤は自分の胸の奥が温かくなるのを感じていた。
思い出すのは、まだ何者でもなかった学生時代の頃のことだ。あの頃もこうやって、こたつに入って両親とくだらない話をしながら年を越していた。変わってしまったものもたくさんあるけれど、この実家の空気感だけは、あの頃のままだ。
懐かしさと、包み込まれるような深い安心感。
12時を回ると、テレビの音の隙間から、遠くの寺で打たれる除夜の鐘の音がかすかに聞こえてきた。ゴーン、と低く澄んだ音が夜の静寂に響き渡る。
「……よし、今年もいい一年だったな。そろそろ寝るか」
心地よい酔いと満腹感に身をまかせ、佐藤は布団に潜り込んだ。
明後日にはまた、あの賑やかなサークルメンバーや街の人たちとの餅つきが待っている。新しく巡ってくる年への希望を抱きながら、佐藤は静かに目を閉じるのだった。




