門前の約束と、深まりゆく忘年会
片付けを終え、喫茶店へ向かおうと会社の門を出ると、先ほど店番を手伝ってくれたあの女性がぽつんと立っていた。
「あ、佐藤さん! お疲れ様です」
「お疲れ様です! 今日は飛び入りなのに、片付けまで色々手伝ってくれて本当にありがとうございました」
頭を下げる佐藤に、彼女は眩しそうに目を細めて微笑んだ。
「いえいえ! こんなに夢中で楽しめたのは、本当に久しぶりでした。すごく楽しかったです!」
「そう言ってもらえると、僕たちも頑張った甲斐がありました。よかったです」
素直な言葉が嬉しくて思わず笑みがこぼれる。すると彼女は少し真面目な表情になり、佐藤の目を見つめた。
「あの……お見合いとか叔母様のお話は抜きにして、またこういうイベントをやる時は誘っていただけませんか?」
思いがけない言葉に一瞬驚いた佐藤だったが、すぐにピンと来て提案してみた。
「それなら、せっかくだから年明け2日の『餅つき』も来ませんか? 会社の敷地でまたみんなでやるんです」
「えっ、本当に行っていいんですか!?」
「もちろんですよ! ぜひ来てください」
「やった! 絶対行きますね!」
嬉しそうに約束を交わしたところで、彼女は後方で温かい視線を送っているサークルメンバーの存在に気づいたようだった。
「あ、サークルの皆さんを待たせちゃってますね。引き止めちゃってすみません、また2日に!」
そう言ってペコリと頭を下げ、彼女は軽やかな足取りで帰っていった。
その直後から、喫茶店へ向かう道中はサークルメンバーからの怒涛の冷やかしタイムとなった。
「おいおい佐藤くん、めちゃくちゃイイ子じゃないか!」
「だなぁ! お前には勿体なさすぎるぞ! 年齢差だってかなりあるんだから、しっかりエスコートしろよ?」
口々にからからと笑い合い、賑やかに冗談を飛ばしながら鈴木さんの喫茶店へと到着した。
店に入ると、マスターの鈴木さんが業務用の冷蔵庫からサークルメンバーの分として取っておいた特製の蕎麦と鴨肉を出してきた。
「さあ、遅くなっちゃったけど、俺たちの分の年越し蕎麦を食べようか!」
「待ってました! 実はこんなこともあろうかと、秘蔵の日本酒を持ってきてたんだよ!」
渡辺さんが嬉しそうにカバンから取り出したのは、大切に保管していた極上の地酒だった。
「この鴨出汁の蕎麦と、この酒がまた最高の相性なんだよ」
渡辺さんが手際よく全員の盃へ並々と酒を注いでいく。
「よし! それじゃあみんな、今年一年お疲れ様! サークルの忘年会を始めようー!」
「乾杯ー!」
冷えた盃を交わし、温かい鴨南蛮蕎麦をズズッと啜る。鴨の濃厚な脂とネギの甘み、手打ち蕎麦の香りが口いっぱいに広がり、そこへ渡辺さん厳選の日本酒を流し込むと、思わず溜息が出るほどの旨さが身体に染み渡った。
「うまい……! 今年一番の蕎麦だな」
サークルに入り、みんなで色々なものを手作りし、失敗したり成功したりしながら駆け抜けた一年。
(あぁ……どんどんこの場所が居心地良くなっていくな)
最高の仲間に囲まれ、じんわりとした幸せと心地よい達成感に浸りながら、今年作ったものの思い出を語り合う。一人、また一人と温かな酔いに任せて幸せそうに寝落ちしていき、喫茶店には穏やかで優しい時間がゆったりと流れていくのだった。




