怒涛のピークと、遠くの歓声
12時を知らせるチャイムが遠くで鳴ると同時に、特設ステージでは「一芸披露会」が華やかに幕を開けた。
しかし、時を同じくして蕎麦の販売ブースには怒涛の注文ラッシュが押し寄せ、佐藤たちサークルメンバーは優雅にステージを眺めるどころではなくなった。
「佐藤くん、出汁追加! ネギも切ってくれ!」
「はいよ! 渡辺さん、次の生地伸ばしお願いします!」
「任せろ! 小林くん、切りを頼む!」
渡辺さんが力強く生地を捏ねて伸ばし、呉服屋の小林さんが職人さながらの手つきで均一に切り揃える。鈴木さん(喫茶店のマスター)が煮込んだ鴨肉を手際よく切り分け、佐藤が茹で上げと盛り付けをこなす。サークルメンバーの完璧な連携プレイで次々と蕎麦を提供していくが、打つスピードを遥かに超える勢いで注文が入り、用意した打ち立ての蕎麦はあっという間に底をついてしまった。
「よし、蕎麦屋さんからいただいた予備の生蕎麦を出そう!」
仕込んでおいた50玉の生蕎麦を投入し、フル回転で茹で続ける。だが、客列の最後尾は一向に縮まる気配がない。汗をぬぐいながら機械のように注文を捌き、ふとお代を受け取るタイミングで会計口の客の顔を見て、佐藤はハッとした。
「……父さん、母さん!?」
並んでいたのは、昨夜招待した両親だった。
「すごい盛況だねぇ。大活躍じゃないか」
「はい、鴨南蛮二つ。まだまだ、頑張るよ」
父親に感心したように声をかけられ、母親から温かい笑顔を向けられて少し照れくさくなったが、後ろにはまだまだ長蛇の列が控えている。
「ありがとう! ごめん、ゆっくり話せなくて!」
照れ隠しに声を張り上げ、どんぶりを手渡してすぐに次の注文へと取りかかった。横を見ると、商工会の惣菜屋さんが提供してくれた山盛りの天ぷらも、飛ぶような勢いで減っている。
ブースのあちこちからは、嬉しい歓声が漏れ聞こえていた。
「うわ、この鴨南蛮めちゃくちゃ美味しい!」
「とても素人が作ったとは思えないねぇ」
「天ぷらもついてこの値段で食べられるなんて、信じられない!」
自分たちの作った蕎麦が絶賛される声は、疲れた身体に何よりの薬だった。
ステージからは、地元ミュージシャンの演奏や素人漫才の爆笑の声、楽しげな拍手が絶え間なく聞こえてくる。
(せっかくの披露会、ちょっとくらい観に行きたかったな……)
贅沢な思いを残しつつも、佐藤はおじさん仲間たちと顔を見合わせ、満足感と心地よい汗に包まれながら、ひたすら麺を茹で続けるのだった。




