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僕が逃げた利器と得た安住  作者: 藤一


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米屋の教えと、賑やかな試作会

週末になり、今度は「餅つきの事前テスト」をやろうということになった。

まずは材料の餅米を調達しようと地元の大型スーパーへ出かけたが、棚にはいくつか種類の異なる餅米が並んでいるものの、どれを選べばいいのかさっぱり分からない。近くにいた店員に尋ねてみたが、「すみません、餅米の違いまではちょっと……」と困り顔をされてしまった。

「あ、それでしたら商店街に昔からあるお米屋さんに行かれてみてはいかがですか? 詳しく教えてくれますよ」

店員さんに勧められ、喫茶店のマスターが「あ、そういえばあそこに渋いお米屋さんあったね!」とポンと手を打った。

全員で車を走らせ、商店街の一角にある老舗の米屋を訪ねると、頑固そうだが温かみのある店主が迎えてくれた。事の経緯を話すと、店主は目を輝かせて品種ごとの特徴を熱弁してくれた。

「餅米も奥が深くてね。ふっくら炊き上がって粘りが強く、初心者でもつきやすくて滑らかになるのはこの品種だよ」

店主の親切で的確なアドバイスに従い、お勧めされたお米を素直に購入して作業場へと戻った。

さっそく餅米を蒸し始める。炊き上がるまでの時間を利用して、おじさんたちは二つの班に分かれて手際よく準備を進めた。

一班は、商工会から借りてきた立派な石臼と木杵をきれいに洗い、お湯を張って臼を温める準備。もう一班は、つき上がったお餅につける大根おろしやきな粉、茹で小豆、醤油や海苔といった薬味と味付けの仕込み担当だ。

やがて、蒸籠(せいろ)から甘く香ばしい湯気が立ち上り、ふっくらと蒸し上がった餅米が臼へと運び込まれた。

「よし、まずは捏ね(こね)からだ!」

いきなりつくのではなく、二本の杵を使って二人で体重をかけ、米粒を押し潰すようにグルグルと捏ねていく。ある程度粒が潰れて塊になってきたところで、いよいよ本番の餅つきが始まった。

「ハッ! ソレ!」「イヨーッ!」

一人が杵を振り下ろし、もう一人が絶妙なタイミングで手を入れ、餅をひっくり返していく。最初はぎこちなかった動きも、掛け声を合わせながらサークルメンバーで交代交代でつくうちに、みるみる滑らかな白いお餅へと変化していった。

「おおー! めっちゃ綺麗なお餅になったぞ!」

無事に形になったお餅をバットへ移し、手粉をつけながら一口サイズに手早くちぎって丸めていく。試食にしてはかなりの量ができたため、場所を借りている渡辺さんの家族も「一緒にお昼食べましょう!」と招待することにした。

打ち立ての蕎麦は技術の差が露骨に出たが、蒸したての良いお米をみんなで力いっぱい突いたお餅は格別だった。

大根おろしを絡めたからみ餅、甘いあんこ餅、香ばしい磯べ焼き——どれを食べても柔らかく伸びがあり、口いっぱいに米の甘みが広がった。

「うまい! 蕎麦と違って、ちゃんとついて突き立てなら文句なしに激ウマだな!」

渡辺さんの家族も「美味しーい!」と大喜びで、みんなで賑やかに重箱を空にした。

「これなら年越しの本番もバッチリだな!」

「よし、年末休みに入ったら、みんなで集まって蕎麦打ちと餅つきの最終準備を一気にやろうぜ!」

自分たちの手で作り上げる最高の年越しに向けて、おじさんたちの笑顔と計画は、いよいよ勢いを増していくのだった。

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