職人の技と、巡り来る人の縁
週末、サークルの溜まり場に集まった佐藤たちは、年末に向けた「年越し蕎麦」と「餅つき」の準備について話し合いを始めた。
「蕎麦を打つための大きなこね鉢や伸ばし棒、餅つきの臼と杵だな。なんとなく必要なものは分かるし、まずはホームセンターでも覗いてみるか!」
買い出しを兼ねて車を走らせていると、道沿いにある昔ながらの蕎麦屋の店先に「手打ち蕎麦」の大きな看板を見つけた。ガラス張りの作業場では、ちょうど店主が蕎麦を打ち始めるところだった。
「おお、ちょっと見ていこうぜ」
吸い寄せられるように店に入り、食い入るようにガラス越しに見学するおじさんたち。あまりに熱心な視線を感じたのか、作業の手を止めた店主が苦笑いしながら話しかけてくれた。
「お客さんたち、そんなにじっくり見て、どうかしたかい?」
渡辺さんが「実は年末にサークル仲間で手打ち蕎麦をやろうと思っていて……」と理由を話すと、店主の表情がパッと和らいだ。
「なんだ、そうだったのか! それなら昔使っていた予備の道具が一式余ってるよ。よかったら貸してあげるよ」
思いがけない申し出に全員で大喜びし、お言葉に分かつて借りることにした。しかし、佐藤はあることに気づく。
「……マスター、さっき一通り見せてもらいましたけど、正直これ見ただけで打つのは無理ですよね?」
「だな。水の回し方とか伸ばし方とか、全然分からん!」
そこで佐藤は「すみません! 道具を借りておいて図々しいんですが、次の回ももう一回見学させてもらえませんか?」と頭を下げた。店主は「ガハハ! いいよ、じゃあ次は解説しながら打ってやるよ!」と快く承諾してくれた。
2回目の見学では、粉と水の比率、手のひらを使った「木鉢作業」のこつ、生地を均一に伸ばす「のし」の技術など、職人ならではのポイントを分かりやすく説明してもらった。
「すごい……一回目と全然見え方が違う!」
深く感銘を受けた一行は、お礼を伝えてから店内で打ち立ての蕎麦を注文。口いっぱいに広がる香りと喉越しを堪能し、最高の心地で店をあとにした。
「道具は年明けの落ち着いたタイミングで返してくれればいいからね! 頑張って美味いの打ちなよ!」
店主の温かい見送りの言葉に背中を押されながら、車へ乗り込む。
「さて、蕎麦の道具はなんとかなったけど、問題は餅つきの臼と杵だな」
移動中の車内で高橋さんが呟くと、喫茶店のマスターがポンと手を打った。
「それなら心当たりがあるよ。商工会が毎年年始に地域イベントで餅つきをやってるから、臼と杵を持っているはずだ。僕から商工会に連絡して、借りられないか相談してみるよ」
「本当ですか! 助かります!」
人の縁と温かさに助けられ、年末の一大イベントに向けた準備は、最高の形で動き始めるのだった。




