人柄の勝利と、ぬくもりの年越し計画
週末、サークルの溜まり場である喫茶店へ向かうと、カウンターにはさっそく最新のレジシステムとピカピカのタブレット端末が設置されていた。
見渡すとテーブルの上には注文用の二次元コードが配置され、すっかりハイテクな装いになっている。しかし、店内の光景は以前と何一つ変わっていなかった。
「マスター! コーヒーおかわり!」
「マスター、注文直接言っちゃっていい?」
店に入ってくる常連客たちは、テーブルの二次元コードなど一瞥もせず、いつものようにマスターへ声をかける。二次元コードを使って注文しているのは一見の客くらいのようだったが、マスターが注文の品を運ぶついでに「どちらから来られたんですか?」なんて気さくに会話を交わすものだから、結局その客たちまで「マスター、追加のケーキ直接頼んでいいですか?」と笑顔で話しかけるようになっていた。
(最新のシステムやAIも、マスターの人柄と田舎の温かいコミュニケーションにはまったく叶わないんだな……)
機械を置き去りにして笑顔が溢れる店内の空気に、佐藤の心はどこかほっこりと温かくなった。マスター自身も「流行りに乗ってみただけだからねぇ」と笑っており、システムの稼働率なんて最初からまったく気にしていない様子だった。
しばらくすると、サークルメンバーの渡辺さん、小林さん、高橋さんが賑やかに入ってきた。
「佐藤くん! もうすぐ今年も終わりだぞ。どうだ、今年はサークルの手作業の締めくくりとして、みんなで『手打ちの年越しそば』作ってみないか?」
渡辺さんが身を乗り出して提案すると、小林さんも目を輝かせた。
「いいな! 地元の蕎麦粉を手に入れてさ、粉をこねて、伸ばして、切るところから自分たちでやるんだ。で、年が明けたらそのまま『餅つき大会』もやろうぜ!」
「手打ち蕎麦に、つきたてのお餅……! それ、絶対に最高じゃないですか!」
会社のAI導入でギスギスしていた頭が、おじさんたちのワクワクするような手作り計画によって一気に吹き飛んでいく。
蕎麦打ちの道具はどうするか、餅つきの臼と杵は誰から借りるかなど、あれこれとアイデアを出し合っているうちに時間はあっという間に過ぎ、気がつけばすっかり夕飯の時間になっていた。
「よし、じゃあ準備の段取りはまた来週決めよう!」
「気をつけて帰れよー!」
楽しい余韻を胸に解散し、各自それぞれの家路につく。手渡されたハイテクな機械に振り回される会社とは対照的に、自分の手で季節を味わい、仲間と温かい時間を紡いでいく贅沢さを、佐藤は改めて噛み締めるのだった。




